2019年9月、千葉県に上陸し猛威を振るった大型台風。
停電が続く中、仮設スタジオから放送を続けたかずさエフエムの石村さんと兼平さんに当時の状況を聞きました。

公開 2023/08/23(最終更新 2023/08/21)

編集部 R
「ちいき新聞」編集部所属の編集。人生の大部分は千葉県在住(時々関西)。おとなしく穏やかに見られがちだが、プロ野球シーズンは黄色、Bリーグ開催中は赤に身を包み、一年中何かしらと戦い続けている。
記事一覧へ超大型台風襲来、明けて翌日の朝
―9月9日午前5時前、令和元年房総半島台⾵(以下、台⾵第15号)は強力な勢力を保ったまま千葉市付近に上陸。
その後の状況を時系列に沿って教えていただけますか?
9日朝には台風も茨城県沖に抜けていき、一安心…と言いたいところでしたが、本当に大変だったのはここからでした。
屋根が飛んだ家、なぎ倒された木々….
房総半島の各地では見たこともない光景が広がっていたのです。
かずさエフエムの本局がある木更津では9日午前2時頃から停電していましたが、非常用電源を使用して放送を継続。
予定放送番組に割り込む形で、随時入ってくる情報を伝えていました。
そして、この時点ではまだ大きな異変には気づいていなかったのです。
光回線が落ちて、本局から放送ができなくなった

翌10日の午前9時50分頃、木更津のスタジオと君津の送信所をつなぐNTTの光回線が突然ダウン。
木更津のスタジオから放送ができなくなりました。
おそらく9日未明にかけての強風で送電線の鉄塔が倒壊したことによる大規模停電が原因です。
非常用電源によって保たれていた回線が使用できなくなったのです。
―すでに起こっていた異変が顕在化したのですね。
これらは全て後で分かったことで、当時は全体の状況まで把握できていませんでしたが、木更津から放送ができなくなったことは確か。
そこでその日のうちに送信所のある君津市の鹿野山に移動し、標高350mの山中にあるゴルフ場の中の売店に急ごしらえで仮設スタジオを開設。
午後5時から生放送を開始しました。
―その日のうちにスタジオが開設できたのはすごいですね。
幸運だったのは、ここの固定電話が1台、通信可能な状態だったことです。
停電で携帯電話やメールも使えない状況下で、このFAX付き電話をフル活用して市役所とやり取りし、次々と新しい情報を得ることができました。
送信所の近くにたまたまスタジオ代わりになる建物があったこと、グループ企業のバックアップがあったこと。
さまざまな幸運が重なり、周囲の協力もあって実現できたのです。

過酷な状況から毎日被災者に情報を届ける
―あちこち停電している中、大変なご苦労があったのでは?
2週間、発電機を回しながら情報を流し続けました。
まだ暑い時季、社員やパーソナリティなどのスタッフが倒木だらけの山道を上り、毎日スタジオまで通ったのです。

地元在住のスタッフは自ら被災していたにもかかわらず、皆、使命感に突き動かされるように放送を続けていました。
―主にどのような情報を発信されていたのですか?
行政発表の災害情報やライフライン情報、避難所の混雑状況など。避難所情報も、「小さなお子さんと家族だけで入れる避難所は?」「車いすやストーマ(人工肛門・人工膀胱)対応は?」など、よりきめ細かい情報を加えて案内するよう心掛けました。
―長引く停電で不安が続く中、生活に直結する身近な情報はリスナーにとって何物にも代えがたいものだったと思います。
ただ、延々と情報を流していればいいわけではありません。
限られた電源の中でも被災者がまとめて情報を得られるよう、毎日決まった時間帯にライフライン情報を流すプログラムに変更しました。
―状況が落ち着いたのはいつ頃ですか?
仮設スタジオ開設から約1週間後に光回線が回復しました。
放送時間を短縮し特別編成を始めた9月10日から2週間後、9月24日からようやく24時間放送に戻ることができました。
激動の2週間、発電機を使って一時も停波させることなく災害放送を送り続けたことが評価され、「2020年電波の日・総務省関東総合通信局長賞」を受賞しました(TokoTon KaZuSa 2020 SUMMER Vol,14より)
コミュニティFMの役割とは
―台風15号を経験して、変わったことはありますか?
もともとバックアップ電源などの備えや非常時に向けての体制は整っていましたが、より強化したというのはあります。
総務省の支援で、送信所に上がれなくても1週間は稼働できる電源設備を設置しました。
また、2021年には君津市役所ロビーにサテライトスタジオを開局し、緊急時にはボタン一つで市役所の職員が通常放送に割り込み、防災情報を伝えることできる体制を整えています。

―君津市の他、木更津市、袖ケ浦市、富津市と防災協定を結んでいらっしゃいますね。
この4市の他、県や海上保安庁とも協定を結び、リアルタイムで支援情報を発信できるよう整備しています。
変わったことと言えば、周囲の見る目が変わったというか…災害時に頼りになるメディアとして認知されるようになってきたと感じます。
―改めて、コミュニティFMの役割とは何でしょうか。
災害が起こったら、皆さんまずNHKをつける人が多いと思います。
そこで大まかな状況を把握しますね。
でもその後は?
そこでコミュニティFMの出番になるわけです。
「〇〇小学校の前の道が冠水していて通れません」「〇〇スーパー北側の〇〇公民館で水を配布しています。ポリタンク入りなので容器は持参しなくても大丈夫」といった、土地勘のある地元住民スタッフならではの情報を出せるところがコミュニティFMの強み。
復旧が思うように進まないとイライラが募り、市役所にクレームや問い合わせが殺到して、本来緊急で対応すべき業務が滞ってしまうこともあります。
そうならないよう、少しでも被災者のイライラ解消に役立つような情報を届けることも大切な役割の一つ。
情報の量だけでなく質にこだわり、被災された方の目線に立って本当に必要とされる情報を届けていきたいと思います。

コミュニティFMは、規模は小さくても地上波テレビ局などと同格の「基幹放送局」。
公共放送として非常時の災害放送はもちろん、地域をつなぐメディアとしての役割も担っています。
地域情報の発信も常時行っています。
普段からラジオに親しんでいただき、いざというときに思い出して頼りにしてもらえれば本望です。