船橋市出身・在住のイラストレーター山田タクヒロさんが創り出す、日常と非日常の世界観。
親しみやすいタッチは私たちの身近に寄り添い、書籍・広告・雑誌の表紙や挿絵・店舗ロゴデザインなど、実に幅広く用いられ注目を集めています。
12月に開催予定の個展は、静かで穏やかな中に存在感を主張する優品に出合える機会。
山田さんの温かな人柄と、独自の作風の魅力についてお伝えします。
公開 2022/11/04(最終更新 2023/12/25)

目次
夢を追い続ける、イラストレーター山田タクヒロさん
船橋市坪井町にて、看板屋を営むご両親のもとで育った山田さん。

木材の切れ端・針金・ねじやボルトなどの金属素材に囲まれ、幼少時から工作をしたり絵を描いたりすることが大好きだったと話します。
高校生のころ、母が買ってくれた『イラストレーションファイル』をきっかけに、イラストレーターになるという夢を抱きます。
第一線で活躍するイラストレーターを余さず収載する、日本で最も歴史ある年鑑。
「この本に載るのが夢でした」とまぶしそうに笑って当時を振り返る山田さんは、日本大学芸術学部を卒業後、約5年間アルバイトをしながら自身の絵をデザイン事務所などに売り込む日々を過ごしました。
「在学中、ゼミの安西水丸先生から言われた『きみはイラストレーターになれるよ』という言葉を糧に、描き続けました」と、その記憶をかみしめるように振り返ります。
その後、本格的にイラストレーターとしてさまざまな仕事に携わるようになり、今年で22年。
表紙を含むイラストを担当した作品は100冊以上、雑誌や参考書、企業リーフレットなどの挿絵は数千点以上にのぼります。

山田さんがイラストやデザインを手がけた書籍の中には、1960~1970年代の英国ロック・ポップスを扱った作品も多くあります。
「大好きな音楽作品にイラストを通して関わることができるのはうれしいですね」と会心の笑みで話します。
恩師の言葉を原動力にアートの道を開き続け、夢だった『イラストレーションファイル』には2004年以来、18年間ずっと掲載される存在になった山田さん。
ジャンルを問わず多方面で活躍する現在も、少年のような笑顔で明日、そして未来への希望と目標を話してくれました。
出会いと交流から生まれていく地域の店舗ロゴデザイン
2011年の東日本大震災を機に、山田さんは活動拠点を都内から生まれ育った船橋市に移しました。
地域のアートイベントなどに講師やボランティアの運営スタッフとして関わりながら、熱量ある出会いと交流を重ね信頼関係を築く中で、山田さんは地域のお店のロゴデザインを手がけるようになります。
「どんな活動内容なのか、そのお店の特徴や携わる人の思い・背景などを丁寧にヒアリングして、何度もやり取りして調整しながら、長いときは半年間くらいかけて仕上げます」と山田さん。
人とのつながりを何より重んじ、人を、事業を応援したいという真摯で誠実な姿勢がうかがえます。
ではここで、山田さんがデザインした看板ロゴの一部をご紹介しましょう。
船橋市西習志野にあるCafé Delizo(カフェ・デリゾー)。
地域の農家さん直送の新鮮な野菜をふんだんに使ったお総菜やお弁当が人気のお店です。
山武市にて、コーヒー豆の焙煎やコーヒースタンド、キッチンカーを出店する福笑屋珈琲(ふくみやコーヒー)。
福島県出身のオーナーさんの、冬山に雪が積もる様子がうさぎに見える、という話からこのロゴデザインが生まれたそう。
船橋市七林町の、靴と革のアトリエmu-ra works(ムーラワークス)。
木型を使わず、ひとりひとりの足を計測して一足ずつ丁寧に作り上げる靴が支持を集めています。
代表の村上恭子さんとは、家族ぐるみのお付き合いだそう。
船橋市坪井東にお店を構える、めおと珈琲焙煎所。
1986年創業、2代目の夫婦が二人三脚で営む思いを日本の古き良き「招き猫」に重ね、手元のコーヒー豆は遠い国の農家さんへ心を寄せるさまを表現しています。
「あ! 見たことある!」「知ってる!」と感じたロゴデザインはあったでしょうか?
地域イベント「つながるたのしみ、グッドネイバーズ」を企画・開催
2021年6月に第1回目を開催した「つながるたのしみ、グッドネイバーズ」。
坪井町にある敷地約150坪の庭園873Village(ハナサンヴィレッジ)を舞台に、ハンモックリフレクソロジー、台湾茶、革作家やお花など、船橋市内外で活躍する出店者が集まり、地域で楽しくすごそう!と企画した不定期開催のイベントです。
2022年9月には新しい参加者も加わり、にぎやかに第3回目が催されました。
靴と革のアトリエmu-ra works村上さんの「ご近所さんで何かやらない?」という声かけに端を発し、山田さんをはじめ個性豊かな仲間たちが力を合わせて運営にあたる、みんなに居心地のいい時間と空間。
山田さんは「千葉のダークスポットTシャツ第2弾」として制作した「光化学スモッグ」をモチーフにしたTシャツを携え出店。
ちなみに第1弾は「穴川十字路渋滞Tシャツ」だったそう。(興味のある方は山田さんのホームページで探してみてくださいね)
グッドネイバーズは不定期開催とのことですが、地域のお楽しみイベント、次回に期待がふくらみます。
個展「鳥とサムシング」7th season 12月9日から開催 見どころは?
イラストレーターとして多方面で活動する傍ら、山田さんは2018年から鳥をテーマにした創作活動「鳥とサムシング」にも取り組んでいます。
「デフォルメされたニワトリの形が好きなんです」と話す山田さん。
デフォルメとは、フランス語で「変形する、歪曲する」という意味。
対象物を自然の形に忠実に模倣するのではなく、変形し、時に強調して表現する手法のことです。
「鳥について全然詳しくないし、バードウオッチングもしません」と笑いながらいくつか鳥モチーフの作品を見せてくださいました。
古道具や、山田さんが「たからもの」と呼ぶガラクタ類を集め、12月の個展に向けて目下制作中とのこと。
7回目となる今回は、古道具を鳥に見立てたブロカントバードや、天井から吊るして飾るモビールをメインに、絵や木版画などの展示・販売を行うそうです。
(ブロカント:フランス語で「古道具」の意味。ものを大切に長く使うという欧州文化から生まれた、「美しいガラクタ」が語源)
昨年11月には、習志野市本大久保にあるギャラリー「林檎の木andR」にて開催した山田さんの個展。
「鳥とサムシング」作品のひとつ。
セメントの跡が残る古い小さなコテ、それが山田さんの手で鳥に生まれ変わる瞬間。
山田さんが得意とする木版画。
眺めるほどに心が温まるような、静かで豊かな表情に引き込まれます。
山田さんはこの先も、自身の作品を創り続けていきます。
「続けるためには、楽しむことが大切」との言葉には、20年以上にわたり作品を求められそして認められ、結果を残し続けてきた山田タクヒロさんの自由でしなやかな矜持を感じます。
苦心するのは「ああでもない、こうでもない」と、アイデアを生み出す時間。
「うれしいのは、見本誌が送られてきたときですね。自分の仕事が作品に仕上がったものを目にするのはとてもうれしい」と表情をほころばせます。
船と釣りが好きで、絵描きになる夢を抱いていた父。
山田さんが自分なりに将来を案じ、大学は社会科学系の学部を受験しようと考えていたとき、「そんなの勉強してどうするんだ」と、芸術学部への進学を後押ししてくれたといいます。
「親父からは大きな影響を受けていると思います」と穏やかに話す山田さん。
朗らかで温かく、家族や友人、地域のつながりを丁寧に紡ぎ、守り、創作活動を通して長く光を放ち続ける存在であると、今回お話をうかがってあらためて感じました。
あなたもきっと、どこかで出合っている、山田さんが手がけたイラストや作品。
今後も私たちに身近に寄り添い、私たちの心を打ち、日常・非日常の楽しみを届けてくれる作品を心待ちにしています。
山田タクヒロさん個展
鳥とサムシング 7th season ~Hazy shades of winter~
会場/Le Tiroir(ル・ティロワ)
住所/東京都新宿区早稲田鶴巻町547大森ビル1F
日時/2022年12月9日(金)~12日(月)
12時~19時
問い合わせ/03‐6233‐7320
インスタグラム/@le_tiroir_waseda
山田タクヒロさん
HP/https://yamadatakuhiro.myportfolio.com/
インスタグラム/@coquetcocco
「鳥とサムシング」
インスタグラム/@birdandsomething