JR取手駅から徒歩5分の所に本店があり、時の天皇陛下にも奉献したことのある奈良漬のお店です。

4代目の田中秀(しゅう)さんにお話を聞きました。

公開 2023/09/20(最終更新 2023/09/15)

編集部 石田祐葵子(いしだゆきこ)

編集部 石田祐葵子(いしだゆきこ)

編集/ライター/漫画家/イラストレーター 埼玉県出身、東京都江東区在住です。以前は漫画業界にいました。漫画の師匠は安野モヨコ先生です。『江ノ島高校ワンダーフォーゲル部』で検索!今は「ちいき新聞」編集者。千葉県いいところですね!★Twitter★@LoveMtmoutain

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利根川で酒造・舟運業から奈良漬へ

創業者・田中新六さんは江戸時代後期に酒造業を営んでいましたが、その後、利根川を行き交う舟運の仕事に切り替えました。

その頃、自家製でかす漬(奈良漬)をつくり近所に配ったところ、「おいしい」と評判を呼びました。

1868(明治元)年、新六さんは、舟運から鉄道への変化の流れを察して、奈良漬をなりわいとした「新六の奈良漬」を創業し、製造販売したそうです。

「株式会社 新六本店」【茨城県取手市】
製造蔵は、1916(大正5)年に作られ100年以上の歴史があり、2回の震災に耐え、現在も現役の蔵として使われています

奈良漬に使う酒粕は酒造業の技術を生かし、原料となるウリやキュウリの野菜が利根川水系に広く栽培され手に入りやすかったという背景があります。

その後も、製法を研究錬磨し、1900(明治33)年に明治天皇陛下へ奉献、29(昭和4)年、昭和天皇陛下が天覧され、宮内省よりお買い上げになりました。

「株式会社 新六本店」【茨城県取手市】

「株式会社 新六本店」【茨城県取手市】

味一筋で155年 最高の奈良漬を

1896(明治29 )年、常磐線が開通してから数年後、取手駅では新六専属の販売員がホームから列車の乗車客に「取手名産新六の奈良漬はいかが〜」と立ち売りしていました。

戦後は、世の中が荒廃してしまったため、生活必需品や食料品を販売し、世情の安定とともに奈良漬専門店へと戻っていきました。

現在では、茨城県南部のスーパーや千葉県北部のデパートの物産コーナーに贈答用として、またJR我孫子駅から松戸駅の各駅の売店にお土産用として、委託販売しています。

コロナ禍をきっかけに通販も開始しました。

しかし、販売の主力は本店での直売、遠方から直接買いに来る人も多いそうです。

「株式会社 新六本店」【茨城県取手市】
種類が豊富で、贈り物としても人気

「店を継いでからは、絶えず、内的・外的要因でピンチが襲ってきた。東日本大震災やコロナ禍など、いつでも乗り越えてきた。それがのれんを守っていくこと」と4代目・田中秀さんは話します。

「株式会社 新六本店」
4代目・田中秀さん

「社員ともども誇りを持って、最高品質のいつ食べてもおいしい奈良漬をお客さまにお出しする」その姿勢でピンチを乗り越えてきたと胸を張る秀さん。

「創業から地場(茨城県南部)の新鮮な野菜を、地場の酒粕とみりん粕で漬ける。添加物は一切使わず、すべて手作業で5度漬けしている」と奈良漬への思いを語ってくれました。

長く続く秘訣(ひけつ)を伺ったところ、「人間の味覚は時代によって変わるから、(味に)固執しないで、時代に合った味を作っていくこと」とのこと。

店では、シイタケ、メロン、パパイヤなどそれまでなかった野菜や果物を使った奈良漬を次々に発売。

伝統を守りながらも、革新を続けています。

「株式会社 新六本店」【茨城県取手市】
近年発売された商品。食べやすいようにカットやされています