新松戸駅からほど近い、シンプルな店構えのお菓子屋さんのドアを開けると、出てきたのは背が高く笑顔が爽やかな男性シェフ。
ザクザクとした食感が楽しい、ビスコッティ専門店をオープンするまでのストーリーを伺うと、好奇心旺盛でアクティブ、でも自分が考えるおいしさを追求するストイックな一面もあるシェフ・山本慎弥さんの素顔が見えてきました。
公開 2025/05/28(最終更新 2025/06/04)

目次
イタリアで出合ったビスコッティが看板商品になるまで
大学を卒業した後、イタリア料理の修業のため山本さんがフィレンツェに渡ったのは2003年。レストランで働きながらイタリアの食べ物を食べ歩く中、ある日イタリアの伝統菓子であるビスコッティを口にしたところ、意外なことに期待したレベルの味ではなかったそうです。
ビスコッティとは、棒状に延ばして焼いた生地を一度取り出し、温かいうちにカットして再びオーブンで焼く、二度焼き製法のお菓子。よく焼くことで、ザクザクとした食感が生まれます。「もっとおいしいはず…」と、山本さんは暇を見つけてはさまざまなお店のビスコッティを食べ歩き、唯一味が気に入った一軒のパン屋さんに頼み込んで働かせてもらいました。

日本に帰国してからは、料理人を志しながらビスコッティを焼いては、周囲の人に食べてもらっていた山本さん。周囲からの反応にビスコッティというお菓子の持つ力に気づかされ、ビスコッティ専門店をオープンしようと決意し、ホテルの料理人をしながら自宅の一室を工房にして、起業したのだそうです。しばらくは兼業でしたが、ビスコッティの売り上げが見込めてきたタイミングでホテルの料理人を退職してビスコッティ専門店一本にしました。
「それでも軌道に乗るまでの3年ほどは、生活的にヒリヒリした状態が続きました」と山本さんは話します。その間も信念を持って自分がおいしいと感じるお菓子を作り続け、少しずつ口コミなどでリピーターが増えていきました。

こだわりは一口で食べられる大きさや気軽に買える値段
ビスコッティというと、一般的には細長い形で3~4口ほどで食べられるサイズをイメージしますが、ビナーシェのビスコッティはかわいい一口サイズ。これはぽろぽろとこぼれず、奥歯でかんだときに口の中に粉の香りが広がることをイメージして作っているからなのだそうです。

試作の際は「また食べたいと口が思うかどうか」を合格の基準にし、そう思えない場合は「なぜそう思えなかったのか?」を反すうして、何度も試作を繰り返しています。
フレーバーはアーモンド&チョコなど定番のものからピーナツやパルミジャーノなどの変わり種まで10種類以上。周囲からの要望も取り入れながら慎重にビスコッティに合う素材を探し、増やしてきました。
素材選びも大切にしていて、「おいしいものを選んだら、結果的に天日干しのドライフルーツや作り方にこだわったピーナツに行き着いた」という山本さん。産地がどこという情報よりも、自分の舌で感じるおいしさこそが、山本さんが最も信頼しているポイントなのです。
家庭でも日常的に食べられて、ちょっとした手土産やギフトに選んでもらえるような味わいや値段設定にもこだわっています。


「食のちばの逸品を発掘2024」で金賞受賞!新感覚お芋スイーツ「ビスケッピ」
そんなビナーシェの新たな人気商品といえば「ビスケッピ」。一見芋けんぴのようですが、食べてみると香ばしい生地とサツマイモの素朴な味わいが口の中にぶわーっと広がる新感覚のお菓子です。

千葉県香取市の芝山農園の上質な「紅あずま」を使用した焼き芋と北海道産の小麦粉などの厳選素材を混ぜ合わせ、ビスコッティと同様に2度しっかりと焼き上げました。
ザクザクッとした食感の後に、サツマイモの香りと優しい甘さが広がり、余韻までおいしく楽しめます。
「千葉のお菓子といえば『ビスケッピ』の名前が挙がるように、多くの人に知られる存在になってもらえれば」と山本さん。
山本さんが自分の舌を羅針盤に、真っすぐに作っている焼き菓子。きっとあなたの舌にも響くものがあるはずです。
取材担当おすすめポイント
お菓子作りが趣味で、ビスコッティもたまに作りますが、山本さんのビスコッティでまず驚いたのがその小ささ。一口で食べられるサイズにこだわっていると聞いて納得でした。また、計画的に起業をし、お店を経営する論理的な一面と、舌を大切にしながら試作を重ねる感覚的な一面を両立させている、バランス感覚にも脱帽でした。ビスコッティはどのフレーバーもおいしく、迷ってしまいますが、個人的なイチ推しはコーヒー&カシスです!


ビスコッティ専門店 Binasce(ビナーシェ)
住所/千葉県松戸市新松戸4-220-2
