エアコンや冷蔵庫などを買い替えたとき、引き取ってもらった古い家電がその後どうなるかご存じですか?

それらは解体された後、いくつかの工程を経て再生素材に生まれ変わります。

新たな家電の材料となる他、大部分がさまざまな用途で再利用されているのです。

廃家電が素材に変身する現場、家電リサイクルの工場に行ってきました。

ハイパーサイクルシステムズ
マスコットのハイパーバード(ニワシドリ)がお出迎え

 

公開 2023/03/22(最終更新 2023/03/29)

編集部 R

編集部 R

「ちいき新聞」編集部所属の編集。人生の大部分は千葉県在住(時々関西)。おとなしく穏やかに見られがちだが、プロ野球シーズンは黄色、Bリーグ開催中は赤に身を包み、一年中何かしらと戦い続けている。

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不要になった家電がリサイクル工場に届くまで

見学したのは千葉県市川市にある株式会社ハイパーサイクルシステムズ(以下、HCS)の本社工場。

HCSは廃家電を解体して破砕し、金属やプラスチックを選別して「再生素材」を生産している、三菱電機グループの会社です。

家電リサイクル法の対象機器=家電4品目(エアコン、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機、テレビ)のうち、テレビだけは千葉市緑区にある千葉工場で処理していますが、その他はここ、本社工場に運ばれてきます。

家電はどういう経路でやってくるのでしょう?

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工場1階の搬入口に運ばれてきた廃家電

私たちが家電を買い替えて古い製品を引き取ってもらう際、「家電リサイクル券」の控えを受け取っているはずです。

これはリサイクルするための費用を支払ったことを証明するもの。

家電リサイクル券の本体は廃家電に貼られ、下の図のような流れでリサイクル工場に運ばれてきます。

廃家電がリサイクル工場へ着くまで

廃家電
HCSに運ばれてきた廃家電一つ一つにリサイクル券が貼られています


到着した廃家電は製品ごとの解体ラインに運ばれます。

ここからどのような工程を経て、再生素材に生まれ変わるのでしょうか?

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ショールームに展示されている、破砕選別後の金属やプラスチック

百聞は一見に如かず。

早速工場を見学させていただきました。

手解体ライン~まずは人の手で製品を解体する

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エアコンを処理する工場3階のフロア

最初の工程は「手解体」。

製品を手で解体し、再生素材として価値の高い部品を取り外して集めたり、フロンなどの有害物質を回収したりします。

エアコンを例に見ていきましょう。

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1階からエレベーターで運ばれてきた多くのエアコン。これらを作業員の待つ解体ラインに流します
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重い室外機を持ち上げるのは大変なので(↓)
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クレーンゲーム機のようなアームを使い、作業員の負担を減らしています

フロン回収工程

室外機の中には冷媒として使われているフロンがあるため、これを回収します。

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専用の設備を取り付け…
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タンクに回収。そのままフロン破壊・再生業者に引き取ってもらいます

フロンを回収し終わった室外機は解体ラインへ。

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室外機がベルトコンベアーで解体ラインに上がってきました
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外装カバーが取られ、ラインを流れていきます
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手作業で解体し、部品ごとに回収していきます

一方、室内機も…
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どんどん解体されていきます
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写真上部がエアコンの解体ライン。外した部品を品目ごとに回収口に投入し、階下の青いボックスで集めています
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こちらも回収ボックス

時季にもよりますが、1日700~1,000台を流れ作業で解体処理しています。
エアコン買い替えの時季などはとても忙しいとのこと!

そんな説明を聞きながら階下に移動。

2階には冷蔵庫の解体ラインがあります。

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冷蔵庫のフロア

単一の素材でできている野菜ケースなどは、破砕される他のプラスチックと混ざらないよう、あらかじめ回収し、個別に破砕処理を行い単一素材として回収します。

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部品を取り外して仕分け
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専用の破砕機へ投入し、単一素材として回収

破砕機で細かくし、金属やプラスチックなどの素材ごとに分離

手解体されて残った本体部分は、破砕機(シュレッダー)に投入されます。

HCSには大型の「共通破砕機」と冷蔵庫専用の「冷蔵庫破砕機」、基板やモーターなどを破砕する「基板破砕機」の3機があります。

この工程では冷蔵庫の破砕を見ていきましょう。

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2階から降ろされた冷蔵庫。破砕機へ向かう
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破砕機の中で冷蔵庫が粉々になる様子をモニターで見ることができます
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高速回転する鋼鉄製のハンマーによって破砕される冷蔵庫。ダイナミックに破砕されています(右上)

家電が破砕されてできた破砕物は、続く選別工程へと送られます。

Q. なぜ冷蔵庫にだけ専用の破砕機があるの?

A. 冷蔵庫で断熱材に使われているフロンを回収するためです

破砕後、フロンを活性炭に吸着させ、液化して回収しています。

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フロンを吸着するために使用している活性炭(右)とウレタン。ウレタンは粒状にし、石炭の代替燃料として再利用されます

 

磁力・電力・風力…さまざまな選別技術を使い、素材ごとに選別!

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1階にある選別ラインの選別装置群

選別工程では、破砕物を、鉄・非鉄金属・混合プラスチック・ダストなど、素材ごとに選別・回収します。

選別工程 家電リサイクル

磁力選別の仕組みハイパーサイクルシステムズ
ローラーを流れてきた破砕物のうち、鉄(紫)だけ引きつけて
回収(HCSホームページより)

非鉄選別の仕組みハイパーサイクルシステムズ
磁石のS極とN極が高速で回転することにより、非鉄金属に発生する渦電流が発生し、非鉄金属が反発することを利用して回収しています。非鉄金属だけ飛ばされ、プラスチックなどは反応せずそのまま落ちることで選別できます(HCSホームページ内の図を基に作成)

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選別工程を経て取り出された金属やプラスチック

混合プラスチックの選別・回収

回収した混合プラスチックはふるいにかけられ、粒の大きさをそろえた後、金属類を徹底的に取り除きます。

比重選別機の仕組み比重選別機の仕組み

振動や振動や風の力でプラスチックと金属などの異物を選別します(HCSホームページより)

純度を高めて回収された混合プラスチックは、三菱電機の関連会社・グリーンサイクルシステムズに送られます。

グリーンサイクルシステムズはHCS千葉工場内にあり、HCS本社から送られてきた混合プラスチックをポリプロピレン(PP)、ポリスチレン樹脂(PS)、ABS樹脂(ABS)といった種類ごとに選別。

それらはペレット化され、三菱電機の家電やその他製品の原材料として利用されます。
ペレット
三菱電機グループでは、混合プラスチック選別技術の開発により、80%以上のプラスチックをマテリアルリサイクルしています。

古くなって捨てられたエアコンなどの廃家電から、新しい家電製品に使用される再生素材(材料)が生みだされているのです。

工場内の選別機の中の様子は、直接見てもよくわかりません。工場見学の前にはショールームにあるデモ機を使って、選別機の仕組みを分かりやすく説明してもらえます。

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ショールーム。壁にはシステムを詳しく説明したパネルも
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デモ機。左から磁力選別機、非鉄選別機、乾式比重選別機

また、HCSホームページ内には、工場内の様子を360度見渡すことができる「バーチャル工場見学」のページもあります。

こちらもおすすめ! バーチャル工場見学

リアルでの工場見学について
個人単位での申し込みは受け付けていません。
会社や自治会など団体の形で主催と連絡責任者を明確にした上でご連絡を。

 

見学を終えて

HCSでのリサイクル率は何と97%(2021年度実績)。

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84%は金属やプラスチックなどの素材としてマテリアルリサイクルされています(「その他」の13%はサーマルリサイクルなどです)。

2001年に家電リサイクル法が施行される以前は、粗大ゴミとして自治体が回収処理を行っていましたが、廃家電の約半分以上はそのまま埋め立てられていました。

それが技術の進化と法の整備により、大部分がリサイクルされ、無駄なく使われるようになったのです。

それは、家電リサイクル法に則って正しく処理すればこそ。

環境のためにも、決して違法な処分はせず、正しく回収してもらいましょう。

株式会社ハイパーサイクルシステムズ
(HYPER CYCLE SYSTEMS CORPORATION)
本社工場/千葉県市川市東浜1-2-4
千葉工場/千葉県千葉市緑区大野台1-2-1
問い合わせ/047(327)5860
ホームページ/https://www.h-rc.co.jp/index.html