千葉県商工会議所連合会会長、千葉銀行 前取締役頭取
生年月日/1952年10月1日
出身地/千葉県君津郡中郷村(現木更津市)
趣味・特技/音楽鑑賞、ガーデニング、読書
公開 2025/08/12(最終更新 2025/08/07)

12階から地上へ、決死の脱出劇
2008年11月26日、インド・ムンバイ同時多発テロが起こったその日に仕事でムンバイのオベロイホテルに泊まっていた私は、夜遅くに突然銃撃戦が起こったことを知り、部屋から出ないようにしようと仲間たちと話し合った。だが、火災報知器が鳴り、そうも言っていられないことに気づく。テロリストが手りゅう弾を投げ、ロビーで火災が起こったのだ。ドアの隙間から煙が入ってきて、いよいよ危ないと感じた我々は脱出を決意した。
部屋をきれいに片づけ、ズボンを動きやすいジーパンに履き替えて大切なものを身に着け、濡らしたタオルを口に当て、外に出た。ビル火災になると、上層階にいる人々は焼け死ぬ確率が高いと聞く。どうにかして下に逃げるしかないと思った。
手探りで見つけた非常階段で下へ
廊下に出ると、充満した煙で前が見えない。緊迫した状況の中、手探りで非常階段を探す。なんとか非常階段を探し当て、いつテロリストと遭遇するかもしれない恐怖と戦いながらゆっくりと下りて行った。
その間も銃声が鳴り響き、地上に近づくにつれて銃声が大きくなっていく。永遠にも思えた時間の中、やっとのことで3階までたどり着くと、空調管理をしている部屋があった。煙があまりなかったのでその部屋に入り、一息ついた。もっと休憩していたい気持ちだったが、ずっとそこにいるわけにもいかない。
気を取り直してまた下降を続け、ロビーレベルを通り、1階にあたるストリートレベルに到着。祈る思いでドアを開けると、外にいたインド人警察官に「ホールドアップ」と言われ、手を上げながら外に出た。その瞬間、「自分には明日がある」と、緊張状態だった全身から力が抜けた。それまでは与謝蕪村の辞世の句「しら梅に明(あく)る夜ばかりとなりにけり(私の命も、白梅が見えてくる夜明けまでとなりそうだ)」がずっと頭に浮かんでいた。