2023年8月18日(金)、我孫子市内「ふれあいホール」にて市内在住の日本舞踊家・若月仙之助さんによる創作歌舞伎舞踊劇「手賀沼今昔ものがたり〜アオギリとの約束〜」が開催されます。
シリーズ2回目となる今回のテーマは「平和への祈り」で、おもな登場人物は市の平和のシンボルがモチーフ。
古典芸能をベースに現代音楽や華やかな衣装もミックスし、地域の子どもたちも参加するなど幅広い層が楽しめる内容となっています。
公開 2023/07/27(最終更新 2023/12/26)

野中真規子
フリーライター歴20年。取手市出身。2021春に東京から我孫子市に移住し、手賀沼周辺の水辺や豊かな緑、遺跡、史跡、ユニークな個人商店などに囲まれた生活を満喫中。スパイスと魚影、日本語ROCK、RAP、民族的デザイン、音楽、祭り好き。https://makikononaka.com/
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我孫子市の平和のシンボルである「折り鶴」と「アオギリ」をモチーフに
1945年の8月6日、広島に原爆が投下されました。それから78年がたった今、その史実を創作歌舞伎舞踊に現したのが「手賀沼今昔ものがたり〜アオギリとの約束〜」です。
「メインの役どころは、地域の子どもたちが演じる折り鶴と、平和の使者である被爆樹木のアオギリです。ともに我孫子の平和のシンボルをモチーフにしています」(若月さん)
我孫子市は平和都市宣言のもと、平和祈念式典や手賀沼灯籠流し、広島や長崎への中学生派遣、平和の集いなどの平和事業を行っています。取り組みの一環として、手賀沼公園にはさまざまな平和のシンボルが設置されています。
その一つが、広島平和記念公園にある「原爆の子の像」のモデルとなった佐々木禎子さんが、生前に折った折り鶴です。禎子さんは1943年に広島で生まれ、2歳の時に、爆心地から1.6kmの自宅で被爆。そして12歳の時、突然白血病を発症します。闘病中に「生きたい」と願い、薬やキャラメルの包み紙で千羽鶴を折り続けましたが、願いはかなわず、1955年10月25日の朝、12歳という若さでその命を閉じました。最期まで周囲の人への思いやりを忘れず「みんなありがとう」の言葉を残したそうです。
そんな禎子さんが折った小さな折り鶴の一つが、遺族から我孫子市に寄贈され、手賀沼公園内の生涯学習センター「アビスタ」に展示されています。
そして被爆樹木のアオギリは、広島の爆心地から北東へ約1.3kmの地点で被爆。原爆投下後は数十年間草木も生えないといわれるエリアで奇跡的に生き延び、新たな葉を芽吹き、その姿は戦争で意気消沈していた人々に生きる勇気と希望を与えました。
我孫子市は2012年に広島市からこのアオギリの2世を譲り受け、手賀沼公園に植樹しています。アオギリ2世の姿は、核兵器廃絶と世界恒久平和の実現を私たちに訴えかけているようです。
「アオギリはまた、天下泰平の世に現れる瑞鳥、鳳凰が棲む木とも言われています。舞台では、生前の禎子さんと同じように希望を持った子どもたち扮する折り鶴が舞い、アオギリの中に眠っていた鳳凰=平和を祈る心を呼び覚ましていきます。舞台を見てくださる一人ひとりの方にも、平和を祈る心をあらためて呼び覚ましていただきたい、という願いを込めて制作しました」
舞台を楽しみながら、悲惨な史実を受け入れ、考えるきっかけにしてほしい
物語の始まりは、我孫子・手賀沼公園の「かっぱ祭り」を想起させるフェスティバル。そこに折り鶴に扮した子どもたちが灯籠流しをしにやって来ます。そんな中で、アオギリは戦時中の広島であった原爆投下の出来事を思い出していきます。
「木であるアオギリが記憶をたどる、というのは不思議に感じるかもしれません。もともと歌舞伎は物事をありのままに表現するのではなく、たとえ泥棒や悪人であってもカッコよく見せるなど、観客が楽しめるエンタメとして昇華させる舞台です。今回も原爆投下という悲惨な出来事を、ただネガティブに表現するのではなく、アオギリの視点を通して楽しんでいただける内容に仕上げました。その方がむしろ史実が皆さんの心にスッと入ってきて、記憶に残り、後々考えるきっかけにしていただけるとも思うのです」
原爆の恐ろしさを表現するのに、生々しい言葉を使うのではなく、踊りや音楽から感じ取ってもらえるような演出も意識。原爆投下のシーンは、低い音色の三味線と語りによる義太夫や歌舞伎のダイナミックな立ち回りで、黒い雨は黒衣で、火事は赤と黒のサラシで表現しています。
「また今回の舞台では、通常の歌舞伎舞踊では使わない箏の調べも入れています。故・梶田昌艶先生は戦時中に箏のレッスンを受け、空襲時にも箏を持って逃げたほど、箏を愛し、90代で亡くなる直前まで演奏を続けていた方。戦時中を生きた先生自身の視点をありのままに追体験できるような不思議な音色からも、当時の空気を感じ取っていただければ」
地域の子どもたちや音楽グループなど、たくさんの市民も参加!
我孫子市在住の若月さんは、もともと地元で市民参加型の舞台を発展させていきたいという願いがありました。昨年、初めて我孫子で開催した舞台もキャストやスタッフの多くが市内から参加していましたが、今回、その数はさらに増えています。
「折り鶴やアオギリを演じるのは地域在住の8人の子どもたち。舞台経験のない子どもがほとんどですが、稽古に一生懸命取り組み、スピード感のある踊りにもついてきてくれます。彼らの演技や踊りもぜひ楽しみにしていてください。
そして広島の平和の歌『アオギリの歌』を奏でるのは、市内でロックやポップスを中心に活動するバンド、 B-Chords(ビコーズ)。邦楽がメインの舞台の中で、彼らの、アオギリに向かって語りかけるような演奏が絶妙にマッチしているのも聴きどころです。フィナーレの音楽を担当するのは、市内在住の箏曲家・岡村秀太郎さんが在籍する箏パフォーマンス集団TRiECHOES(トライエコーズ)。彼らの音楽はSNSで累計1億2000万以上の再生を誇る人気ぶりですので、こちらもぜひチェックしていただきたいです」
その他の市民メンバーとして、舞台監督に市川貴光さん、音響に山﨑光明さん、マネージャーに小竹かつらさん、チラシデザインに櫻井麻紀子さんも参加しています。
「チラシは原爆という悲しい出来事を、未来の平和への祈りに変える、陰から陽に転ずる『タオ』のシンボル・太極図をベースに、平和の象徴である鳳凰や折り鶴、アオギリの葉、歌舞伎のイメージなどをちりばめるデザインしていただきました」
若月さんは、子どもから大人まで、地元にまつわる舞台を演じたり関わったりすることで、地元を愛する気持ちが育まれ、さまざまな学びにもつなげられる、と期待します。舞台という文化資産をみんなで盛り上げることで、地域全体もさらに豊かになっていければいいですね。
平和を祈る気持ちと他者への思いやりを大切に、日常を過ごしてほしい
原爆投下や戦争は、それまで当たり前のようにあった日常の中で突然起こった出来事です。78年がたった今でも世界では戦争が起きていて、日本でもこの先絶対に起こらないとは言い切れない現状があります。
「2019年に広島の原爆資料館がリニューアルされました。以前はやけどをして皮膚をぶら下げて歩く被爆者の再現人形があったのですが、被爆者から「被害はこんなものじゃなかった」という批判もあり、誤ったイメージが独り歩きしないよう、展示をやめた経緯があるそうです。
今はその代わりに、原爆で亡くなった人の遺品が、ご本人の写真付きで展示されています。私たちと同じようにごく普通の生活を送っていた一般市民の人生が、原爆によって一瞬で奪われてしまったという背景を伝えているんですね。今回の舞台を通して、見てくださった人が原爆投下や戦争を遠い世界の話ではなく、自分の日常にも起こりうることだと感じてもらえたら。そして憎しみや怒りを持つのではなく、一人ひとりが希望を持ち、平和への祈りを胸に、かけがえのない毎日を大切に生きていっていただきたい、と願っています」
『手賀沼今昔ものがたり』
チケット販売ページ/https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=72637&
公演日時
2023年8月18日(金)
昼の部 開演13:30
夜の部 開演17:00
(開場 各30分前、上演時間90分を予定)
料金
一般チケット3,000円(当日券3,500円)
U18チケット1,000円(当日券1,500円)
公演会場 「ふれあいホール」
住所/千葉県我孫子市本町3-1-2(けやきプラザ内)
アクセス/「電車」JR常磐線 我孫子駅南口 徒歩1分
「駐車場」けやきプラザ駐車場 92台30分無料、以降30分100円
問い合わせ/info@kikakuya.biz