季節の日差しを透すガラスのかけらを集めて、ふたつとない作品を創り上げる千葉県在住の作家「とむ☆とむ」さん。全国にファンを持つステンドグラス作家の情熱と葛藤、描き続ける夢についてお話を伺いました。

公開 2023/10/19(最終更新 2024/02/29)

雪道

雪道

高知県出身、船橋市在住。元英語講師。ロック好き。読書好き。月村了衛、笹沢左保、有栖川有栖が好きです。残りの人生の目標は、ピアノとドイツ語をならうこと。好きな言葉は「ご縁」。

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光の芸術「ステンドグラス」に季節の歩みを映して

「絵付けを施したガラス」という意味のステンドグラス。

その起源を明確に示す歴史的根拠は発見されていませんが、日本に初めて伝来したのは19世紀末、年号が明治に改まった文明開化のころといわれています。

建築物などに幅広く活用され、愛され続けるステンドグラスに、季節の移ろいや空気の色、光のたたずまいを重ねてオブジェなどを作り出す「とむ☆とむ」さん。

すべて一点ものである彼女の作品をご紹介していきましょう。

ステンドグラス作家「とむ☆とむ」絵を描くように創る、季節の光の物語【千葉県】
「木漏れ日がキラキラのこびと村」(写真提供:とむ☆とむ)

新緑の葉からこぼれる木漏れ日が、6月の空の色に映える作品。

とむ☆とむさんの作品テーマのひとつ「こびと村」は、ジブリ映画のこびとたちが楽しく暮らせるように、との思いで作り始めたものだそう。

「ステンドグラスに出会ってから、小さなおうちを作っていました。並べたら街ができるなぁ、と思っていた時に映画を見て、『こびとの街をつくろう!』と思い立ちました」と優しい笑みで振り返ります。

ステンドグラス作家「とむ☆とむ」絵を描くように創る、季節の光の物語【千葉県】
「秋色のピアストレー」(はんだを使用しているため食品など口に入れるものは置けません)(写真提供:とむ☆とむ)

小さなこびとのおうちを集めたミニトレー。

えんじ色や紫色のガラスを使用し、縁取りのはんだはアンティークゴールドに染めて、落ち着いた色合いに仕上げています。

力強くまっすぐな夏の日差しから、透明度の高い秋色の光へ。

ガラスの美しさはもちろん、季節の光を透す影の豊かな表情をいつまでも眺めていたくなるミニトレーです。

とむ☆とむ作品が生まれる場所。ひとつひとつの工程を丁寧に重ねて

今回、とむ☆とむさんの作業部屋を特別に見学させていただきました。

「気を付けてくださいね」と声をかけられつつ入室すると、窓辺にはさまざまな大きさ、色とりどりのガラスがたくさん!

ステンドグラス作家「とむ☆とむ」絵を描くように創る、季節の光の物語【千葉県】
ガラスを扱うので危険と隣り合わせ。軍手をはめて、足元は分厚いスリッパを履きます

職人が製造した「アンティークガラス」が大半を占めています。

手作業のためガラスに気泡やしわが入り、光を受けると特有の風合いが生まれるのが魅力。

「太陽の光にかざすと色調や表情が変わるんです。きれいでしょう?」と、ひとつひとつを窓辺に掲げて光を透して見せてくれたとむ☆とむさん。

「どんなに暑くても、日差しを透して見ることが欠かせません」と、苦笑いを見せながらも楽しそうに話します。

太陽光の角度や色合いは、日々少しずつ変化しており、その光をまとうガラスを用いるからこそ、その季節に、その日にしか作れない作品が生まれるのだそうです。

ステンドグラス作家「とむ☆とむ」絵を描くように創る、季節の光の物語【千葉県】
細かい作業は指を痛めることも。この日もとむ☆とむさんの指の関節にはテーピングが

実際に作業の一部を見せていただきました。

割ったガラスにぐるりとコパー(銅)テープを巻き、密着させます。

このあと、ガラスのコーティングや、ガラス同士を溶接してつなぐ「はんだ付け作業」に進むのですが、はんだは金属にしか施せないので、ガラスに銅テープをあらかじめ巻く必要があるのです。

ステンドグラス作家「とむ☆とむ」絵を描くように創る、季節の光の物語【千葉県】
葉っぱに変身するガラスにはんだを「盛って」いきます

実はこのはんだ付けの作業に、自分らしさを見いだしていると、とむ☆とむさんは話します。

「でこぼこしている感じ、ちょっといびつな感じが、やわらかく優しげな雰囲気を醸しているかなと思うようになりました」

ステンドグラス作家「とむ☆とむ」絵を描くように創る、季節の光の物語【千葉県】
ステンドグラスランプ 鉱石の森~バイカラートルマリンの家~(写真提供:とむ☆とむ)

こちらは、鉱石の森に暮らすこびとが少しずつ集めた石を積み上げたような、ひずみがあるからこそ感じられる温もりがある作品。

丁寧に、手間を惜しむことなく心を込めてひとつひとつの作業を重ねていく、あたたかく誠実なとむ☆とむさんの人柄を表している作風であると、筆者も感じました。

「つくることは、自分をゆるすこと」自由に表現する道に出会って

幼少時から大好きだったというガラス。

「ガラスは、光を受けて、いろんな色や表情を見せてくれます。自分がどうしたいか、ではなく、ガラスが導いてくれる感じ。それが楽しいんです」

ステンドグラス作家「とむ☆とむ」絵を描くように創る、季節の光の物語【千葉県】
「失敗はないです。どれもかわいくて、面白い形。生かしてどんな作品ができるかとわくわくします」(写真提供:とむ☆とむ)

小さな、小さなガラスの端材たち。

「思い通りの形に割れなかったり、余ってしまったり。でも捨てたくなくて、コパーテープを巻いて、ためておくんです」

そんな「かわいい宝物」を眺めては想像をふくらませて作り始め、気に入らなくて何度も解体しながら、少しずつ出来上がりのかたちが見えてくる。

ステンドグラス作家「とむ☆とむ」絵を描くように創る、季節の光の物語【千葉県】
「珊瑚ツリーのランプ」上部はサンゴの産卵のイメージ(写真提供:とむ☆とむ)

こちらは、そのように試行錯誤をくり返した末に完成した「珊瑚ツリーのランプ」。

友人から、四国地方の南の海に1000年以上生きていると推測される「千年珊瑚」があると聞き「想像して涙をこぼしながら」、何度も失敗しながら創り上げたそうです。

夜、ランプを灯した姿もきれいだけれど、太陽の光を受けてまるで生命力の輝きのようにエネルギーにあふれるたたずまいは、見るものを圧倒する美しさです。

「眺めていると産みの苦しみを忘れていました」ととむ☆とむさんも清々しい笑顔を見せます。

子どものころから「型通りにきちんとできず、こんな自分じゃダメなんだと思い込んできました」と明かすとむ☆とむさん。

からだの不調を感じていた50代、訪れたステンドグラス教室で出会った講師の自由な作風と、おおらかに見守ってくれる姿勢。

次第に作業に没頭する中、「自由でいい、自分の好きなようにしていいんだ」と、まるで自分を「ゆるす」ような感覚に包まれ、さらにステンドグラスに夢中になったと話します。

型紙を一切作らず、ひとつひとつのガラスを見つめ、自分と向き合い、丁寧に時間をかけて作り上げる、すべてがふたつとない宝物のような作品たち。

物語を内包するステンドグラス作品の魅力に、あなたも出会ってみませんか。

とむ☆とむ
Instagram/@tomtom_handmade
作品販売サイト/https://minne.com/@tomtom-glass