災害に強い家にするには、何から手をつけたらいいのでしょう?
防災リフォームの基本について専門家に聞きました。
公開 2023/08/23(最終更新 2023/08/08)

編集部 R
「ちいき新聞」編集部所属の編集。人生の大部分は千葉県在住(時々関西)。おとなしく穏やかに見られがちだが、プロ野球シーズンは黄色、Bリーグ開催中は赤に身を包み、一年中何かしらと戦い続けている。
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わが家にとってリスクの高い災害を最優先に対策を考える
一口に自然災害といっても地震、土砂災害、水害、風害…など幅広く、全てに対応することはできません。
そこでまず、「自分の住んでいる場所や建物にとって、どんな災害が脅威なのか」を把握しましょう。
地震を恐れるあまり最優先と考える人が多いですが、家によっては水害のリスクが非常に高く、そちらを優先すべき場合もあります。
優先順位はそれぞれの住宅によって異なることを心に留めておきましょう。
判断のポイントは以下の3つです。
立地
ハザードマップや過去の災害歴などから、立地的に脅威となりやすい災害を知りましょう
建物の性能
建物が元々持っている耐震性、耐火性などのレベルを把握しておきましょう
建物の現在の状態と補修の必要性を確認
新築時の施工不良や経年劣化が原因で、建物が災害に弱くなっていることがあります
これらを知った上で対策の優先順位を決め、リフォームなどでわが家の防災力を高めておきましょう。

住宅にダメージを与える災害リスク
主な災害によるリスクや対策を見ていきましょう。
地震

倒壊すると一瞬で命が失われる可能性が高く、防災と聞いて真っ先に地震対策を思い浮かべる人も多いでしょう。
元々の耐震性能は高いに越したことはありませんが、性能の高さで安心と言えるのは、建物自体が傷んでいないことが前提です。
阪神・淡路大震災で倒壊した家屋を建設省(現:国土交通省)が調査したところ、多くの木造建築に建材の腐食やシロアリによる食害が見られました。
雨漏りや水漏れで木が腐り、シロアリに食べられて柱の中がスカスカになっていたら、元々最高クラスの耐震性能を備えた住宅だったとしても簡単に倒れてしまうのです。

建物内部に弱い箇所があると、地震の最初の揺れでそこが壊れてしまい、地震の揺れと建物の揺れがシンクロする「共振」が発生。
共振が起こると揺れが増幅され、倒壊に至るという流れです。
シロアリに食べられない鉄骨材の建物も、雨漏りによって鉄がさびたり腐食することで耐震性能は低下します。
鉄筋コンクリートは地震に強く思えますが、コンクリートはひび割れが起きやすく、定期的にメンテナンスしないとひびが広がって中の鉄筋がさびることも。
木造にしろ鉄骨や鉄筋コンクリートにしろ、定期的なメンテナンスで異常を察知することが重要なのです。
水害
ハザードマップでの予想浸水深が50cmぐらいまでなら、リフォームで水害から家を守れる可能性があります。
(浸水深が1.0~1.5mを超えそうだったら逃げましょう!)
水害で一番怖いのは、家屋に浸水すること。
これをリフォームで防ぐ方法として、玄関、窓の周辺に取り付ける止水板というものがあります。

また、1階や半地下の車庫に浸水したらポンプで排水する必要があるお住まいもありますが、そのポンプが壊れてはいませんか?
時々確認して、壊れていたら交換しましょう。
浸水は家の外からだけではありません。
トイレ、キッチン、お風呂などから逆流して家の中から浸水することもあります。
これを防ぐには排水管に取り付ける「逆流防止弁」が有効です。
取付場所の最優先箇所はトイレ。
トイレは低い位置にあることが多く最も逆流リスクが高い上、汚水は人間の健康に害を及ぼす細菌だらけで感染症のリスクが高まるためです。

床下浸水してしまったら
大雨が去ったあと、家の外周を見て、水がどの高さまで来たか確認してみてください。
水の跡が床下の通風口より上に来ていたら、床下浸水したということ。

そのままにしておいても直接生活に支障がないため見落とされがちですが、水害時にあふれた雨水は非常に不衛生です。
感染症のリスクを下げるため、床を開けて消毒することをお勧めします。
また、壁の中の断熱材が水分を含むとカビが発生したり、断熱性能が極端に低下することがあるので、不安を感じたら専門の業者にチェックしてもらうと安心です。
風害
近年は大型台風によって屋根や瓦が崩れることも珍しくなくなりました。
安全性の目安は、屋根瓦業界のガイドラインに沿ってしっかり固定されているかどうかです。
建築から時間がたっている古い瓦が不安な場合は、業者に止付け作業をしてもらうといいでしょう。
最も怖いのは屋根全体が飛ばされてしまうこと。
窓が割れると家の中からの風圧で屋根が飛ぶことがあります。
「窓を守ることイコール建物を守ること」と言えるぐらい窓は重要!
外付けシャッターを取り付けたり、強化ガラスに替える、飛散防止フィルムを貼るなどして窓を守りましょう。
ちなみに養生テープをガラスに貼っても破片の飛散を多少防ぐぐらいで、あまり防災効果はないと考えてください。

予算的に全ての窓への取り付けが難しい場合は、庭や道路などの広い場所に面した窓を優先しましょう。
シャッターには及びませんが、面格子なども飛来物から窓を守ってくれます。
いずれも難しい場合は割れにくいガラスに交換する、強化フィルムを貼るなどの方法も考えられます。
出窓など形状的にシャッターが取り付けられない窓の場合は、これらを検討しましょう。
火災
地震発生直後は火災のリスクも高まります。
自宅からの出火を防げても、大規模火災が発生した場合は周りからの延焼で被害に見舞われる可能性があります。
対策として、新築時は耐火性能を高くしておくこと。
既存住宅なら外壁や窓、窓ガラスなどをリフォームで耐熱性能の高いものに変えることでリスクを軽減できます。
日常生活を丁寧に営むことが災害対策に
普段生活しながら自宅の防災リスクに気付けるようになるには、自分の住まいのことを知ることが大事。
ハザードマップと初期性能(新築時の家屋の性能)の確認が基本です。
初期性能は契約時の資料で確認するか、分からなければ建築会社などに聞いてみましょう。
お金をかけずに今すぐできる家屋の防災は「掃除をすること」。
家具の後ろに雨染みが隠れていたり、庭の雑草を取っていたらシロアリや水漏れの形跡を見つけたり…。
普段視界に入ってこなかった場所の傷みに気付くことがあります。
掃除は費用をかけずにすぐできる防災の第一歩。
普段から自分の住む家に興味を持ちましょう。
断熱性能を高めて被災後の負担を軽減しよう
「防災」には被災した場合の備えも含まれます。
快適に過ごすためのリフォームで住まいを整えておくことで、被災直後の負担を軽減できるかもしれません。
例えば気温氷点下の真冬に被災して数日間停電すれば高齢者にとっては命に関わりますが、窓の断熱性能を高めておけば、だいぶしのぎやすくなります。
家屋の熱の出入りの6~7割は窓からなので、リフォームを考えるなら窓からがお勧め。
平時にも冷暖房の効きが良くなるなど省エネにもなり、QOL(生活の質)向上にも役立ちます。
真夏に停電した場合は熱中症が心配です。
リフォームでオーニングを取り付ける、もっと手軽な方法としてはすだれやよしずを立てかける…などして直射日光を遮り、室内に入り込むのを防ぎましょう。
防災に補助金を使える可能性も
現在多くの自治体が、地域の防災力を高めるため、域内住宅の耐震性能を上げることに力を入れています。
「●●市 耐震 補助金」で検索すると、耐震診断費用や耐震補強工事などに利用できる補助金が見つかる可能性があるので、ぜひ調べてみてください。
家屋だけでなくブロック塀の耐震調査・補強についての補助金もあります。
道に面しているブロック塀が地震で倒れた場合、万が一子どもが巻き込まれて死亡したりすると所有者の責任が問われます。
億単位の損害賠償が発生するリスクもあるので、道路に面した古いブロック塀があるなら補強を検討しましょう。
信頼できる業者の選び方
災害直後にいきなり訪問してきて「近所の屋根を直していて、たまたま見たらお宅の屋根も傷んでいるようです。調べましょうか?」などと言ってくる業者はかなり危険です。
災害に便乗して高齢者を狙う悪徳業者は非常に多いので、十分に注意してください。
一方、良い業者に出会うためには、数社(3社程度)から提案をもらい、主体性を持って自分で選ぶことです。
こつは価格で選ばず、提案内容を吟味すること。
各業者に対し、「防災面を強化したい。この家の、立地や建物上の弱点は?」「自分はこう思うが、プロの目からリスクを判断して、積極的に提案をしてほしい」と伝えておき、提案をもらうのです。
自分でリスクを決めつけないで、リフォーム会社に提案の余地を残しておくことがポイントです。
最後に
防災、災害…と聞くと身構えてしまい、そこで思考停止してしまう人もいるのではないでしょうか。
正常性バイアスが働き、「うちの周りでは恐らく大きな災害は起きない」と思いがちです。
しかし、過去何十年と被害がなく「まさか」と思われるような場所で災害が起こった後、よくよく確認してみると、ハザードマップ上にリスクが書かれていた…ということがあります。
現在生きている人間の100年に満たない経験則など、地球の歴史のごく一部に過ぎません。
経験則に縛られず、ハザードマップや不都合なデータから目を背けないこと。
人生への投資と思って、防災リフォームを検討してみてください。