2024年パリオリンピックの新種目として関心を集めている「ブレイクダンス(ブレイキン)」。ヒップホップ文化から生まれたダンススポーツで、即興の音楽に合わせてアクロバティックに踊るのが特徴。実は、日本はトップクラスのブレイクダンサーがそろう強豪国。2020年にはプロのダンスリーグ「D.LEAGUE(ディーリーグ)」も発足し、ブレイクダンスシーンは盛り上がりを見せています。
千葉県出身のYuikaさんは、高校生の頃から「D.LEAGUE」に出場するチームの一つ「KOSÉ 8ROCKS(コーセーエイトロックス)」に所属し、そのパフォーマンス力の高さから、国内外のB-BOY、B-GIRL(男性、女性のブレイクダンサーの呼称)から注目を集めています。その軌跡とブレイクダンスの魅力について、Yuikaさんに話を聞きました。
Instagram @bgirl_yuika_
D.LEAGUE KOSÉ 8ROCKS
公開 2023/08/29(最終更新 2023/09/08)

小学3年生からブレイクダンスに夢中 きっかけは「ウィンドミル」
身長150cmとは思えないダイナミックでパワフルな動き。Yuikaさんが注目を集める理由の一つが、パワームーブと呼ばれる遠心力を使った大技。熟練のブレイクダンサーが「これだけ完成度の高い大技をできる人は女性の中ではなかなかいない」と評するほど、高い技術力でハイレベルな動きを繰り出します。
「パワームーブの一つに、床に背中を付けながら両足を回転させる『ウィンドミル』という技があるのですが、小学3年生のときにこの技をやっている女の子を見て、『絶対に自分もできるようになりたい』と思ったのがブレイクダンスを始めたきっかけです」。
若い頃からダンスを続けているという母親の影響で、幼少期からヒップホップを習っていたYuikaさん。同時に水泳や体操、キックボクシングなど、さまざまなスポーツを習ってきましたが、運動神経が良かったことから、割とどれもそつなくこなしていたのだとか。ブレイクダンスはいわば初めての壁。ブレイクダンス専門のスクールに通い「ウィンドミル」を習得するまで、肩や腰があざだらけになりながらも誰よりも熱心に練習をしたと言います。
「負けず嫌いなんです。友だちより先にできるようになりたい。1年くらいかけて、ようやくできるようになったときには、すっかりブレイクダンスに夢中になっていました」。
母親はダンス経験者ではあるものの「こうしなさい、ああしなさい」と口出しすることは一切なく、練習の送迎や大会前の食事管理を行ってくれたと言います。父や2人の兄も大会に応援に来てくれるなどYuikaさんの活躍をそっと応援。 「家族にずっと、さりげなく応援してもらっていたのは本当にありがたかったですね」。
今、ダンスをしている それだけでうれしい
高校時代のYuikaさんは数々の大会で成績を残します。2019年には世界大会「BATTLE OF THE YEAR」の日本予選においてB-GIRL部門で準優勝、2020年には「全日本ブレイキン選手権」ユースB-GIRL部門優勝、国内最大級のバトルイベント「Red Bull BC One Cypher Japan」においては、B-GIRL部門の招待選手に選ばれるなど、国内外のダンサーにその名が知られるように。さらに、D.LEAGUEで活躍するチームの1つである「KOSÉ 8ROCKS」のメンバーにも選ばれ「最年少の現役高校生B-GIRL」としてメディアからも注目を集めるようになります。
「世間からは『ダンスを仕事として選んだ』とか、『ダンサーになる夢をかなえた』と思われるのかもしれませんが、私は子どもの頃も高校時代も、今も、ただダンスをしているだけ。KOSÉ 8ROCKSに入ったのも、世界レベルのダンサーと同じ空間で練習ができる、一緒にショーを作れる、そういうことがうれしくて、楽しくて。それで、今もダンスを続けているんです」。
世界的な大会で結果を出す、オリンピックに出場する、いくつかの目標はあるものの、それよりも「自分が納得いくダンスを見つけたい」というYuikaさん。
「ミュージカリティ(音楽性)もまだまだだし、対応力やアドリブ力も全然。もっと自分のダンスを好きになりたいし、うまくなりたいと思っています」。
「推しダンサー」を見つけたらもっと好きになるし踊ってみたくなる
「音楽がかかると自然と体が動く」。
大会前は、1日に3~5時間ほどかけて自分の持ち技を繰り返し練習してブラッシュアップし、大会後は今まで挑戦したことがない技や自分で考えた新しい動きを作るそうです。一人で鏡の前に立ち、ときには動画を撮って自分の動きを確認。そうしていくうちに、体の動きだけでなく「ダンス脳」もどんどん磨かれていくような感覚になるのだそう。
「人のダンスを見るのも好きですね。ダンスって、同じことをしていても人によって全然違って見えるんです。体のクセやこだわりが出るのかな。この人の踊り方が好きだなとか、あの技カッコいいなと思ったら、すぐにやってみようって体が動き出します」。
現在、日本のストリートダンスの競技人口は約600万人(一般社団法人ストリートダンス協会のHP参照)とされ、パリ五輪を目前に控えた今、世界的にもブレイクダンスをたしなむ若者がどんどん増えています。
Yuikaさんは「とにかくたくさんの人にブレイクダンスを見てほしい。『この人を応援したい』と思えるダンサーを見つけたら、もっと好きになると思うし、自分も踊ってみたいと思うかもしれない。『好き』という気持ちがあれば、だれでも、何歳からでも挑戦できるスポーツだと思います。私のダンスで誰かの心に何かを残せたら……とても幸せなことだなと思います」。
(取材・執筆/高橋顕子)