地域新聞社は、今年もエッセイコンテストを開催しました。
2023年、第15回の募集テーマは「成長を感じた時」。
4月~6月に募集を行い、一般部門と小中学生部門合わせて257作品の応募をいただきました。
その中から、一般部門の最優秀賞、優秀賞に選ばれた3作品を紹介します。
たくさんのご応募、誠にありがとうございました!

最優秀賞「面影」
千葉県八千代市 三膳 智香さん
土曜の朝9時、やっと布団から這いでる。最近はじめた在宅ワークが、思っていたより辛くて、カラダがだるい。
ザアザア。外は土砂降り。昨日から続く大雨で、土砂災害警報がでている。
「今日もメダカにエサあげられないかな・・・」
私は、庭に大きなタライをおいて、メダカを飼っている。
元々、飼いはじめたのは夫の方。去年の今頃、小さなビニールハウスのメダカ屋さんで、黒とオレンジの色をしたラメ入りのオスとメスを買ったことがきっかけだった。夫は、いまではエサをあげるどころか、タライの中を覗くことすらしない。
一方、私は、はまりにはまる。
メダカの調子が悪くなってないか、けんかしてないかと観察し、1週間に1回は、タライの中を掃除する。
卵を産んだなら、卵だけ別の容器に移して、毎日、新しい水に替える。卵からふ化して、小さな稚魚が泳ぎだした時は、涙がでるくらい感動した。
気がつけば、メダカは300匹以上いる。
今日の大雨でも、去年の私なら迷うことなく、エサをあげにいっていた。でも今は、3か月以上もエサを食べずに越冬した姿を見たから、2日くらいエサを抜いても、生きていけることを知っている。
そもそも、夫はどうしてメダカを飼おうと思ったのか?
私が娘を亡くしたのは、3年以上前。まだ生後4か月だった。
娘を亡くしてからというもの、何をしても楽しいと感じることはないし、心から笑える日はない。そんな私を、夫は見るに見かねて、メダカに託したのかもしれない。私は、娘にしてあげたかったことを、知らぬ間にメダカにしていたのだ。
一年育ててみて、飼育のポイントはかまいすぎないことだと気がついた。何度も見たり、頻繁に掃除することは、メダカにとってはストレスなのだと。放っておいても、勝手に成長する。
「これが子離れする時の母親の感覚か・・・」
天気予報は「昼からしだいに晴れる」と言っている。

三膳 智香さん
最近、書く仕事を始めたので夫に「書いてみたら」と勧められ、初めてエッセイに挑戦しました。成長というテーマに対し、大人でも、ちょっとしたことに気づいたり、少し考え方を変えることができた時、それも成長していると言えるのではないかと思い、日常の中からそれを表現してみました。自分が受賞するなんて驚きましたが、きっと、娘のあすみが導いたのだと思います。
優秀賞「プレゼントの変化」
千葉県松戸市 田谷 伊生赳さん
僕を女手1つで育ててくれた母さんは、僕がまだ幼い頃から、自分の人生のほとんどを僕と弟に費やしてくれたような人だ。仕事をし、ご飯を作り、洗濯物をし。何から何まで1人でこなしていた。そんな母に感謝の気持ちは感じていたものの、普段はありがとうの一言すら伝えるのが恥ずかしかった。それでも、誕生日だけはせめてもと、何かあげるのが慣習になっていた。
小学校3年生の頃、母に美味しいものを食べて欲しいと、近所の花屋でバジルの苗を買った。店員のお姉さんは「もう少し色が綺麗なお花もあるよ?」と僕に言ったが、「これがいい!」と譲らなかった。家に帰って母に渡すと、喜んでくれたものの、食べることはなく枯れてしまった。僕は、「ママはバジルが嫌いだったのかな」と思った。中学校2年生の時は、母にずっと綺麗でいて欲しいとネイルを渡した。母は相変わらず喜んだが、つけているところは見たことがなかった。僕は、「母さんはプレゼントなんて嬉しくないんだ」と思った。高校生の頃は、なにもあげなかった。それどころか反抗期やら受験やらで気が立っていた僕は、ほとんど母と話さなかったし、口を開けばひどいことを言って傷つけた。
そんな僕も今は大学4年生になり、実家を出て暮らしている。今になって振り返ると、離婚したばかりで新しい仕事に慣れるのに大変だったであろう母は、バジルを使うようなお洒落な料理を作る時間なんてなかっただろうなと思う。毎日の洗い物で荒れた手に、ネイルは塗る気にならないだろう。高校生の頃は、毎晩僕より遅く寝て、朝は早起きしてお弁当を作ってくれていた母。ありがとうの一言でも言っておけばよかったと思う。
親元を離れて母のありがたみを痛感するとともに、自分のセンスもずいぶんと変わったものだ。今年は、最近腰が痛いという母に新しいマットレスを送った。21 年分の感謝を綴った手紙を添えて。

田谷 伊生赳さん
たまたま紙面を見てエッセイの募集を見つけました。エッセイは初挑戦でしたが、元々読書も好きで、日記もずっとつけてきたので何か書けるかなと。最初は部活のことや大学受験のことなど書こうとしましたが、母のことと決めたら1時間くらいですらすらと書けました。母にはまだ見せていないのですが…喜んでくれるかな。
優秀賞「左手」
茨城県取手市 藤本 絵梨佳さん
うちは日々プリンセスに憧れている長女と、常にマイペースを崩さない次女。そして私の3人暮らしだ。
長女は、ものすごい人見知りだった。どこへ行くにも私がいないと大泣き。スーパーで知らない人に声をかけられるだけで顔を歪めて泣くくらいだった。3歳で幼稚園に入ったが、やはり毎朝私に縋り付いては涙を流すのが日課だった。先生曰く、大抵1ヶ月、長くても半年くらいでそれは治るものらしい。しかし入園して1年、年中さんになってから半年を過ぎても毎日泣き続けた。いつになったら泣かないで行くんだよと、イライラした事はもう数え切れない。
そんな長女が今年の4月から1年生になった。仕事のため、入学式より前は学童で見てもらえる事になっていた。
学童初日、お気に入りの服を纏い、これまたお気に入りのリュックにお弁当と水筒を入れ、私に言われるまま車に乗り込む長女。「はあ、心臓がドクドク言ってる。」胸に手を当てながら話すその表情は、3年前のあの通園の毎日を思い出させた。
駐車場に着き、「降りるよー」と声をかける。少しもたつきながらも車から降り、私の手を慌てて握り玄関へ向かう。繋いだ手から緊張が伝わってくる。
「おはようございます!あ、新1年生だね!よろしくね!」学童の先生が明るく迎え出てくれた。長女の顔を覗き込む。すると、それはもう私の知っている長女の顔ではなかった。少し不安気で、でもしっかりと前を向き、希望に満ちた目をしていた。いつの間にか離されていた左手に気が付き、「いってらっしゃい」と慌てて声をかけると、「行ってきます」と、凛とした表情で手を振ってくれた。目に涙が溢れてきた。あの時と逆じゃないか。私が泣いてどうする。
知らぬ間に成長していた長女の背中が見えなくなるまで涙を堪えたが、それはドアが閉まると同時に溢れた。そして、私も負けないぞと心の中で呟いた。

藤本 絵梨佳さん
毎週ポストに届く「ちいき新聞」が楽しみで、エッセイ募集の記事を見かけたので応募しました。成長=子どもという感覚があり、二人の子どもたちの日々の何げない仕草から成長を感じることがあって、すぐに思いついて書くことができました。受賞を知り、とても驚いたとともにうれしさでいっぱいでした。来年も自分の思ったことが表現できそうなテーマでしたら、ぜひ応募してみたいです。