文庫版『20歳のソウル』の表紙装画を描いた石居麻耶(いしいまや)さんが「第2回 絵と言葉のチカラ展」でグランプリを受賞。
言葉を紡ぐようになったきっかけ、地元船橋についてお聞きしました。
公開 2023/07/05(最終更新 2023/07/03)

本の装画や週刊誌のイラストを担当

船橋市立葛飾中学校美術部出身の石居さんは、平面から立体作品まで幅広く学べる東京藝術大学美術学部デザイン科に進学。
個展を見た出版社から声を掛けられ、本の装画やイラストを描き始めました。
万城目学(まきめまなぶ)さんの初期三部作の他、2019年には文庫版『20歳のソウル』の表紙装画を担当。
昨年船橋市に寄贈した絵は市立船橋高等学校に飾られています。
2年間掲載を続けた絵とエッセー
絵に言葉を添えるようになったのは、2003年から。
「ブログに掲載していた作品に意味を持たせて広がりを出したい」と思ったそうです。
20年からは月刊『いのちのことば』の表紙装画とエッセーを担当。
「毎月700文字の文章を書くのは楽しかった」と石居さん。
その活動を見た人から今回の展覧会を勧められ応募します。
前回はそれぞれ24歳の時の祖母・母・自分の姿を並べた作品で芸術新潮賞を受賞するも、「技巧に凝ってしまった」と反省。
すぐに新しい作品に取り掛かりました。
今回のテーマは「2度目の春」。
19年に入院していた病院の隣にある浦安市若潮公園などの桜をモチーフに2作品を制作。
細かい点描で色の濃淡を付け、紺の万年筆で影を作る作業の積み重ねで、見事グランプリを受賞しました。
「手術や入退院の経験を通して、同じ桜も全く違って見えることを知り、その場の空気感を大切に描いたのが良かった」と語りました。
グランプリ作品

2022年 65.2✕65.2cm アクリル絵具、万年筆、パネル
やわらかな風が吹いてきて、
遠く追いかけていたものがいつの間にか
すぐ隣で花を咲かせています。
風に背中を押されるように一歩踏み出し、
空にかざした手の先に触れた舞い降りる花のひとひらを
手のひらで静かに受け止めていました。
はじまりの季節はそんなふうにして訪れる気がします。
今年も桜を見に来ました。
花の名前は、花を心の眼で見るためには
頭の片すみに置いておくくらいに
思っていてもよいのかもしれません。
名を知ればそれはいつもの同じ花と思って
見過ごしてしまうものもあるのです。
変わりゆくものと変わらないもの。
同じだけれど同じではない
その花の新しい姿を今一度心に映しておくために。
「雲の上はいつも、晴れ」
明日のことは分からなくても、
またこの桜を見たいという気持ちが
再びの春へと心を向かわせます。

2022年 65.2✕65.2cm アクリル絵具、万年筆、パネル
春を待ち望む気持ちが長い冬を越えて花開きます。
樹齢千年の桜が咲いていると知りました。
千年先を想ってみれば、
今日の日の様々な出来事は
咲き誇る桜の無数の花々から
手のひらに舞い降りる
ひとひらの花びらのよう。
そこにはまるであなたが居るみたいです。
千年前を思い描いてみれば、
昨日一昨日、一年前も数十年前の出来事も
無数の花びらに紛れて見分けがつかなくなる
ひとひらの花びらのよう。
そこにもまるであなたは居るかのようです。
遥か先の日に希望を重ね見るとき、
「また来年も桜が咲くのを見たいね」という
季節の約束が交わされます。
もう一度会いたい気持ちと、季節の花と。
さくら通りを駆けてゆくあの子の向かう公園で。
小4から住んでいる船橋への思い
「小さい頃から船橋に住んでいるので、もう離れられない」と石居さん。
思い出の場所として、受験勉強で通った旧西船図書館、週末に訪れる実家近くのパン屋のマルキを挙げてくれました。
店内には石居さんのイラストが飾られているそうです。

今後もグループ展や装画家の活動がめじろ押しの石居さん。
「希望の光を感じる、明日につながる絵を描いていきたい」と穏やかなまなざしで話してくれました。