430年以上も前から続く「勝浦朝市」。水曜と元旦を除く毎朝6時半から、朝どりの魚介や干物、農作物などがずらりと並び、人々の生活を支えています。そんな歴史を紡いできた仲本町朝市通り沿いにたたずむ「佃煮 近江」には、昔ながらの手返しでじっくり煮込んだカツオの角煮を求めて、遠方からも多くのファンが訪れます。

公開 2024/12/13(最終更新 2025/01/07)

広田 みずほ

広田 みずほ

埼玉県生まれの千葉県民。地域新聞社で広告の企画営業、編集部を経て現在広報担当。好きなものは東南アジアとハイボール。勝田台駅周辺の酒場放浪記を書きたい。★X(旧Twitter)★@tahirom2

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日本有数の水揚げ量を誇るカツオの町、勝浦の家庭の味

「佃煮 近江」左から岩成亮人さん、順美(なおみ)さん、久子さん
左から岩成亮人さん、順美(なおみ)さん、久子さん

千葉県勝浦市にある「佃煮 近江」は、平成3(1991)年創業。岩成亮人さん、久子さんご夫婦と、良介さんの母・順美さんの3人で切り盛りしています。元は代々魚の仲買を行っていましたが、漁獲量の減少を受けて佃煮屋に転換したのが始まりです。

仲買時代、身の色を見るために切ったカツオを無駄にしないよう、順美さんがいつも煮ていた角煮。「学校から帰ってきてつまみ食いする角煮がおいしくて。この辺りの人はみんな家で角煮を作っているので、最初は商売にならないんじゃないかと言われることもありましたが、本当にお客さまに支えられて続けてこられました」と亮人さん。創業以来30年以上通い続けてくれているお客さまもいると話します。初めのうちはお土産として買って行く観光客が中心でしたが、次第に地元の人からも「お歳暮や手土産にすると喜ばれるんだよ」といった声が増えていきました。

今では勝浦産の新鮮なカツオを生かした角煮の他、しぐれ煮やそぼろ煮、ビンチョウマグロやメバチマグロの角煮なども人気商品となっています。

8時間じっくり煮込み、手で返す

「佃煮 近江」カツオの角煮
カツオの角煮

「こんなに優しい角煮を食べたのは初めてです」と言われることが多々あるというカツオの角煮。定番のご飯のお供でありながら、単体で食べても味の濃さやパサつきを感じることは一切なく、しっとりジューシーな食感の中にカツオのうまみが広がります。その秘けつを尋ねると、「特別なことはしていないんですよ。強いて言うなら作る人の愛情でしょうか」と笑う亮介さん。味付けはしょうゆ、砂糖、酒、みりんにショウガと、至ってシンプルです。

しかし、その工程の丁寧さには感嘆せずにいられません。ご本人にとっては特別ではないのかもしれませんが、カツオを切るところから袋詰めまで全て手作業で、8時間から10時間ほど費やして作られています。圧力鍋を使わず、時間をかけてじっくり煮込むのが近江流。仕上げの段階になると、約5分に1回のペースで鍋を返し、全体に味を行き渡らせます。

「佃煮 近江」10㎏ほどある大きな鍋を手で返すのは至難の業
10㎏ほどある大きな鍋を手で返すのは至難の業

「思い出につながる味にしたくて、手作りにこだわっているんです」と話すのは、仕込みを担当する久子さん。「お母さんが作ってくれた」「給食で食べていた」…。それぞれの温かな記憶がよみがえるような商品にしたいという思いから、手間暇を惜しまない作り方を守り続けています。

小さな喜びで大きな幸せを

「佃煮 近江」久子さんのアイデアで誕生した「角煮サムライ」
久子さんのアイデアで誕生した「角煮サムライ」

ご飯のお供としてはもちろん、おつまみやお弁当のおかずとしても重宝する角煮。久子さんが考案したおむすび「角煮サムライ」は、SNSでひそかな人気を呼んでいます。

店を引き継ぐため、亮人さんと共に勝浦に移り住んだ久子さんは、「ここに来て、色があるなと思いました。海の青も、緑も濃い。中でも月夜の海が一番好きです」とにっこり。そんな魅力にあふれる勝浦も、コロナ禍では活気が消えた時期がありました。苦境の中でもなんとか楽しんでもらおうと、おまけが当たるくじを用意したところ、想像以上に喜んでもらえたことがうれしかったという亮人さん。「それを見て思ったのは、幸せになる一番の方法は小さいことで喜べることだなって。だからとにかくお客さまに喜んでもらえるものを作って、勝浦に来て良かったと思ってもらいたい」と話します。

「品物とお客さまには誠実に」がモットーだという岩成さん夫婦。それが伝わってか、昔祖父に連れられて来ていたという子が、大人になって彼女と来店してくれたり、学生時代の合宿で勝浦に来て角煮を食べたという人が、先生になってまた生徒を連れてきたりと、佃煮 近江には数々のすてきなエピソードがあります。思い出の1ページに刻まれる角煮、大切な人へ贈ってみませんか。

取材担当のおすすめポイント

そのままでもおいしいですが、電子レンジで少し温めるとホクホクとした食感が楽しめます!調理法は同じでも素材の持ち味で味わいが変わるため、マグロの角煮と食べ比べてみるのもおすすめ。保存料・着色料不使用なのも安心です。

佃煮 近江
住所/千葉県勝浦市勝浦146
電話番号/0470-73-5114