1932年、木更津に創業した銭湯「人参湯(にんじんゆ)」。
長年地域で愛されてきましたが、2011年12月に惜しまれつつ営業を終了しました。
1952年に宮大工によって建てられたという貴重な建物内では、現在「木更津焼きそば」が営業しています。
ソースの香り漂う銭湯で、日常から離れてレトロトリップを体験しませんか?
公開 2023/02/10(最終更新 2023/12/26)

花
48歳で普通自動二輪免許を取得したへっぽこアラフィフ主婦ライダー。千葉は魅力的なライディングスポットがたくさん!取材と称してソロツーを楽しんでいます。【ブログ】https://ameblo.jp/ohana-hann/
記事一覧へ非日常感満載の元銭湯・人参湯ツアーに出発!
木更津焼きそばが営業している元・人参湯は、木更津駅みなと口(西口)から富士見通りを木更津港方面へ徒歩約6分の場所にあります。
げた箱に入っているスリッパに履き替えて、男湯の扉から入店すると…
わあ!
懐かしいような、初めてのような不思議な空間に見とれていると、
「いらっしゃい」
と木更津焼きそば店主の小倉さんが迎えてくれました。
屋台から始まった木更津焼きそば。
人参湯の中に据えられた屋台は、開店当時からの相棒です。
自慢の焼きそばも気になりますが、まずは人参湯ツアーから始めましょう。
かつての脱衣所に、レトロなソファや座席が置かれています。
焼きそばはこちらでイートインも可能。
やはり目を引くのは、浴槽こそないものの、洗い場やシャワーはそのままの大浴場!
所せましと置かれる多くの楽器は、ほとんどが小倉さんの私物。
廃業した音楽スタジオから引き継いだものなんだとか。
「楽器はどれも自由に使ってくれていいですよ」と小倉さん。
確かにお風呂で歌うと気持ちいいですよね。
実は銭湯って天然の音楽スタジオなのかも!?

実は人参湯では以前から、地域のコミュニティースペースとして音楽ライブをはじめ、さまざまなイベントを開催してきました。
現在ももちろん受け付け可能。
ライブ開催希望の場合は、出演者一人500円(焼きそば+ドリンクチケット付き)で受け付けているとのことです。
大浴場いっぱいに描かれた壁画は、木更津焼きそばのお客さんでもある彫刻家の安部大雅さん、格闘家・竹内裕二さん、竹内さんの実兄で木更津市で活動する音楽家・ダニー坊やさんと地域の子どもたちにより、2021年12月に描かれました。
見ているだけでパワーをもらえるようなアートです!
また人参湯はアーティストのMVやドラマのロケ地にも使われ、聖地巡礼として訪れるファンも多いのだとか。
普段は使われていない女湯スペースにも入らせていただきました。
珍しい昭和時代のグッズが置かれています。
レジに筆記具。この空間だけ時間が止まっているみたい。
小倉さんに人参湯内のおすすめスポットを尋ねたところ、
「やっぱり番台かな。今の銭湯にはないからね」とのこと。
「番台に上った写真を撮らせていただいていいですか?」とお願いすると、
…衝撃! こうやって登るんですね。
なるほど、この階段はそのためにあったのか…!
「人参湯は文化施設だと思っているので、写真撮影や見学は全然OKですよ」
と小倉さん。

メニュー豊富な焼きそばを実食。幻の「インディアンソース焼きそば」とは
ではいよいよ木更津焼きそばを注文しましょう!
とにかくメニューが豊富で迷っちゃう。
「クリーム焼きそば」や「カレーがけ焼きそば」なんていう珍しいラインナップも。
「駅前で出店していた時、学生のリクエストに応えていたら増えちゃったんですよ」と小倉さん。
おすすめを尋ねると「こだわりの『インディアンソース』を使った焼きそばですね」ということで、
・インディアンソース焼きそば(500円)に、ばら肉(100円)卵(100円)をトッピング
・ネギ鳥の鉄板蒸し塩焼きそば(600円)
・焼きそば棒(100円)
をチョイス!

まずはインディアンソースを使った焼きそば。
独特のスパイシーなソースが、乾麺を使ったモチモチの太麺に合う~。
自分で作った焼きそばはべちゃべちゃしがちなんですが、高温で焼きあげた鉄板の焼きそばは全然違う!
具の天かすやトッピングのとろーりとした卵もいい仕事してます。
次にいただくのはネギ鳥の鉄板蒸し塩焼きそば。
ネギとニンニクの風味が利いてる!
中華料理店で食べる高級焼きそばの味がしますよコレ…。
好きだー!
最後は屋台時代に「片手で食べられるように」と考えたオリジナルメニューの焼きそば棒。
パリパリの皮で包んだモチモチ麺との相性が抜群でクセになる!
木更津焼きそばではアルコールも販売していますが、おつまみにめっちゃいいヤツやん。
これ、個人的に激推しします!
こうなると「たんたん麺風ピリ辛焼きそば」とか「納豆焼きそば(塩または和風)」も気になるじゃないですかー!
これは中毒になる人続出なのでは。

懐かしい味の記憶は引き継がれ、やがて千葉の名品グルメへ
木更津生まれ富津育ちの小倉さん。
子ども時代の大好物は、富津で食べた屋台の焼きそばでした。
会社員だった小倉さんは、夢だった飲食店での独立を目指します。
メニューに焼きそばを選んだのは、子ども時代の味が忘れがたかったからだとか。
小倉さんが初めて鉄板で焼きそばを作ったのは、当時住んでいた町内会のお祭りでした。
飲食店経験もあったことから、その後もPTA活動などでも焼きそば係を担当。
2007年に念願の「木更津焼きそば」の屋台を始めます。
「当時は生鮮食品直売所の駐車場に、屋台を引いて歩いていってたんですよ。
それから木更津駅東口に営業場所を変えることになり、バイクで引ける2代目の屋台を作ったんですが…移動中に車に追突されて全壊しちゃって。僕、死にかけたんですよ」(小倉さん)
その後西口で店舗での営業を始めましたが、2015年の台風で屋根が飛ばされ、建物は解体されることになってしまいました。
困っていた小倉さんの元に、地元商店の方が人参湯を紹介。
こうして2020年から人参湯で「木更津焼きそば」での営業がスタートしました。
2022年、そんな小倉さんの元に「これで焼きそばを作ってほしい」と一人のお客さんがソースを持ち込みます。
それが2003年に廃業した富津市のカギサ醤油が作っていた「インディアンソース」。
お客さんはレシピを引き継ぎ、インディアンソースを復刻させた業者の方だったのです。
このソースで作った焼きそばを食べた小倉さんは「子どもの頃に食べたあの屋台の味だ!」とビックリ。早速「インディアンソース焼きそば」をメニューに加えます。
誕生した新メニューは「昔ながらの味だ」と常連さんにも人気の一品となりました。

「木更津焼きそばって、実は『木更津でやっている焼きそば屋だから』って屋号のつもりでつけた店名なんです。でも自分を育てた『千葉の焼きそば』が作れる自信もつきました。今はこれを語り継いでいきたいという使命を感じますね」(小倉さん)
お店には屋台時代に学生さんだったお客さんが買いに来ることもあるのだそう。
彼らにとって木更津焼きそばはまさに青春の味。
こうして味の記憶が引き継がれ、地域の名品へと成長していくのですね。
木更津焼きそば
住所/千葉県木更津市中央3-4-39
営業時間/11時~14時、16時~22時
定休日/日曜
駐車場/なし。近隣のコインパーキングをご利用ください
アクセス/木更津駅西口徒歩約6分
問い合わせ/090-8948-0733(小倉さん)