18世紀フランス発祥とされる「トールペイント」。ヨーロッパの伝統装飾の技法を用いて生活雑貨を彩り、やがて移民を通じてアメリカへ、そして日本を含む世界中へと普及し、今なお色あせない魅力は多くの人の心を捉えています。ドイツでトールペイントに出合い、帰国後20年以上にわたりトールペイント教室「Atelier Bella Art(アトリエ・ベラ・アート)」を主宰する船橋市の西川珠子さんにお話を伺いました。
公開 2023/06/05(最終更新 2023/12/26)

フランス語で「ペイントしたブリキ」を意味するトールペイント
トールペイントの始まりは、諸説ありますが、15世紀後半のヨーロッパで生まれたといわれています。
ブリキ製品に花や鳥の絵を描き、庶民が日常生活の中に彩りと潤いを楽しむ手段として普及したトールペイント。
フランス語で「絵を描いたブリキ製品」を意味します。
18世紀になるとトールペイントはインテリア装飾の手法として西洋諸国において不動の地位を築くようになりますが、そのころ、江戸時代中期の日本から輸入され人気を誇った漆の工芸品の影響も受けているといわれています。

こちらは、ドイツ語圏で広く親しまれている「バウエルン・マーレライ」という手法で描かれたトールペイント作品です。
穏やかで優しい色合いが、心弾む春の訪れを感じさせるようなウェルカムプレート。
作者は西川珠子さん。
ドイツ在住中にトールペイントに出合い、帰国後に講師資格を取得、以来20年以上にわたり自宅教室を主宰しています。
※現在は創作ルームLABORO(船橋市習志野台2-13-22上野新ビルA棟302)にて定期開催中
幼少時より絵を描くことが好きで書道にも親しんできた西川さんは、筆を使って細やかにしなやかに、豊かに装飾を施すトールペイントの技法に夢中になったと振り返ります。
「ぬり絵」と同じ?説明の通りに色を重ねて仕上げるクラフト

西川さんがペイントを施したワインテーブルを見せていただきました。
バウエルン・マーレライの手法で描くデザイン画をもとに仕上げた作品は、上品な色遣いと落ち着いた華やかさが目を引きます。
「図案集の絵柄にアレンジを加えて描いた、思い出の作品です。スコッティ・フォスターさんのデザインが好きで、たくさん描きました」と西川さん。
トールペイントは、あらかじめデザインや色合いが構成された図案があり、描きたい素材に転写し、説明通りに色を重ねて仕上げます。
この点では「ぬり絵」と同じと言われています。

うさぎ型のバッグチャームに気品ある花の絵が映える、ワークショップ作品。
西川さんが下絵を描いたものに、筆遣いを教わりながら色を塗ります。
「たとえ絵に苦手意識をお持ちでも、どなたでも楽しんでいただけますよ」とあたたかく頬笑む西川さんに、トールペイントの基本的な手順を教えていただきました。
トールペイントのやり方
1. 素材を選びます。トールペイントは、ガラス、陶器、布などさまざまな素材に描けますが、今回は最も多く用いるという「白木」の場合について書きます。
2. 木の表面にやすりをかけ(サンディング)、なめらかにします。
3. 下地剤とベースの色を塗ってベースコートをします。
4. 図案を転写します。
5. インストラクション通りに色を塗ります。
完全に乾いてニスを塗ったら、完成!

上記の手順はかなり簡素化したものですが、基本の流れは伝わったでしょうか。
西川珠子さん主宰の「Atelier Bella Art」では、体験レッスンや不定期のワークショップも開催されているので、興味を持った方はぜひ問い合わせてみてくださいね。
華やかで繊細な、西川珠子さんの作品世界をご案内します

西川珠子さんが手がけたトールペイント作品の中からいくつかご紹介しましょう。
こちらのクリスマスローズの作品は、ヨーロッパのラウンジ(社交室)に飾ってあるような、クラシカルな雰囲気を意識して描いたとのこと。
今年(2023年)4月に完成した新しい作品ですが、まるで長い年月を経て大切に丁寧に扱われてきた気高さのようなものを感じさせる風合いが素敵です。

流麗に優雅に、バラやチューリップ、果物などを描くバウエルン・マーレライの手法を習得し、見る人の胸を打つ美しい作品を描き続けてきた西川さんですが、ある時からヨーロッパの風景を描く森初子先生に師事、オリジナル作品も含め数多くの風景画作品を生み出しています。

イタリア・ベネチアの水路を描いた作品です。
驚くほど緻密に描かれた細部は息をのむ美しさ。
やわらかな陽光が降り注ぐ水面と、奥行きを感じさせる水路、生命力を感じさせるバラの花と葉の陰影がのびやかに建物を彩り、そこに住まう人々の静かな暮らしが伝わるようです。
この作品は、船橋市にある山崎歯科医院(習志野台4-23-18)の待合室に飾られていました。
西川さんと、歯科医院副院長の山崎眞由美さんとはお子さんたちが幼稚園の頃からのお付き合い。山崎さんはAtelier Bella Artの生徒でもあります。

山崎さんの季節のトールペイント作品が待合室の一角を彩り、診察前後のひととき、患者さんの心を和ませています。
開院当初は目立たないように作品を置いていたそうですが、「当院に勤務する歯科衛生士のひとりが褒めてくださって、それがうれしくて今のように飾るようになりました」と笑顔で振り返ります。

20年以上トールペイントを続けている山崎さんは、古典的な模様だけでなく、オリジナルの絵柄にも取り組んでいると話します。

こちらはバレンタインの時期に飾るという、山崎さんのオリジナル作品。
「西川先生に描きたいイメージを伝え、話し合いながらデザイン画を起こしていただいて、一緒に仕上げた作品です」
クラシカルな花とリボン、落ち着いた色遣いとポップなお菓子の組み合わせに心躍りますね。
「カリキュラムにとらわれ過ぎず、描きたいものを描かせてくださるので楽しく続けられます」と、山崎さんは話してくれました。
伝統を礎にした確かな技術と、柔軟で自由な感覚が作り上げる、豊かで楽しい西川さんのトールペイントの世界観を垣間見た思いがしました。
今後も生徒さんたちとお互いに切磋琢磨しながら作品づくりを続け、自身がこれまで旅したヨーロッパの風景を描くオリジナル作品にも精力的に取り組んでいきたいと話してくれた西川さん。
時代を超えていまなお色あせない、あたたかく華やかで繊細なトールペイントの作品世界にあなたも出合ってみませんか。
西川珠子さん
Instagram/@tama24riv
ブログ/https://ameblo.jp/tama24riv/
メール/tama24riv@gmail.com
Atelier Bella Art
レッスン場所/創作ルームLABORO
レッスン日時/金曜日 10時~13時
住所/千葉県船橋市習志野台2-13-22 上野新ビルA棟302
問い合わせ/047-401-9807
ホームページ/https://laboro-room.com/