10月31日、長年ウィキペディアに携わり管理者経験もある海獺(らっこ)さんを講師に招き、JR市川駅直結の市川駅南口図書館で「駅南ウィキペディアタウン」が開催されました。
ウィキペディアの編集や地元の歴史に興味のある人など8人が集まり、記事の作成に挑戦しました。

公開 2022/12/19(最終更新 2022/12/16)

編集部 R
「ちいき新聞」編集部所属の編集。人生の大部分は千葉県在住(時々関西)。おとなしく穏やかに見られがちだが、プロ野球シーズンは黄色、Bリーグ開催中は赤に身を包み、一年中何かしらと戦い続けている。
記事一覧へウィキペディアタウンとは?
「ウィキペディア」は世界中の人々に利用されているオンライン上の百科事典。
世界で5番目にアクセス数の多いサイトで、寄付によって運営されています。
編集上の三大方針は以下の通り。
(1)中立的な観点
(2)独自研究(自論)は載せない
(3)検証可能性(出典の明記)
内容が偏らないように、既に広く知られていることを客観的資料に基づいて書くこと。
これを守ることを前提に誰でも編集に参加でき、無料で閲覧したり再利用したりできるのが特徴です。
「ウィキペディアタウン」とは、ウィキペディアの編集作業を参加者が共同で行うイベントの総称。
町(タウン)以外をテーマにしているものも含まれますが、文字通り町への関心を呼び起こすためのイベントは各地で盛んに行われています。
今回の企画もその一つ。
イベントの基本的な流れは次の通りです。
(1) ウィキペディアに関するガイダンス
(2) 町歩き・撮影
(3) 資料・文献探し
(4) ウィキペディアを編集・加筆・作成
(5) 成果発表
これらの作業を通じて参加者は地元の事を知り、地域内での世代間交流も生まれやすいというメリットがあります。

ちなみに清華園や東山魁夷記念館など市川市民にとっておなじみの施設でも、ウィキペディア内に紹介ページがないものもあります。
生まれた時からスマホが存在する世代は、ネット上に情報がないものイコール価値がないもの、と見なす傾向があるのだとか。
つまり地元の事物を調べてアップすることは、地域の魅力を外部に発信し地域振興に役立つ活動だと言えましょう。
今回は、かつて市川市内に存在したという「市川関所」と「鈴本演芸場」の記事作成を行いました。
ボランティアガイドと共に市川関所跡へ
市川関所のページを作成するグループに同行することにしました。

「小岩・市川関所」は江戸時代、幕府防衛のために置かれた関所の一つ。
この関所は江戸川区側と市川側対岸に対で一つずつあり、小岩側の関所についてはウィキペディア上に解説ページがありましたが市川市側のページはありませんでした。
そこで、今回のイベントでそのページを作成しようということになったのです。
参加者を率いて解説をしてくれるのは、「ボランティアガイド 市川案内人の会」の石田道男さん。
市川生まれ・市川育ちの石田さんの先導で、メンバーは駅南図書館から江戸川沿いへと移動します。

江戸川の土手に「市川関所跡」がありました。
しかし、実際に市川関所があった場所はここではないとのこと。
案内板にも「度重なる江戸川の護岸工事で、関所の建物や渡船場の正確な位置は、今日不明となっている」とありました。


石田さんの話によれば、関所の近くには元禄創業で昭和18年まで営業していた「市野屋」という料亭があったそうです。
「戊辰戦争の時は官軍の宿舎になっていました」と紹介がありました。

「市野屋」の看板娘にまつわる流行歌、市川橋を巡る江戸川区と市川市の間のいざこざなど、石田さんが若い頃に土地の古老から聞いた話なども交えて教えてくれました。
一行は再び駅南図書館に戻り、いよいよ実際のページ作りに取り掛かります。
いよいよウィキペディアの編集作業本番へ

本番に先立ち、参加者たちは午前中に編集作業の練習をしていました。
その時、「ウィキペディアの編集において特に重要です」と海獺さんから教わった作業が「参考文献の入力」です。
「ウィキペディアの情報は信頼できるのか?」という疑問を耳にしたことはないでしょうか。
実際、誰でも書き込みや編集作業ができるため、誤った情報や悪意からのいたずらが書き込まれる可能性はあるのです。
それらは気付いた人が誰でも削除や修正することができますが、アップされるのを未然に防ぐことはできません。
ならばウィキペディア上の情報は無意味なのか?というとそうでもなく、参考文献を記すことで、閲覧者は情報を深くたどる道しるべを得ることができるのです。
そのため、いかに信頼できる参考文献から関連する記述を見つけるかが、ウィキペディア編集・作成の肝となります。
地域に関する資料を最も多く保管し、情報を探しやすいのはどこでしょう?
正解は自治体が管轄する地域の公立図書館。
図書館でウィキペディアタウンが開催されることが多いのは、そういう強みがあるためです。
とはいえ膨大な資料の中から該当部分を探し出すのはなかなか大変な作業。
この日は駅南図書館の方で事前に関連書籍をピックアップし、関連のありそうなページに付箋を貼って、時間内にある程度ページ作成ができるよう、準備してありました。

参加者たちは解説ページの「概要」「歴史」「役割」「位置」といった項目ごとに分担を決め、資料の記述を参考に自分の文章で入力し、参考文献を記していきます。
この日の成果として出来上がったのが以下のページです。
https://ja.wikipedia.org/wiki/市川関所跡
こうしてウィキペディア上に新しい項目が追加されました。
講座の最後、海獺さんは「ウィキペディアをUSBメモリやPCにそのまま入れることで、ネット環境のない場所でも百科事典を使えるようにする『KIWIX』というプロジェクトがあります」と紹介。
ウィキペディアに情報をアップするということは、質の高い教育を全ての人に届けられる有意義な行為であると語りました。
海獺さん自身、何かに興味を持った時に「今この情報を自分が残しておかないと、いずれ忘れ去られて消え去ってしまう」という思いに突き動かされてアップすることもあるそうです。
自分がアップした情報が誰かの役に立つかもしれないウィキペディアの編集作業。
市川市駅南図書館では来年以降もウィキペディアタウンの開催を予定しているとのこと、興味のある人は参加してみてはいかがでしょうか。