農家の直売所や千葉県内のマルシェなどで販売され、売り切れが続出するほど高い人気を誇る「8memoire(はちめもわーる)」のお菓子。
全国の農家から仕入れる旬の果物は、パティシエの林優衣さんの手で、ティラミス、タルト、クッキー、パウンドケーキなどさまざまなお菓子に生まれ変わり、多くのファンを魅了しています。
生産者や食材に感謝する気持ちを大切に、食べた人の記憶に残るお菓子を作りたいと話す林さんを取材しました。
公開 2023/02/10(最終更新 2024/02/29)

目次
8memoire誕生の軌跡・ブルーベリーの話

「農家と繋がるお菓子屋さん・8memoire」のオーナーパティシエール、林優衣さん。
大阪の製菓専門学校を卒業後、東京都内のレストランに就職しましたが、コロナ禍により飲食店が打撃を受ける中で林さんも職を失ってしまいます。
アルバイトをしながら、「食に関わる仕事をしたい」と探して出合ったのが、収穫や選別などの農作業に従事する農業ボランティアでした。

2020年5月、千葉県松戸市にあるブルーベリーファーム新松戸を訪れた林さんは、そのころまさに旬を迎えたブルーベリーのおいしさに感動したといいます。
「穫れたてのブルーベリーがおいしくて!」と目を輝かせる林さん。
「それまでブルーベリーといえば、ケーキなどにちょっと添えてあるというイメージだったのですが、こんなにおいしいのなら、そしてせっかくお菓子にするのなら、穫れたての新鮮な食材を主役にしてもっと多くの方に食べていただきたいと考えるようになりました」

当時すでに8memoireのネットショップを開設し、月に一度のペースで販売・全国発送を行っていた林さんは、この農園での体験をきっかけに「農家と繋がるお菓子屋さん」というコンセプトを軸に活動していくことを決意します。
「私たちの生活の根幹をなす『食』、それを担う農家さんが大切に育ててくれた食材を私が引き継ぎ、心を込めてお菓子を作りたい」
熱心にそう話す林さんは、以来、千葉県内はもちろん、青森県、福島県、静岡県など各地の農場に自ら足を運び、収穫作業に参加、新鮮な果物を仕入れてはさまざまに加工し、お菓子作りに活かしています。
農家直送の素材から生まれる奇跡のお菓子・パイナップルの話
旬の果物を求めて日本列島を縦断するように各地を訪れる中、これまでで一番印象に残っていると挙げてくれたのが沖縄県石垣島のパイナップル農園です。

かねてから南国のフルーツをお菓子に使いたいと考えていた林さんは、親交のあるトマト農家を介して石垣島にあるパイナップル農家を知り、一路現地へ。
「一面に広がるパイナップル畑の光景がすばらしかった! パイナップルも農家さんのことも、今まで以上に大好きになりました」と満面の笑みで話す林さん。
パイナップルが育つのに2年もかかることや、トゲトゲで強そうな見た目に反して実はとってもデリケートであること、収穫後に貯蔵して追熟することはなく、穫れたてが最高においしいこと…

パイナップルの魅力にすっかり心を奪われた林さんが完成させたのは、かわいらしい瓶詰めのショートケーキ。
「甘みと酸味のバランスが良く、そのままのおいしさを味わってほしいので、シンプルなショートケーキにぴったりです」と話す林さん、「生クリームなどの糖度を調整して、その果物が持つ一番おいしい味を引き出します」とのこと。
7月に収穫したパイナップルはショートケーキに、そして8月以降に穫れるものは酸味が強くなるという特性を活かして焼菓子に、と、次々にあふれるアイデアを形にするべく試作を重ねているそうです。
お菓子作りに向き合う、ひたむきな姿勢・栗と塩の話
秋、茨城県笠間市にある栗農家を訪れた林さんは、栗拾いをはじめとする農作業に参加。
自身が収穫した3種類の栗を、合わせて30kg仕入れました。
「栗に限らず、食材は種類によってそれぞれ味わいが違っておもしろいです。これはこんなお菓子に合うかなぁ、って考えながら仕込みをするのは大変だけど、とっても楽しいです」と明るい表情で話します。

今回も、渋皮煮、ペースト、焼き栗パウダー、グラッセなど、さまざまに姿を変えた新鮮で上質な栗たち。
どんなお菓子に仕上がって登場するのか、心待ちにするファンが多いのもうなずけます。

焼き菓子のほぼ9割に使用する、塩。
林さんは、粒子の細かさ、風味の強さ、雑味の有る無しなどをもとに、数種類の塩を使い分けるといいます。
例えばアールグレイサブレには、優しい茶葉の香りを邪魔しない『ぬちまーす』という沖縄産のまろやかな味わいの塩を。
ショコラサブレには、チョコレートの濃い味に負けない、力強い風味のフランス産ゲランド塩を、というように、味わいの違いを活かし素材の良さを余すところなく引き出すのが林さんのこだわり。
手に取りたくなる!季節折々のティラミス・愛されるお菓子の話
中学生のころからお菓子作りに取り組み、高校時代はコンテストにも出品していた林さん。
専門学校に通いながら毎日のように食べ歩きに出かけ、撮影したり絵を描いたり、メモを取ったり。
恩師に会いに赴いたヨーロッパを旅する途中、「イタリアで口にしたティラミスの味を再現したい」と完成させたのがこちら。

重すぎず、それでいて軽すぎない口当たりは、考え抜かれた配合と試作を重ねた末の賜物です。

コクのあるマスカルポーネクリームにホワイトチョコレートを合わせ、自家製の苺ソースと相性抜群の味わいに仕上げた、季節限定の苺ティラミス。
その愛らしいビジュアルにときめきます。

卵の味がおいしさを左右すると言われているティラミスに、林さんは、船橋市の老舗である奈良養鶏園「奈良たまご」の卵を使用。
同市馬込町にある直売所でも定期的に販売しており、納品を心待ちにする地域住民も多いそうです。
「奈良たまごさんをはじめ、農家直売所やマルシェやイベントでもティラミスは人気で、おかげさまでこれまでに約4千個以上販売しています。私自身は宣伝活動や売込みが得意ではないので、委託販売先の農家さんたちに助けていただいています」とにっこり。
山口県ご出身の林さん。
祖父の代は林業を営んでおり、稲作やしいたけ栽培を行う自然豊かな土地で育ったそうです。
感染症拡大の収束が見えず、帰省も叶わない中、「農家さんが家族のように温かく優しく接してくださっています」と、うれしそうに話してくれました。
「8memoire」の「8」は、27種類あるといわれる感情の中の、特に8つを届けたいという思いから。
喜び、感動、誇り、…そして、感謝。
農作業の現場に身を置くことで生まれる感謝の気持ちと、その恵みをお菓子という形の食のバトンでつなげていく使命感、また、8memoireのお菓子をきっかけに農作物そのものや生産者について知ってほしいという思い。
素材を活かす作り方を追求し、自身が納得できるまで試行錯誤を繰り返して、今日も林さんはお菓子作りに向き合っています。
現状店舗は持っておらず、8memoireのお菓子を買えるのは千葉県内のマルシェや月に1~2回販売するネットショップ(詳しくは8memoireのInstagramでご確認ください)ですが、2023年7月1日に実店舗をオープン予定。楽しみですね!
8memoire(はちめもわーる)
住所/千葉県松戸市七右衛門新田505-1( ブルーベリーファーム新松戸と同店舗)
※実店舗オープンは2023年7月1日
Instagram/@8.memoire
HP/https://8memoire.base.shop/