千葉県出身の小説家・清水裕貴(しみず ゆき)さんの新刊は稲毛が舞台。

小説に登場するスポットを巡り、町の歴史や物語の世界に浸ってみてはいかがでしょうか。

【千葉市稲毛区】小説『海は地下室に眠る』の舞台探訪
『海は地下室に眠る』(KADOKAWA刊/1980円)

公開 2023/05/17(最終更新 2023/05/10)

ちいき新聞ライター

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地下室から発見された絵画が導く物語

【千葉市稲毛区】小説『海は地下室に眠る』の舞台探訪
旧神谷傳兵衛稲毛別荘

稲毛海岸近くの古い洋館「神谷傳兵衛」邸の地下から発見された絵画。

主人公・ひかりが絵を調べるうちにひかりの祖母との関係が明らかになってくる。

1月に刊行された清水裕貴さんの小説『海は地下室に眠る』は千葉市稲毛区の「市民ギャラリー・いなげ」内の施設から物語が始まります。

国道14号沿いの浅間神社の近くにあるこの施設は電気ブランで知られた浅草の「神谷バー」、茨城の「牛久シャトー」を創設した実業家・神谷傳兵衛の大正時代の別荘を保存しながら公開しているもの。

国の登録有形文化財にも登録されています。

残された手記を基にひかりが祖母の足跡をたどる様子を読み進めていくと、自分がその時代に生活していたかのような不思議な感覚に襲われます。

【千葉市稲毛区】小説『海は地下室に眠る』の舞台探訪
畳廊下に差し込む日差し

残された絵の真相は何なのか、ひかりを取り巻く人物との関係は…。

【千葉市稲毛区】小説『海は地下室に眠る』の舞台探訪
作中登場スポット紹介マップ(KADOKAWA作成)

読み終えた後、「旧神谷傳兵衛稲毛別荘」を訪ねてみました。

かつてこの地から見えたであろう海は当然見えるはずもなく、庭木も大きく成長していて窓からの景色は変わっていますが、旧家の畳廊下にゆったりと差し込む日差しは、何となく当時の趣を感じさせます。

随所に施されているぶどうの装飾を探すのも楽しいもの。

近くにはラストエンペラーで有名な溥儀の弟溥傑(ふけつ)と嵯峨浩(さがひろ)夫妻が半年間新婚生活を送った「愛新覚羅(あいしんかぐら)溥傑仮寓」(現在、千葉市地域有形文化財「千葉市ゆかりの家・いなげ」)もあり、こちらも見どころです。

【千葉市稲毛区】小説『海は地下室に眠る』の舞台探訪
千葉市ゆかりの家・いなげ

脈々と受け継がれている人々の思い

同書には、かつて県庁を中心にビジネスチャンスを求め人々が集まり華やいだ「蓮池」という地も登場します。

現在の「蓮池通り」に足を運ぶと、今も「蓮池」と名前の入ったちょうちんが店先に飾られ、わずかに当時の余韻が残っています。

私たちが当たり前のように生活しているこの地に、かつてさまざまな思いを胸に生きていた人たちがいたことを感じながら、本を片手に散策してみるのもいいのかもしれません。

(取材・執筆/jack)

問い合わせ

千葉市民ギャラリー・いなげ
ホームページ/https://galleryinage.jp

千葉市ゆかりの家・いなげ
ホームページ/https://www.city.chiba.jp/kyoiku/shogaigakushu/bunkazai/yukarinoieinage.html