夏になると食べたい欲求がググっと増す「カレー」は、インドで生まれ、アジア各国で親しまれています。ただし、国が変わればカレーも違う。歴史・風土・宗教などによって各国独自の進化を遂げてきた奥深き「アジアカレー」の世界をご紹介します。
教えてくれたのは…
代表 井上岳久さん
http://www.currysoken.jp/index.html
公開 2023/07/26(最終更新 2023/12/26)

目次
開港によりカレーが到来!

まずカレーとは何かと言うと、複数のスパイスを使った料理の集合体のこと。インドで発祥し、5000年という歴史の中で徐々に形作られながら確立していきました。その歴史の中で、イギリスがインドを植民地化したことでヨーロッパにカレーという食文化が伝わり、その後、簡単にカレーが作れる魔法のスパイスミックス「カレー粉」がヨーロッパ人によって開発されました。そしてヨーロッパの代表的なソース「グレイビーソース」を使うなどしたヨーロッパ流のカレーが生まれ、イギリスを中心に人気に。
日本にカレーが入ってきたのは江戸時代末期の開港の時。イギリスのC&B社が作ったカレー粉缶の輸入をきっかけに、イギリスを中心としたヨーロッパのカレーが日本に広がっていきました。今ではカレーは家庭料理の定番ですが、戦前は軍隊の定番メニューとして男性を中心に食べられていたのです。その理由としては、簡単に作れて一度に大人数分を用意することができ、野菜も手軽に食べられるので栄養バランスも良く、しかもおいしい。そんな団体食として願ったりかなったりのカレーは、軍隊の食事として適していたからです。そして退役した軍人によって家庭でも食べられるようになり、普及していったと言われています。戦後になると学校の給食で採用され、子どもを中心に家庭に広がっていきました。
そこから技術革新とともに、お湯を注ぐだけで食べられる「即席カレー」や「固形ルウ」「レトルトカレー」が登場し、徐々に世の中にカレーが広がっていき、今日の国民食として定着していったのです。
インドのカレーとは違う!?出汁を取って作るスリランカカレー

インドをはじめ、その周辺国であるパキスタンやネパール、バングラデシュではカレーは日常食です。食文化や信仰する宗教によってちょっとした違いはありますが、インドで食べられているカレーと大きな違いはありません。大きく異なるのはスリランカのカレー。ヒンドゥー教徒が多数を占めるインドに対し、仏教徒が多いスリランカは牛も豚も食べます。また「モルディブフィッシュ」という日本でいうかつお節のような乾物を使って出汁を取りカレーを作るので、違うカレー文化があります。同じようにタイ、インドネシア、ミャンマーもその国の料理とインドのスパイス料理が融合し、新しい形のカレーが根付いています。
中国で広がりをみせる「日式カレー」。日本でブーム到来「スパイス欧風カレー」

一方で他国のカレーが浸透しつつある国もあります。もともと中国にもカレー味の料理はありますが、昨今は「日式カレー」と呼ばれる日本の欧風カレーが広がっています。その背景には、日本の人気カレーチェーン店「coco壱番屋」の進出やハウス食品による普及活動が挙げられます。そんな中国で人気を集める日本のカレーにも新たな動きが。ここ2、3年でじわじわと人気が高まっている「スパイス欧風カレー」が、カレー総合研究所の調査・検証の結果、2023年のトレンド予測に。「スパイス欧風カレー」とは、欧風カレーのうま味やコク、マイルドさなどを活かしつつ、スパイスカレーの特長である、クミンやコリアンダーなどのスパイスの味や香りなどを兼ね備えた「いいとこどり」のカレーのこと。大手食品メーカーをはじめ各メーカーからも「スパイス欧風カレー」の商品が続々リリースされていますので、注目してみてください。

いまだに知らない事や新たな発見と出合えるのがカレーの面白いところ。そしてスパイスの集合体なので、いかようにも変化することができ、いかようにも扱えるので、新しい物を生み出せるのも魅力です。また、弊研究所が運営しているカレー大學には、食品メーカーやカレー店の方だけでなく、最近ではカレー好きの方も全国から受講しに来ます。そんなカレーを通してつながる縁も楽しいですね。
国によって違うアジアカレー
ネパール
鶏肉や豆、野菜をふんだんに使用した栄養豊富なヘルシーカレー。スパイスは使うがトウガラシはほとんど使わないためマイルドな味付け。カレーと複数の総菜を一緒にした定食スタイルの「ダルバート」はネパールの国民食。
タイ
グリーン、レッド、イエローの3種があり、スパイスの基本はトウガラシ。ハーブやココナッツミルク、ナンプラーなどが入ることで甘味や酸味があるのが特長。
スリランカ
モルディブフィッシュという鰹節のような乾物から出汁を取って作るスリランカカレーは、ライス、複数のカレー、野菜などを1つのプレートに盛り付けるので見た目も鮮やか。
パキスタン
スパイスをふんだんに使ったサラッとしたスープタイプのカレー。辛口が主流だったが体への影響を考え甘口が主流に。
バングラデシュ
水産資源が豊富なことから魚を使ったカレーが主流。魚の臭みを消すために揚げた魚を使用するのが特長。
ベトナム
ココナッツミルクやサツマイモ、玉ねぎなどが入った甘味のあるカレー。小魚を塩漬けにして発酵させた魚醤「ニョクマム」が使われるのも特長。
シンガポール
スパイスにナスなどの野菜、魚の頭を丸ごと入れて煮込む「フィッシュヘッドカレー」がシンガポール流。
インドネシア
国民の8割以上がイスラム教徒のため鶏肉を使用したカレースープ「カレーアヤム」が代表的。生のトウガラシから作られたペーストを使うのが特長。
ミャンマー
下味を付けた豚肉のうま味と野菜のエキスが凝縮されたカレーは、ご飯にかけるというよりもおかずの一品とされている。
参考資料/「カレーの世界史」(井上岳久著・SBクリエイティブ刊)