江戸時代以前から続く、千葉県船橋市高根町の農家「重兵衛農園」。
昔ながらの土づくり、朝採り野菜の出荷・直売など、より安全でおいしい新鮮野菜を地域に届ける傍ら、市場に出せず廃棄処分となる規格外野菜を加工し販売するプロジェクトが共感を集めています。
先代の跡を継ぎ、8年前に就農した仲村学さんと家族が取り組む地域ぐるみの新しい農園経営の道、その現在進行形を追いました。
公開 2023/03/12(最終更新 2023/12/25)

目次
1日7000本廃棄されるにんじんを救いたい!「廃棄野菜救出プロジェクト」
2021(令和3)年、春。
収穫期を迎えたにんじん「ベーターキャロット」の畑で、重兵衛農園代表の仲村学さんは途方に暮れていました。
病気や変形に弱く栽培が難しいとされるベーターキャロットですが、その年は「乾腐(かんぷ)病」の被害を受け黒いシミができ、市場に出荷できないにんじんの廃棄量は1日あたり1トン(約7000本分)にものぼったといいます。
それが約1カ月間、続きました。
前年も同様に、軽トラック3台分のにんじんを廃棄。
皮をむいたり、シミ部分を切り取ったりすればおいしく食べられるにんじん。

仲村さんはSNSで窮状を発信し、「廃棄野菜救出プロジェクト」を始動。
賛同した個人や店舗、福祉施設などが次々と名乗りを上げ、フードロス回避に取り組みました。
この時に生まれた飲食店や雑貨屋とのつながりは現在も地域での直販に生きているといいます。

プロジェクトの一環として、重兵衛農園では自宅に加工場を設営。
2021年12月には船橋市保健所から営業許可を取得し、廃棄野菜を漬物などに加工する事業に乗り出しました。

漬物やピクルス、ドレッシングなど、季節ごとにさまざまな加工品が登場。
添加物などを加えないシンプルな製法ながら、野菜本来の甘みや旨みが生きていて、どれも病みつきになるおいしさです!
ベーターキャロットはポタージュに生まれ変わり、地域のレストランやキッチンカーで提供されています。
心を込めて大切に育てた野菜を、シミやキズ、変形など、市場の規格に外れたからと廃棄したくない。
そんな思いを抱くのは生産者だけではないはずです。
私たち消費者もこうした現実に目を向け、それぞれが可能なかたちでフードロス回避に取り組むことができたら、地域の農業を支え、この国の食料自給率を守っていくことにもつながるのだろうと感じました。
地域のために奔走!イベント・お祭りを主催し、直販会や移動販売も実施
「地域密着を目指しています」と話す仲村さん。
2020年夏、船橋市内の約10カ所で移動販売を行い、大盛況を博しました。
買い物困難地域と呼ばれる場所では、住民のリクエストに応え、仲村さんの友人農家から米や果物も仕入れて販売し、とても喜ばれたそうです。

「困っている人たちのお役に立てたらうれしい」と笑顔を見せる仲村さん。
その気さくで温かな人柄は、同市内の習志野台団地で毎月開催している直販会でも人気を集めています。

重兵衛農園の記事を読み、地域でがんばっている農家さんを応援したい、地元で採れた安心安全な野菜を食べたいと、直販会の開催に尽力したひとりが、習志野台団地自治会役員の磯ヤス子さんです。
「野菜が大好き! 特にブロッコリーは旬の時季、毎日食べます。重兵衛農園さんが持って来てくださる野菜はどれもとてもおいしくて、子どもたちにもたくさん食べてもらいたいです」と熱心に話してくれました。

直販会には、仲村さんと親交の深い奈良養鶏園(馬込町1161)、三須トマト農園(印内3-37-30)も参加し、朝採りの卵や濃厚な甘さのトマトをお目当てに訪れる地域住民も多く、毎回にぎわいを見せています。
また、感染症対策のためお祭りが開催されないまま3度目の夏を迎えた2022年7月、仲村さんが先頭に立って、夏祭り仕立ての直販会を行うことを計画。
いつもの野菜や卵の販売に加え、くじ引き、ヨーヨー釣り、かき氷などのミニ屋台がお目見えし、青空の下、たくさんの親子連れや住民らが夏らしい雰囲気を存分に楽しみました。

9月には、高根町で秋祭りを主催。
野菜の詰め放題や卵のつかみ取り(卵はボールで代用)、縁日、キッチンカーの登場で盛り上がる会場には、予想をはるかに上回る400人ほどが集まり、大いににぎわったということです。
「子どもたちが喜ぶ顔を見たいし、地域のみなさんが楽しんでくれることをしていきたい」と笑顔で話す仲村さんは、常に前を向き、次はどんなわくわくすることをしようかと目を輝かせる、少年のように自由で柔軟な心の持ち主であると感じました。
健康な土から、おいしい安全な野菜を。持続可能な農業をめざして
先代の跡を継ぐまでは、仲村さんは建築関係の仕事をしていました。
就農して3年ほど経った頃、農園の野菜が病気により壊滅的な被害を受けたことをきっかけに、化成肥料や農薬だけに頼らない、自然由来の肥料、有用菌による土づくりに着手。
「病気の原因となる土中の菌の状態を調整し、堆肥や魚粉など自然由来のものを使う昔ながらの土壌を作り、野菜が育ちやすい環境を整える。それが今後も長く農業を続けていくことにつながると考えています」

「野菜づくりは土づくりから」との信念を共有し、家族一丸となって安心安全な野菜栽培に取り組む重兵衛農園。
「基本に立ち返り、今年こそは病気の出ない畑にしたい」と意気込みを見せます。
手探りで、試行錯誤をしながら、と言葉で書くのは簡単ですが、130アール(東京ドーム1/3個分)もの広大な畑にそうして向き合っていくのは私たちの想像を超えて大変なことであるはず。
しかし仲村さんは「野菜はやがて私たちの口に入るもの。虫や病気を避けるための農薬などは極限まで減らし、より安全な野菜を作ることを追求していきたい」と力強くも穏やかに話します。

みずみずしく、やわらかで甘い、しっかりした風味のかぶ。
大切に育てられた野菜は、本来の香りと食感が生きています。

船橋市は、にんじんの収穫量も作付面積も千葉県1位を誇ります。
仲村さんが栽培する「船橋にんじん」は、2013(平成25)年、にんじんとしては全国初の地域ブランドに登録された自慢の逸品。
冒頭でも触れましたが、船橋にんじん・ベーターキャロットは栽培が難しく、出荷できたのは収穫量の1/4という年もあったとか。
しかし仲村さんは、市内外の農家仲間と共に取り組むにんじん栽培を始め、かぶ、ブロッコリー、ほうれん草、枝豆など、旬の野菜を丁寧に育て、朝早く収穫し新鮮なうちに地域住民に届けようと今日も奔走しています。
自然に真摯に向き合い、私たち消費者に誠実に関わる姿勢は、この先も地域を盛り上げ交流を育むけん引役として、共感と共助の輪を広げていくのだと感じました。
重兵衛農園
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インスタグラム/@jubefarm
オンラインショップ/https://jubefarm.base.shop/
※取扱いスーパーマーケット、移動販売、直販会の日時など、詳細はHPまたはインスタグラムを参照ください。