我孫子市在住の日本舞踊家・若月仙之助さんが、10月21・22日に市内「ふれあいホール」にて、創作歌舞伎舞踊『手賀沼今昔ものがたり』を開催。

手賀沼に伝わる藤姫伝説と平将門伝説を大胆にもドッキングさせた物語で、かつキャストやスタッフの約3分の1が我孫子市民という、地元を強く意識した作品です。

舞台を通して伝えたい、日本の伝統文化や地元への想い、初の自主公演への意気込みをご本人に伺いました。

日本舞踊家・若月仙之助さん

公開 2022/09/09(最終更新 2024/02/29)

野中真規子

野中真規子

フリーライター歴20年。取手市出身。2021春に東京から我孫子市に移住し、手賀沼周辺の水辺や豊かな緑、遺跡、史跡、ユニークな個人商店などに囲まれた生活を満喫中。スパイスと魚影、日本語ROCK、RAP、民族的デザイン、音楽、祭り好き。https://makikononaka.com/

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舞踊家・日本の伝統文化の魅力発信者として世界的に活躍

日本舞踊家・若月仙之助さん サウジアラビアの砂漠にて
サウジアラビアの砂漠にて

日本舞踊家で、日本の伝統文化を広めるイベントも数多く運営している若月さん。

国内各地や海外で年間約200公演をこなし、教育機関約30カ所を回るなど精力的に活動中。舞踊との出合いは3歳の頃だったそう。

「北柏にある日本舞踊・若月流宗家の長男として生まれ、幼少期から舞踊を習い、自然に続けてきました。

学校に入ってから『みんな踊りをやっていないんだ!』と気づいた感じですね(笑)。

三人兄弟で、現在は私と一番下の弟が舞踊を続けています」(若月さん)

高校生までは北柏の実家に住み、大学進学とともに都内へ。

日本大学芸術学部・演劇学科の日本舞踊専攻コースで学ぶ中で、歌舞伎研究家に話を聞いたことをきっかけに、歌舞伎に興味を持ったといいます。

成田空港にて伝統芸能パレード
成田空港にて伝統芸能パレード

「大学卒業後は歌舞伎役者の養成学校に入り、国から支援を受け、本番にも出させていただきながら3年間研修を受けて、歌舞伎役者になりました。

役者生活では学ぶことも多くありましたが、だんだんとお客さまを待つだけではなく『自分から日本の伝統文化の魅力を発信したい』という気持ちが強くなっていきました。

というのも、伝統芸能や伝統工芸に携わる人はみんな『仕事にならないから自分の子どもには継がせたくない』と言うのです。

このままでは何百年も続いた日本の伝統文化がつぶれてしまうと危機感を持ちました。

伝統文化を仕事として成立させ継続するためには、多くの方に興味を持っていただく必要がある。

そこで専業としての歌舞伎役者はやめて、伝統文化を伝えるイベント会社を立ち上げました

市原の小学校にて芸術鑑賞会
市原の小学校にて芸術鑑賞会

そうして若月さんは、日本舞踊家として演じることも続けながら、国内外のイベントや教育機関において、歌舞伎舞踊、能、和楽器、着物、工芸といった伝統文化の魅力を広める活動を始めました。

中国にて、ケニアの伝統芸と日本の伝統芸能のコラボ
中国にて、ケニアの伝統芸と日本の伝統芸能のコラボ

家庭を持ち、以前から魅力を感じていた地元へUターン

学生時代に自転車で手賀沼を一周したことなどもあり、地域の豊かな自然や居心地のよさは以前から感じていた、と若月さん。

結婚して都内から北柏に戻り、さらにお子さんが生まれ、3年前には娘さんの学校への便がよい我孫子に転居しました。

「それから滝前不動や満天の湯など地元で行われるイベントにも出させていただく中で、今度は自分でも地元のために何かしたいという気持ちが強まっていきました。

我孫子周辺には平将門や河童などにまつわるさまざまな伝説など文化資産が豊富にありますが、だんだんと忘れられてきています。

自分が子どもを持ったこともあり、こうした文化資産を未来に伝えたいと感じて、手賀沼をテーマとした初めての自主公演を決めました

北柏にある若月仙之助さんの舞踊教室
若月さんは北柏にある自らの舞踊教室で指導も行っています

悲劇のヒロイン藤姫の物語に、平将門が登場!

『手賀沼今昔ものがたり』のジャンルは「創作歌舞伎舞踊」。

「歌舞伎舞踊」とは歌舞伎の演目の合間に行われる踊りのことで、日本舞踊の一種です。

ストーリーは藤姫伝説と平将門伝説を大胆にもドッキング。

藤姫伝説は知らない方も多いと思いますのでご紹介しましょう。

室町時代、手賀沼の我孫子側に住む戦国武将・我孫子五郎の美しい娘・藤姫と、対岸の柏側に住む戸張弾正のりりしい息子・若狭之介はいいなずけだったが、嫉妬に狂った藤姫の継母が若狭之介を殺害。さらに「若狭之介の死体を沼で見た者がいる」とうそをつき、穴を開けた船へと藤姫を促す。手賀沼に沈みながら藤姫は全てを悟り、沼の底に着くや否やその怨念でオロチ(大蛇)となり、継母を一飲み。オロチはやがて沼に近づくもの全てを沼に引きずり込むようになり、漁師たちも仕事できず困っていると、通りかかった旅の山伏がオロチを撃退。さらに祭壇にあった柱を沼に投げ込むと、柱が大ウナギに変わり、沼の主となった。それからオロチは一切現れず、漁師たちは安心して魚を取れるようになり「手賀沼の大ウナギは守り神。捕らえたり追ったりしてはいけない」と言い伝え続けた。

 

「私はこの物語を妻から聞いて、歌舞伎舞踊のテーマとして魅力的に感じ、さらに我孫子に住んでいたという平将門を山伏として登場させる物語を考えました。

藤姫は室町時代、将門は平安時代と生きた時代は違いますが、将門は死んでもなおこの地で市民たちを守る存在。

山伏にぴったりではないでしょうか。

舞台には我孫子で愛され続ける『河童音頭』も盛り込みました。

盆踊りは本来、死者を招いて一緒に踊るものですが、河童音頭にはこの世とあの世の中間にいる河童までもが出てくる。

人間が死者や妖怪とも交流し合える踊りです。

私は、昔の日本人にはこの世とあの世を容易に行き来して交流する感覚があったと感じていて、そうした日本人の精神性を取り戻したい想いもあります。

ですから今回の舞台には『死者の交流』という裏テーマも含めています」

手賀沼今昔ものがたり

チラシのデザインは若月さんが原案を構成。

「両脇の顔は歌舞伎の隈取りを、真ん中の水は手賀沼をイメージしています。

隈取りは怒ったときに浮き上がる血管の筋を表していて、赤いほうは血が通った人間とこの世、青いほうは死者とあの世を表現。

手賀沼の両岸にいる藤姫と若狭之介も意味しています」

子どもから大人まで楽しめる演出。生演奏や、大迫力のオロチも登場!

見どころは、日本舞踊や歌舞伎舞踊が初めてという方や、子どもでも楽しめるような踊りや生演奏、殺陣の立廻りなど、エンターテイメント性を高めた演出だとか。

「通常の日本舞踊の舞台ですと、役者は1つの衣装のままで老若男女さまざまな役柄をこなしますが、今回はすべての役柄に衣装とかつらを作って豪華に演出。

9メートルのオロチも登場しますよ。

我孫子の子の神神社(子の神大黒天延寿院)の白ねずみにちなんだかわいいねずみも出てきます。

音楽は、日本舞踊の場合三味線と鼓などが一般的ですが、今回は津軽三味線、和太鼓、十七弦(琴)と、華やかな組み合わせで演奏します。

またキャストやスタッフの約3分の1が我孫子市民で、みなさん国内外で活躍している先鋭ぞろい。

我孫子在住でアイドル的な人気がある殺陣師の兼田玲菜さんや、梅沢富美男劇団に所属する田代大悟さん、若月流宗家で父の若月仙之亟、母の吉村藤園、弟の若月亮も出演します。

かなり気合いを入れて予算もかけていますが(笑)、地元の方に気軽に来ていただけるような価格にしています」

手賀沼今昔ものがたり

市民参加型の舞台を作り、地元の文化資産を盛り上げたい

この公演をきっかけに、ゆくゆくは市民参加型の舞台を作っていきたい、と若月さん。

「舞台の一部を一般の方が演じて、発表できるような演目に育てたいですね。

お子さんでも地元にまつわる舞台を演じたり関わったりすれば、地元を愛する気持ちが育ちます。

その気持ちは自身の誇りにつながりますし、歴史、文学、地理、環境などさまざまな学びにもなる。

地域全体としても、舞台にちなんだお祭りやお菓子などの新たな名物などもできると豊かになると思います。

河童といえば遠野物語が有名ですが、我孫子の河童だってもっと盛り上げていきたいですよね。

バルト三国ツアー公演にて、立廻りと古典舞踊
バルト三国ツアー公演にて、立廻りと古典舞踊

文化資産は人の関心が薄れるとすたれてしまいますが、気持ちのある市民の方一人ひとりが興味を持ち、つながり合うことでその価値を高めていけます。

舞台のようなエンターテインメントもそのきっかけになる。

将来的には、我孫子で子どもたちが伝統芸能の舞台に気軽に立てる環境や、ブロードウエーのような、地元にショーを見られるスポットも作れるといいなと思います。

そうしたことをかなえるためにもまずは、ぜひ多くの方に今回の舞台を楽しんで、地元の魅力を感じていただきたいです。

みなさまのご来場を、心よりお待ちしております!」

日本舞踊家・若月仙之助さん
「日本舞踊や歌舞伎はハードルが高いイメージがあるかもしれませんが、ぜひ気軽に楽しみに来てください」と若月さん。誠実なお人柄が伝わるお話しぶりが印象的でした!

 

『手賀沼今昔ものがたり』
(チケットweb販売ページ) http://confetti-web.com/kikakuya

公演日時
10月21日(金) 
昼の部 開演14:00

22日(土) 
昼の部 開演11:00
夜の部 開演16:00            
(開場 各30分前、上演時間100分を予定)

料金
一般チケット3,000円 
U18チケット1,000円
配信チケット2,000円

公演会場 「ふれあいホール」
〒270-1151千葉県我孫子市本町3-1-2(けやきプラザ内)

アクセス
「電車」JR常磐線 我孫子駅南口 徒歩1分
「駐車場」けやきプラザ駐車場 92台30分無料、以降30分100円

問い合わせ/info@kikakuya.biz