人生の晩年を迎えるにあたり、生前整理を意識し始める方も多いといわれています。生前整理は近年のSNSやメディアでも取り上げられる機会が多く、終活の一環として考えている方がいます。しかし、いざ終活を始めるにあたり、タイミングや進め方がわからないという方も少なくありません。また、生前整理の必要性に疑問を持っている方もいるのではないでしょうか。生前整理はいざというときの備えとなりますが、タイミングや進め方を誤ると負担だけが重くなるというリスクがあります。
この記事では、終活で始める生前整理におけるさまざまなメリットとタイミング・進め方についてわかりやすく解説しています。生前整理の類語との違いやデメリットなどの注意事項、依頼できる業者についても触れているので、ぜひ最後まで読み進めてください。
公開 2024/03/03(最終更新 2024/03/01)

生前整理とは

遺品整理との違い
生前整理が「自身の生前」であるのに対し、遺品整理は「自身の死後」を指します。整理をするという意味は同じですが、整理の時期が本人の生前か死後かという違いです。生前整理は自身が健在のうちに行うので、自分自身で身の回りの整理ができます。しかし、死後となると整理を行えるのは遺族や親しいものだけです。生前整理には、遺品整理のように他人に負担をかけなくて済むというメリットがあります。
老前整理との違い
老前整理とは、老後に備えて身の回りを整理することです。一見すると生前整理と同じ意味のように感じますが、老前整理は老後の生活のための整理であって死後のことを考えて行うものではありません。つまり、生前整理は「死後」を考えるものであって、老前整理は「老後」のことを考える行為です。本人が健在時に行うのは共通していますが、整理をする目的が異なります。
生前整理のメリット
生前整理を行うにあたり、どのようなメリットがあるかを解説していきましょう。ここでは具体的なメリットをいくつかピックアップしているので、終活の参考として読み進めてください。
遺族や残された人への整理の負担を減らす
生前整理を行うことによって、遺族たちが遺品などの所有物や遺産の後始末にかかる負担を減らせます。たとえば、個人が生前に使用していた私物などの処理は、数によっては大がかりな処分の手間や費用がかかります。もしも生前整理を行っていない場合、遺族たちはこれらの処理に時間や体力、金銭など大きな負担がかかる可能性があるのです。
遺族にはそのほかにも、遺産相続、生前に利用していたサービスや口座の解除など、さまざまな手続きを行う必要があります。生前整理を行うことで、死後に遺族にかかる負担を大幅に緩和させることができるのです。
遺産の引継ぎや継承のトラブルを回避できる
資産を持つ方の死後、遺産にまつわるトラブルは実際に多い事柄です。身内同士や親族間の紛争をはじめ、遺産の所在確認や調査に大きな時間と費用がかかるリスクがあります。生前のうちに資産を一覧表などで状況把握し、目録などの書類を作成することで相続争いを回避することが可能です。
また、自分が大切にしていたものを特定の人物に引き継がせたい場合、生前整理を行うことで確実に引き継いでもらえるでしょう。
不要なものを片づけることで心にゆとりが生まれる
自分の所有物から不要なものを片づけることによって、気持ちが軽くなり心の中も整理された気分になれます。生前整理を機にそれまでの思い出を振り返り、人間関係や人生計画の見直しにつながるケースもあるのです。人生の総括として一生を振り返り、荷物と心を整理することによって清々しい気持ちで余生を過ごせるでしょう。
残された人たちにメッセージが残せる
生前整理することで、あとに残された方々に自分の伝えたい思いをまとめることが可能です。元気なうちにやりたいことや希望を伝えることで、悔いのない人生を過ごすことにつながります。
たとえば、自分の望みをノートに書き留めてエンディングノートを作っておくのもおすすめです。遺言書とは別にエンディングノートを作ることで、身近な人たちとより良い人生を過ごせるでしょう。
生前整理のデメリット
スムーズに生前整理を行うにあたり、いくつかのデメリットについても把握しておく必要があります。これから終活を始める方はチェックしながら読み進めてください。
不要品の処分に労力と時間がかかる
生前整理を行う場合、必要なものと不要なものを分別しなくてはなりません。所有品が多いほど、まとめるための労力と時間が必要です。一人で生前整理を行う場合、すべてそれらを自分で負担する必要があります。
生前整理で遺産相続や遺言書の作成を行う場合、弁護士や司法書士への依頼や手続きも必要です。
すべて自分一人で生前整理を完結させるのであれば、相応の手間がかかってしまうことを覚えておいてください。
費用がかかる場合がある
家具や家電などを処分するためには住んでいる地域の自治体への手続きが必要です。リサイクル品や不燃ごみの場合は処分費用が発生するので、労力と時間に加えて費用もかかります。仮に処分業者に依頼した場合、当然のように処分費用を支払う必要があるだけではなく、業者によっては相場以上の請求をされる可能性もあるのです。
また、相続手続きの場合、専門家への依頼にも高額な費用が発生します。生前整理は手間や時間だけではなく、場合によってはコストが増えるものと考えておきましょう。
必要なものまで処分してしまうおそれがある
いざ生前整理を行う場合、思い切って断捨離を決める方も多いことでしょう。しかし、不要と判断した品物の中には、捨ててはいけない重要なものや思い出の品が含まれているケースがあります。大掃除の際にゴミだと思って処分し、あとになって後悔したという経験はないでしょうか?気をつけていれば防げると思われがちですが、断捨離では意外に多いトラブルなのです。
生前整理で不要品を処分する場合、残しておくものとそうでないものをリストアップしておき、手放しても後悔しないかどうかを考えながら進めていきましょう。
生前整理が進まない
生前整理を行っていくうちに、忘れていた思い出の品が見つかることがあります。思いがけない再会に手が止まってしまい、生前整理が中断してしまうこともあるでしょう。次々と思い出の品が見つかると、なかなか手放しづらくなってしまうのは心情的にわからなくもありません。
しかし、不要品の分別ができないと、生前整理がまったく進まなくなってしまうという結果になります。その場合はすぐに判断せずに、必要品と不要品を先に分けて時間を置いてから改めて見直してみましょう。
生前整理のタイミング

生前整理をタイミングは、特に決まってはいません。最近は生前整理が周知され、若い年代から意識されている方もいます。ただし、生前整理に適したタイミングというのはあります。ここでは、生前整理を行うタイミングについて、いくつか例をあげて紹介しましょう。
生前整理を意識した時期から
思い立ったが吉日という言葉があるように、生前整理を意識し始めた時期が始めるタイミングです。生前整理がどういうものかを知っていても、実際には「興味がない」「考えていない」という方もいます。しかし、意識をし始めたということは生前整理を考える時期を迎えているということでもあるのです。
生前整理には労力と時間、費用がかかります。また、事故や病気などの不測の事態がないとも限りません。生前整理は、体が元気で気力や体力があるうちに行うことをおすすめします。
定年退職後
仕事勤めで毎日のスケジュールに追われ自由な時間が取れない方も多いでしょう。定年退職後の時間的余裕が作れるタイミングなら、じっくりと時間をかけて生前整理を行うことが可能です。時間ができてやることがないという場合、今までの人生を振り返って、今後の過ごし方を見つめ直す機会にすることをおすすめします。
人生の節目
生前整理には時間と労力が必要になるため、本格的に始めるためのきっかけが重要です。自分の人生における大きな転機があったときに、生前整理を始めるのもよいでしょう。たとえば、子どもが自立したとき、自身が還暦を迎えた、定年退職をした、などです。また家族との別居・死別といった生活環境に変化があらわれたときも生前整理のタイミングといえるでしょう。自分や家族に変化があった時期は、自分の人生を振り返るタイミングでもあると捉えてください。
生前整理の進め方
ここでは、実際に生前整理を進めるための流れを解説しいきます。生前整理の取り組み方や進め方について、具体的に紹介するので順番に読み進めてください。
親族や身内への情報共有
まず生前整理を行うにあたり、生前整理を行っていることを親族や身内に明かしておきましょう。生前整理を行う意思を明確にすることで、遺族や身内に自分の考えや遺志 を相手に伝えることができます。将来の計画を相手に伝えることで一定の安心感とコミュニケーションの機会を得ることができ、身内同士との円滑な理解と意思の疎通が図れるでしょう。
エンディングノートの作成
エンディングノートは、終活における自分の考えや希望などを書き留めるノートのことです。遺言書とは違って法的効力はありませんが、自分の人生の終わり方をつづった総括みたいなものと考えてください。エンディングノートの作成は、生前整理で必ずしも必須ではありません。しかし、自分の終末を書き留めることによって、自身の希望や思い、これまでの人生を振り返ることができます。交友関係のある知人や友人へのメッセージ、今から死ぬまでにやりたいことなど、書き留める内容は自由です。
エンディングノートには決まった書き方はなく、何を書いても問題はありません。あくまで自分のエンディングを書き留める自由帳なので、自分自身の歴史や伝えたいメッセージを記録して思い出を共有しましょう。
身の回りからの整理
生前整理を始める場合、身近なものから取りかかっていきましょう。いきなり大がかりなものから手をつけてしまうと、気力や体力が続かずに中途半端になってしまうおそれがあります。まずは身の回りにある必要品と不要品の分別から取り組み、残すものと処分するものを決めていきましょう。その場では分別できないものは一旦保留にし、分けられるものから分別していくとスムーズに分けられます。
貴重品や契約しているサービスの整理
自分の貯金や資産となる物品、契約中の銀行口座や携帯電話などを整理しておきましょう。特に年金手帳や銀行通帳、クレジットカードなどは不測の事態に備えてまとめておくことをおすすめします。貴金属や高級品なども一緒にまとめ、すぐに相続や手続きができるようにしておくとよいでしょう。現時点で持ち合わせている資産や財産があれば、リストアップしておくと相続の際に手続きがスムーズに行えます。
銀行口座やクレジットカードなどは、自分の死後に解約手続きが必要です。複数所有している場合は1つを残して全部解約するなど、必要最低限にまとめておけば負担が少なくなります。携帯電話や各種サービスを利用している場合、今後使わないものから生前整理の際に解約しておきましょう。
デジタル遺産の整理
デジタル遺産とは、文字通りデジタルで保管していた資産・財産などのことです。一般的には電子マネーや仮想通貨などがあげられ、オンライン取引で使用される電子データ全般を指します。そのほか、オンラインサービスで使用している電子データ、アカウント、パスワードなど、パソコンやスマートフォンのデータなども含まれています。
これらのデジタルデータはアカウントやパスワードがないと利用できないため、相続の際にトラブルのもととなるので必ず保管しておきましょう。また、利用する予定のないサービスのアカウントやデータは削除しておくことをおすすめします。特にパソコンやスマートフォンに保存されているデータで、機密情報があった場合はトラブルの原因になるのでご注意ください。
遺産相続の準備
自身に資産があり相続する親族がいる場合は、所持している現金や貴重品から土地や建物など、あらゆる資産の目録作りから始めてください。すべての財産を可視化することにより、相続時のトラブル防止につながります。全体の財産を把握できたら、相続者や財産分与も決めなくてはなりません。相続問題は紛争などのトラブルにも発展しやすいため弁護士や専門家に依頼することをおすすめします。
遺産相続で注意すべきは、借金や債務などのマイナスの財産も相続財産の対象ということです。自分に借金や未払い金がある場合、必ず目録やエンディングノートに記して遺族に相続のリスクを伝えておきましょう。
生前整理は業者に依頼もできる

生前整理を自分で行うのが難しい場合、業者に依頼することが可能です。業者の種類は「生前整理業者」と「不要品買取業者」の2種類あり、それぞれ利用するメリットや費用が異なります。生前整理で業者を検討される方は、ここからの解説を読み進めてください。
生前整理業者を選ぶメリット
生前整理業者を選ぶメリットは、本来負担するべき労力と時間を節約できる点です。生前整理は物量や自身の年齢にもよりますが、自分で行うには困難になるケースが考えられます。そこで専門家に任せることで、さまざまな負担を軽減しながら手際よくスムーズな生前整理が可能です。業者によっては買取も同時に行っている場合があるので、出費を抑えることにもつながります。
生前整理業者の選び方
生前整理業者にはさまざまな会社や業態があるため、優良業者を見分けるのが大切です。見積もり内容をしっかりと説明し、内訳や料金が明瞭な業者を選びましょう。状況確認もせずにアポなしの現地実施の場合、予想外の追加料金など支払いトラブルに巻き込まれるリスクが高いです。
見積相談の際には、担当者の受け答えにも注意しておきましょう。こちらの問い合わせに対して雑な対応や横柄な態度、話を聞かない業者は論外です。相談者は自分の大切な人生を気持ちよく過ごすために相談しているので、相手への配慮を欠いて寄り添わない業者は優良とはいえません。SNSや口コミなどを参考にして、業者の対応などをチェックしておきましょう。
そのほか、遺品整理士や遺品整理アドバイザーなどの認定資格を持ち、的確に生前整理が行える優秀なスタッフが在籍していれば安心できます。業者選びでは、アフターサービスや費用品買取など、自分に都合のよいサービスを行えるかが重要です。
生前整理業者の費用相場
生前整理にかかる費用は、住居の間取りによって変動します。業者ごとの価格設定もありますが、基本的に住居の間取りを基準に計算されるものと思ってください。ただし、特殊な構造や一般的な間取りの物量を超えているなど、状況によって割高になるケースがあるので必ず下見をしてもらいましょう。
生前整理にかかる間取りごとの費用相場は、以下のとおりです。
間取り | 費用相場 |
1R・1K | 約3~4万円 |
1DK | 約5~10万 |
1LDK | 約7~12万 |
2DK | 約10~25万 |
2LDK | 約12~30万 |
3DK | 約15~40万 |
3LDK以上 | 約30~50万以上 |
生前整理の主な費用は、人件費・車両費・処分費用・管理費用などが内訳として計算されています。そのほか、オプション料金や追加料金など、状況によって変わるので見積もりは明確にしておきましょう。
不要品買取業者を選ぶメリット
不要品を買い取ってくれる不要品買取業者は、多くが生前整理も兼業で行っています。ただし、専門とするのは不要品買取なので、生前整理業者と勝手が違うことは留意しておきましょう。
不要品買取業者を利用するメリットは、生前整理で不要な品物を買い取ってくれる点です。本来は処分に費用が発生する場合でも、状態が良ければその場で値段をつけて買い取ってもらえます。買取専門店などに行く手間もかからず、現地で換金と斉処分が同時にできる点が最大のメリットといえるでしょう。
注意点として、不要品買取業者は取り扱う品目が決まっています。品によっては買取できない場合があるので、見積もりの際に確認をしておきましょう。交渉次第では買取してもらえるか、無償で引き取ってくれるケースがあります。
不要品買取業者の選び方
不要品買取業者の選び方は、基本的に生前整理業者と同じです。業者の中には不当な買取価格を提示したり、査定の仕方に不明点が多い悪質な会社も存在します。また、買取価格と車両費や人件費は別に設定しているケースがあるため、普通に処分するより高くついてしまうというトラブルも報告されています。そういったトラブルに遭わないように、必ず最初の相談時に業者の対応や見積時の内訳が明瞭なことを確認しておきましょう。
不要品買取業者を選ぶ際は、公式サイトの有無や口コミなどをチェックしておけば実態が事前に確認できます。買取査定の目安やサービス内容があいまいだったり、会社の所在地や事例などの情報が一切出てこない業者は警戒すべきです。また、業者の中には営業認可が下りていない違法業者も存在し、突然飛び込み営業をかけてくるパターンがあります。不要なトラブルに巻き込まれないよう、複数の業者を比較しながら会社の情報を集めることが重要です。
不要品買取業者の費用相場
不要品の買取査定は、品物の状態や年式・型番などによって変動します。正確な査定を希望しているなら、遺品整理士が査定している業者を選びましょう。業者に買取査定を依頼する際、貴重品などの場合は十分に注意が必要です。特に骨とう品などのコレクターアイテムを買取に出した場合、本来の価値がわからないために、手放したあとになってから高値がついて大損をしてしまうケースも考えられます。業者に安く買いたたかれるという被害報告もあるので、品物を買取査定に出す際は慎重に行いましょう。
不要品回収で買取業者に依頼する場合、回収費用がかかります。場合によっては自治体に依頼したほうが安くつく場合がありますが、処分量が多い場合は回収業者に依頼したほうがよいケースが多いです。各自治体は地域ごとに料金が決まっていますが、処分費用は1点ごとに発生します。そのため、処分する量が多い場合は業者を利用するべきでしょう。
買取業者に依頼する場合、品物を運搬するための車両によって費用が異なります。主に軽トラックと2t車のいずれかを用いるので、処分費用は車両の積載量と考えておいてください。買取業者に依頼した場合の相場は、軽トラックだと約6,000~20,000円。2t車なら30,000~50,000円ほどとされています。作業員や車両の数が増えたり、作業にかかる工数によって変動するのでご注意ください。また、新生活や引越しの時期はシーズン料金として割高になりやすいので、依頼するタイミングも考えておきましょう。
まとめ
生前整理は残された遺族の負担を減らすだけでなく、資産の整理や自分の人生の振り返りでもあります。体が元気なうちから終活を始め、生前整理を済ませておくことで晴ればれとした気持ちで穏やかな毎日を過ごせるでしょう。生前整理は決して悲観的な行為ではなく、今までの自分が歩んできた人生を見つめ直すための準備期間です。大切にしてきた思い出を身内や友人と共有し、有意義な時間をお過ごしください。