佐原を訪れるたび、ずっと気になっていた存在。それが「柿の神髄」でした。酒井田柿右衛門風の上品な絵柄のボトルに、何やら強い信念を感じさせる商品名。体に良さそうなものに目がない私は、毎度店頭で悩むのですが、普段買っているお酢と比べると値が張るもので、なかなか手が出ずにいたというのが正直なところでした。しかし、後に縁あって取材の機会を頂き、その価値を知ることになるのです。

公開 2023/12/15(最終更新 2024/03/21)

広田 みずほ

広田 みずほ

埼玉県生まれの千葉県民。地域新聞社で広告の企画営業、編集部を経て現在広報担当。好きなものは東南アジアとハイボール。勝田台駅周辺の酒場放浪記を書きたい。★X(旧Twitter)★@tahirom2

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自然発酵にこだわった無ろ過・非加熱の柿酢

【ちいきの逸品】発酵に1年、熟成に2年以上 香取の空気が醸す柿酢「柿の神髄」(酢之宮醸造所)
酢之宮醸造所代表の宮嵜博之さんと女将の宮嵜和美さん

気持ちいい風が吹き抜ける古民家の縁側で、宮嵜博之さん・和美さんご夫婦のお話を伺いました。

ここは千葉県香取市、香取神宮からほど近い里山の奥にある酢之宮醸造所。柿酢造りの拠点となる物件を探していた宮嵜夫妻は、1軒目にこの場所を見て、一目で気に入ったと言います。その理由は「空気」。「柿酢を造るために整えてくれていたのではと思うくらい環境が良くて、運命的な感覚でした」。二人が造る柿酢に使うのは、霞ケ浦周辺で取れた柿と、それを発酵させる空気だけ。「香取に移る前は、仕込んだものの半分ほどが失敗に終わっていたんですが、ここに来た途端、造り方は同じなのに全部うまく仕上がったんですよ」と博之さんはうれしそうに話します。

【ちいきの逸品】発酵に1年、熟成に2年以上 香取の空気が醸す柿酢「柿の神髄」(酢之宮醸造所)
全て手作業で造られる無添加の「柿の神髄」

柿酢とは、柿そのものを自然発酵させて造るお酢。柿をお酢に漬けるのではありません。栄養豊富な柿を生かして、古くから伝えられてきた先人の知恵です。ろ過も火入れもしなければ、水も一滴も使わず、自然発酵菌の力でひたすら発酵させます。仕込んでから出荷できるようになるまで待つこと3年から4年。このシンプルな製造過程を聞けば、「空気」がいかに重要であるか納得がいきます。

そんな柿酢造りを宮嵜夫妻が始めたきっかけは、博之さんが患った「潰瘍性大腸炎」でした。

使い方は自由 自分で答えを見つける「食養」

20代後半から潰瘍性大腸炎に悩まされていた博之さんは、会社勤めを辞め、病気と向き合うことに専念。食生活を通して体を整える「食養」を学びました。昔ながらの一汁一菜の食事と少しの柿酢を取る生活を毎日続けるうち、症状は徐々に改善されていったそうです。柿酢が自分の体に必要なものだと実感した博之さんは、それを伝えていくことで恩返しをしたいと考え、2013年に起業。和美さんと共に本格的に柿酢造りを始めました。

「毎日どれくらい取れば良いのですか?」と尋ねると、和美さんから意外な答えが返ってきました。

「好きに使ってくれていいんですよ。人によって体の受け取り方は違うので、自分がいいと思ったらそれが答え」

そう言って出してくれた宮嵜家のお昼ご飯。

【ちいきの逸品】発酵に1年、熟成に2年以上 香取の空気が醸す柿酢「柿の神髄」(酢之宮醸造所)
柿酢を使ったおかずを新米と自家製みそのおにぎりと共に

この中の納豆、シソの実の酢じょうゆ漬け、梅干し、きのこのマリネに柿酢が使われています。単体だと力強さを感じる柿酢ですが、食材と合わせると不思議とよくなじみ、まろやかな味わいです。生きた酵素は熱に弱いため、加熱さえ避ければ、後は何に入れても良いとのこと。普段使っているお酢と同じように酢の物や酢漬けに使うこともできますし、肉料理や魚料理にほんの少しかけるだけで深みが増します。

「自分の感覚を大事に、柿酢を使ったことによる変化を楽しんでもらいたい。『私はこれが好き』っていうものを見つけてくれたらいいなと思います」

そう語る和美さんの元には、お客さまから「こんなふうに使っています」というさまざまな声が届き、それがまたうれしいと話します。

自然界の恵みをいただき、体と向き合うことで見えてくるもの

【ちいきの逸品】発酵に1年、熟成に2年以上 香取の空気が醸す柿酢「柿の神髄」(酢之宮醸造所)
醸造所の中には柿を発酵させる大きなタンクが五つ並び、時季になるとパチパチと炭酸がはじける音を響かせます

柿酢の仕込みを始めるのは毎年9月末から10月頭ごろ。契約農家で収穫された柿を一つ一つ選定します。手作業で丁寧に裁断しタンクに移された柿は、じっくり発酵しながら冬を越え、春の訪れとともに「搾り」の作業を経て液体になります。その後は人の手を加えず、気温の上昇に合わせて活発になっていく酢酸菌の生命力によってお酢に変わっていきます。

まさに自然のなせる業。神様からの贈り物です。

宮嵜夫妻は、「柿酢が自分の体と向き合う一つのきっかけになれば」と話します。

「自分の体を自分で整えられるということに気が付くと、自分の生活は自分でコントロールできるんだと分かる。そうすると、『私はこういうふうに生きたい』といった考えも自然と湧いてくると思うんです」と和美さん。

二人が目指すのは、一歩踏み出そうという時そっと背中を押すように、「自分らしく生きるための応援」をすること。そして、柿酢を取り入れた生活を「文化」にしていくこと。そのためにもっと柿酢を知ってもらおうと、柿酢を生かした加工品の開発にも取り組んでいます。

生き物相手の柿酢造りにゴールはありません。その年の気温や湿度によっても仕上がりは若干変わってくるため、「今も研究の途中」と話します。「柿の神髄」という名を裏切らぬよう、二人は今日も柿酢の声に耳を澄ませています。

取材担当おすすめポイント

食は全ての基本。取材して以来、自分の体をいたわってあげることは生き方にもつながってくると思い、毎日の柿酢を習慣にしています。一番のお気に入りは納豆に入れる食べ方。みじん切りにした新しょうがを柿酢に漬けた「酢しょうが」も、さまざまな料理にかけると良いアクセントになりますよ。

酢之宮醸造所
住所/千葉県香取市新部474-1
電話番号/0478-79-6474

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