「根戸城址・金塚古墳」は我孫子市の西端、南に手賀沼を望む台地の縁にあるダブル遺跡です。
長年の間、手入れがされることなく荒廃した森となっていましたが、2021年から市民の手により少しずつ整備され、現在は「北星照ラス(根戸城址の森)」(ほくせいてらす)という新名称もついて、コンサートや体験教室が開かれるなど地域の憩いの場として活用されています。
現在のように整備されるまでの経緯や、この場所の魅力、今後の展望などについてNPO住み良いまちづくり研究所の米澤外喜夫さんに伺いました。
公開 2023/08/09(最終更新 2023/12/26)

野中真規子
フリーライター歴20年。取手市出身。2021春に東京から我孫子市に移住し、手賀沼周辺の水辺や豊かな緑、遺跡、史跡、ユニークな個人商店などに囲まれた生活を満喫中。スパイスと魚影、日本語ROCK、RAP、民族的デザイン、音楽、祭り好き。https://makikononaka.com/
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我孫子市の西端、小高い丘の上にある城跡&古墳
根戸城址は、ほぼ全体が現存している城跡としては我孫子市内唯一のものです。城域は東西120m、南北100mにわたり、東西2つの郭をメインに構成。台形の主郭の四方は土塁で囲われ、その外側は南側の一部分を除いて堀があり、その東側には櫓台と見られるエリアもあります。第二郭は主郭の西側にあり、長方形をしています。城郭の北側は低地に向かって緩いスロープがあり、対岸にある船戸エリアと共に、船着場としての機能を持っていたとみられています。
16世紀の北総地区は、後北条氏の高城氏(松戸市・小金城)とそれに敵対する築田氏(野田市、関宿城)や相馬氏(守谷市・守谷城)が争っていました。この場所は手賀沼の奥まったところにあり、水上・陸上交通の要として戦略上重要な場所であったと考えられています。
その根戸城址の西側約30mのところに位置しているのが金塚古墳。5世紀前半に築造されたとみられる、市内では水神山古墳に次いで古い円墳です。その大きさは直径約20m、高さ2m。手賀沼を望む台地の上に作られた我孫子古墳群の中で、もっとも西に単独で位置しています。1963年に東京大学により発掘調査が行われ、本来被葬者を埋葬した主体部は確認できませんでしたが、被葬者とともに納められていたと考えられる埴輪や石枕、鉄製の短甲、鉾、小型の銅鏡といった副葬品などが見つかっています。
荒れた森を整備し、トイレも設置。市民の憩いの場所として再生
ライターは2021年に我孫子市に引っ越してきて以来、市内の史跡巡りを楽しんでいましたが、「根戸城址・金塚古墳」については案内看板さえあるものの、入り口もよくわからず、ただ高台にあるうっそうとした森を外から眺めることしかできない、「謎の遺跡」という印象を持っていました。
米澤さんによれば、根戸城址・金塚古墳がある丘陵地一帯の土地は、近隣神社やその氏子などが所有しており、かつては大規模な宅地開発や霊園を作る計画もありましたが、自然な空間として守られることとなった経緯があるそうです。
しかし長らく放置されて荒廃し、中に入ることもままならない状態になっていたため、地元住民の間で、「親しみのある場所にしたい」という声が高まり、所有者の理解も得た上で2021年から整備がスタートしました。柏市の市民団体からの応援要請で、NPO法人住み良いまちづくり研究所のメンバーも加わり、約1年半をかけて総勢415人が真竹や雑木を伐採。それらを破砕機でチップ状にして地面に敷き、カブトムシなどの生き物がすみやすい、より豊かな土壌づくりの基礎も行いました。金塚古墳のそばにはベンチも設置しました。
「木がうっそうと茂って暗かった空間に光がさして明るくなり、手賀沼を臨む見晴らしもよくなりました。『北星照ラス(根戸城址の森)』という新名称もつき、2023年6月には柏市の企業、三協フロンテア株式会社さんのご協力でトイレも設置することができました。整備はまだ途中ですが、これから根戸城址の外堀をぐるりと一周できるよう整備したり、北柏側のエリアにある江戸時代のあぜ道跡で、400mにわたる我孫子市の市道も整備したりなど少しずつ手を加えて、どんどん居心地の良い空間にしていくつもりです」
現在は地域の小学生向け体験教室や、コンサートなどでも活用
こうして整備された「北星照ラス(根戸城址の森)」は、現在、近隣の人が散策や写真撮影などに訪れるようになったほか、映画上映会などのイベントや、コンサートなどさまざまな催しも行われていて、毎回80〜100人の来場者が集っています。
ライターは2022年8月に開催された竹林トリオによるアコースティックライブに行きました。森の中で夕暮れの景色を眺めながら、金塚古墳をバックに奏でられる演奏を聴いて、至福の時を過ごすことができ、このような素敵な空間が近所にあることのありがたみを感じました。
また、この場所は体験学習プログラム「手賀沼スクールヤード」の会場としても活用されています。手賀沼スクールヤードは、我孫子市、柏市、松戸市、流山市の小学生に対して、住み良いまちづくり研究所および、北柏楽しいことやっちゃおうプロジェクト、三月のひまわり、のメンバーらが先生役となって、放置竹林の整備や竹灯籠作りなどの体験教育を提供するものです。毎回、子どもたちはメンバーのレクチャーを受けながら電動工具も使いこなし、いきいきと取り組みながら、放置竹林の現状や地域の自然の魅力・課題について理解を深めています。
来たる2023年8月11日(金・祝)、12日(土)には森の映画上映会「北星照ラスのなつやすみ」というイベントも開催されます。「長ぐつをはいたネコと9つの命」が上映されるほか、竹灯籠作り教室(定員に達したため申し込み締め切り)、4組のアーティストによるアフタヌーンコンサートも行われる予定です。
「北星照ラス(根戸城址の森)」をさらに有効活用していくために
現在、NPO住み良いまちづくり研究所では、この場所をさらに活用していくための仲間を募集中とのことです。
同団体は「北星照ラス(根戸城址の森)」の整備をするほか、手賀沼周辺で放置された竹林を整備し、間伐したものを活用しながら竹灯籠や竹の雑貨、竹炭などを製作し、さまざまなイベントで提供する活動を行っています。
その背景には放置竹林が抱える深刻な問題があります。昭和30年代まで、竹は農機具、食器、かごなどを作る素材として活用されており、手賀沼周辺にもたくさんの竹林が残っています。しかし昭和40年代以降それらがプラスチックで代用されるようになり、今や竹の利用法といえばたけのこを食べるくらいになりました。地域の高齢化も進んだことから多くの竹林の管理が行き届かなくなり、放置されているのが現状です。
竹は普通の樹木と比べて根を張る深さが30〜40センチ程度と浅いため、竹に侵食された土地は保水力がなくなり、根の下に水がたまって「竹なだれ」が起こる危険性も高いとか。昔は「地震のときは竹林に逃げろ」と言われましたが、今はそうともいえなくなってきているのです。また現在、手賀沼周辺には240種類ほどの野鳥がいるといわれていますが、放置竹林では植物の光合成ができず、地面にカビが生え、虫がすめなくなります。食べる虫がいなくなれば野鳥も来なくなってしまいます。
「当団体の活動はこうした『竹害』を防ぐことをベースに、イベント開催による地域おこしを目指しています。間伐した竹を使った竹灯籠作りは電動ドリルを使いますが、初心者でもメンバーの指導を受けながら簡単にできるようになります。かっぱ祭りや新春竹宵など、市内で開催するイベントに運営側として参加するのも、知り合いが増えて楽しいですよ。現在メンバーは小学生から80代まで80人ほどいて、みなさん和気あいあいと活動されています。できる時に、できることをする形で、ぜひ楽しんで参加いただければ幸いです」
根戸城址・金塚古墳(北星照ラス・根戸城址の森)
住所/千葉県我孫子市根戸1343
駐車場/40台(駐輪場とは別。場所は上のチラシをご確認ください)
アクセス/車の場合:常磐自動車道・柏ICから15分
電車の場合:JR北柏駅より徒歩7分
問い合わせ/090-6503-2084 (米澤)