日々に忙しいと、季節ごとの行事はしきたりが多く気後れしている人も多いのでは? 「形にとらわれることなく、根本の願いや気持ちを大切に楽しむことが大事」と市原市の宝林寺住職で仏教学者の千葉公慈さんは話します。
公開 2023/01/04(最終更新 2022/12/27)

閑(ひ ま)
編集&記者。佐倉市在住。閑と書いてひまです。休日は引きこもりの完全インドア派ですがロッキンは毎年全通します。運動は歩くのが限界です。★Twitter★@chiiki_hima
記事一覧へ感謝や願いを込めて広まった祭り
世界を見ても日本は祭りが多いといわれています。
全国のどこかで一年中祭りをやっていると言っても過言ではありません。それだけ日本人は儀式や節目を大切にしてきました。
それは日本人がもとは農耕民族だったから。昔は自然の恵みがなければ、田畑を育てることができませんでした。そこから五穀豊穣や命への感謝を神に祈るようになったと考えられています。
また、日本は高温多湿で腐食腐敗が早い国。細菌やウイルスと共に生きてきて、病気や死が身近にありました。それが現在も根付く「すべてのものに魂が宿り、生まれ死んでいく」死生観につながったのです。
祭りは年中行われていますが、それぞれ込められている願いが異なります。
夏と冬には健康祈願や厄除けを願う祭りが多く、春と秋は実りを祈ったり恵みを感謝したりと五穀豊穣に関わる祭りが行われます。
祭りそのものを楽しむことはもちろん、込められた願いを意識して過ごせば、さらに開運につながるでしょう。
形にとらわれず願いを大切に楽しんで
祭りと共によく親しまれている行事として「五節句」があります。
「五節句」との言葉になじみがなくても、「ひな祭り」や「七夕」と聞けば誰もが分かるのでは。五節句も祭りと同じように、神様に願いや感謝を届ける行事です。もとは「節供」と書き、稲など農作物含めて命を頂くことに感謝し、供養するために始まりました。
1月7日に行われる人日(じんじつ)の節句。
ナズナ、セリ、ゴギョウ、ハコベラ、ホトケノザ、スズナ、スズシロの七草をかゆに入れて食べる習わしです。古来は生まれたての物が最も生命的なエネルギーが強いと考えられてきました。その若々しい命を頂くことで、長寿健康、ひいては立身出世など人生そのものの活躍を願うのです。
大切なのは「初物である」こと。最近ではフリーズドライなども出ていますが、エネルギーあふれる初物、さらに言えば自身が生きている土地の物が最も心身ともにリフレッシュできます。
七草にこだわらず、そろえられるものや他の初物に置き換えるなど、できる範囲で行えたら良いでしょう。
3月3日の上巳(じょうし)の節句は、今は女の子のための行事、ひな祭りとして親しまれています。
ですが昔は、男女問わず子どもの健康を願うものでした。現代よりも衛生面が悪く医療も発達していないので、より命の危険と隣り合わせでした。人型の人形に病気などの厄を移し、身代わりになってもらおうと始まったのです。男の子がいるご家庭でも、ぜひひな人形を飾って子の安全を祈りましょう。
注意したいのは、厄を被った人形がいつまでもそばにあること。ひな人形は早く出すには問題ありませんが、3月3日を過ぎたらなるべく早くしまうことを心がけましょう。
3月の女の子に対して、男の子のための行事として知られる5月5日の端午(たんご)の節句。
実は3月と同じように昔は男女関係なく、子どもの成長を願うしきたりでした。菖蒲湯や菖蒲酒が今も伝わっていますが、武家社会の時代に菖蒲を勝負とかけ、男子の行事となったと考えられています。
こいのぼりは、中国の「登竜門」という1匹の子魚が竜になって天界に昇った故事から、子どもの成長や出世を願うようになりました。田植えの時期、山から下りてきた神の風(山の神(さ))に包まれて大きな口を開けて泳ぐこいのぼりが、立派に成長してほしいという願いを体現しています。ぜひこいのぼりは風を受ける外に飾るのが良いでしょう。
7月7日の七夕(しちせき)の節句は織姫と彦星の逸話などさまざまな文化が混ざって現代に伝わっています。
もとは盆の前に身を清める、厄除けやみそぎの意味合いが強い行事でした。竹など腐りにくいものは霊力が強いと考えられていて、浄化作用があるとされる流水と掛け合わせた流しそうめんは、みそぎの食事として定着しました。
また、願いを書く短冊は流水に見立てた水切り型に切った物です。
9月9日に行われる重陽(ちょうよう)の節句は菊の節句とも呼ばれています。
菊は仏教では「春の牡丹、秋の菊」ととても大切にされている花。菊の重なり合った花びらが、命の生まれ変わる輪廻(りんね)や命の連なりを連想させたのです。菊が咲く頃、急激に気温が下がり結露が起きます。朝、菊に付いた露、「菊水」を飲むと不老長寿になるといわれていました。そこから転じて、無病息災や長寿を願って菊酒や菊料理を楽しむようになりました。