防災の新しい考え方、「備えない防災」フェーズフリーを知っていますか。

実際に商品を開発している企業に話を聞きました。

フェーズフリーとは…
日常と非常時という2つのフェーズ(局面)を区別せずに、非常時にだけ取り出すのではなく、いつもの生活で便利に活用できて、もしもの際にも役に立つモノやサービスのこと。

 

公開 2023/08/23(最終更新 2023/08/21)

編集部 信太

編集部 信太

千葉県初心者、編集部所属の取材記者です。おいしい珈琲を飲ませないとポンコツです。読み方はシンタでもノブタでもご自由に♪

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誰もがよく知るベストセラー商品の生みの親

市川市に東京本社を構える株式会社テラモトは、ビルメンテナンスの清掃用品や玄関マット、人工芝やベンチなど、主に法人を対象にした環境美化用品の総合メーカーです。

創業は1927(昭和2)年。

テラモトの名前は知らなくても、テラモトを代表するこのロングセラー商品のことは、おそらく誰もが見覚えあるのではないでしょうか。

タンポポマット
昭和の時代からお馴染みの玄関マット「タンポポマット」の生みの親がテラモトです

正式名称は「タンポポマット」。靴の裏に付いた雪や泥汚れを落とす玄関マットです。

工事現場や雪の多い地域、農家などで根強い人気を誇りますが、ここ最近の昭和レトロブームで若い人たちにも注目されているとか。

ちなみに、タンポポの由来は「全国どこでも見かける、踏まれても力強く成長して花を咲かせる」ことから名付けられたそうです。

また、テラモトは人工芝のパイオニアとしても業界で知られる存在です。今も保育園や幼稚園などで広く採用されています。一般消費者にその名は知られていなくても、目立たないところで広く長く活用されるものを作っている「縁の下の力持ち」な企業です。

人工芝 株式会社テラモト
人工芝の世界でもパイオニアです

阪神・淡路大震災の実体験から商品開発へ

そのテラモトが2010年に発売した「レスキューボードベンチ」は、普段は普通のベンチとして、いざ災害時などには負傷者を運ぶ担架に早変わり。工場や学校、市民会館などの公共施設や体育館、運動場などに置かれ、熱中症などの急病人を運ぶ際にも活用されています。

レスキューボードベンチ
手前のオレンジの座面が「レスキューボードベンチ」

テラモトの本社は大阪にあり、1995年の阪神・淡路大震災を経験しています。同社の担当者によると、「当時の社員たちは、レスキューの到着を待たずに周りの人と協力して負傷者を運び出したり、壊れた家屋の扉などを担架の代わりにしたりといった経験をしたそうです」

「有事の際に必要なものが身近になくて困った」一方で「身近なものを工夫して代用できた」、この経験から「普段身近にあって、いざという時に役に立つものを作ろう」と思い立ち、商品開発を始めました。

わが子の学校で使われている場面に遭遇し、感動

担架はめったに使う機会がないので倉庫の奥にしまわれてしまう、ある程度の丈夫さ・大きさも必要なので場所をとるもの。では身近に置いておくには…と考え、同社の主力商品の一つであるベンチと組み合わせるアイデアが生まれました。

しかし2008年に発売した前身の「レスキューベンチ」は、なかなか売れなかったそうです。

レスキューベンチ
先行品の「レスキューベンチ」は脚が持ち手になるタイプで、重さがネックでした

「ベンチの脚が持ち手になるので、約17kgと重たかったんです。普通のベンチに比べて価格が高いこともネックでした」。しかし、当時の社長(現会長)が「これは絶対に世の中に必要なものなので作り続けるべし」と、廃番にすることなく全社をあげて改良を進めました。

そうして誕生した「レスキューボードベンチ」は、総重量約22kgでベンチとしての安定感を保ちながら、いざというときに担架になるボード(座面)部分を脚から脱着できるので、ボードだけなら約7kgと、大幅な軽量化に成功しました。

レスキューボードベンチ
本体(脚)に案内と使い方を表示
レスキューボードベンチ
誤って座面が外れないようロック機構付き

四隅の穴が手すり代わりになり、安全固定ベルト付き。座り心地の良いクッション付きの姉妹品も登場し、近年はフェーズフリーの考え方から一層注目されています。

レスキューボードベンチ

レスキューボードベンチ
担架として使う時は四隅の穴が持ち手代わりに(本来は大人4人で持ち上げることを推奨)
レスキューボードベンチ
固定ベルト付きで安全

わが子の授業参観で小学校に出掛けた時に、足をくじいた児童をレスキューボードベンチに乗せて運ぶ場面に遭遇した社員もいるそうです。「『役に立っていると実感できて、感動した』と話していました」と担当者。

最後に「防災用品は、『使わないに越したことはない』ものですよね。だから身近に置かれてこなかった。これからは『普段から使える方が効率的』という考えにシフトチェンジして、日常生活の邪魔にならないように、そしていざという時には本当に役に立つ商品を開発していきたい」と話してくれました。