地域新聞社は今年もエッセイコンテストを開催しました。
2025年第17回一般部門の募集テーマは「私の挑戦」。
4月~6月に募集を行い、289作品の応募をいただきました。
その中から、最優秀賞、優秀賞に選ばれた3作品を紹介します。
たくさんのご応募、誠にありがとうございました!
公開 2025/08/27(最終更新 2025/08/21)

目次
最優秀賞「そして時間が動き出す」
千葉県千葉市花見川区 岩切 有日子さん
三年程前から、通信でペン字を習っている。小学生の頃からずっと習ってみたかったが、気付けば習わぬまま五十路の入口が見えていた。それなりの字は書ける。でも、私が書きたかったのは、柔らかく温かみのある流麗な大人の文字だ。それは年を重ねても自然には手に入らなかった。丁度子ども達も手が離れる年齢になり、子育てもまずはひと段落。
「始めてみようかな。」ふと心の声がした。SNSを見て憧れていた理想の文字の持主である先生に、思い切ってメッセージを送った。こうして長年眠らせていた私の挑戦が始まった。まさに五十の手習いである。
教材が届く。まずはひらがなから。そして名前や住所など、さながら入学したての小学生のように、太芯鉛筆でお手本を丁寧に書き写す。ただし、相棒は夫と兼用の「シニアグラス」なるものだ。回数を重ねて、毎月届く時事や季節にちなんだ教材や詩。それらからは文字だけでなく書物や他の人生観など様々な事を教えてもらった。ペン字を始めなければ知り得なかった事だ。挑戦して良かった。
これを機に、止まっていた時間が動き出したようだった。行きたいと思うだけで行かなかったライブやフェスにも足を運ぶようになった。何となく遠ざかっていた趣味のテニスも数年ぶりに再開した。そこでは人生の先輩方にあっさりと負かされる事が多々有り、「年齢とは単なる数字だ。」という言葉を「痛感」する。
人は大人になる程、その経験値から新しい事に挑戦する事に臆病になるように思う。しかし、例え小さくても心に眠っていた事に挑戦するのは、自分の人生と向き合うことにもなると身を持って感じる。憧れの美しい文字にはまだ遠く及ばないが、これからも続けていくつもりだ。少しでも近づけるかもと淡い期待を抱いて。
そして今、私はこのエッセイを書いている。これからの私をもっと楽しんで生きるための新たなる「挑戦」である。


優秀賞「3年越しのスタートライン」
千葉県松戸市 中村 遥さん
「今年もまたダメかもしれない。」
試験日が近づくたびに、胸の奥に湧き上がる不安を必死で打ち消しながら、私は3年間、航空管制官の試験に挑み続けた。
この職業を知ったのは、学生時代に観たドラマがきっかけだった。英語が好きだった私にとって、英語を使いながら飛行機に関われる仕事というのは、とても魅力的だった。幼いころから飛行機での移動が多く、空港は私にとって身近で特別な場所だった。だからこそ、「いつかあの空の仕事に関わりたい」と思うようになった。
だが、現実は甘くなかった。試験は年に一度。1次から3次まで段階を踏み、最終合格までに半年近くかかる。1年目は勉強の進め方も分からず、1次試験で不合格。2年目は1次試験を通過したものの、2次試験で不合格。社会人として働きながら、深夜まで机に向かう日々は想像以上に厳しかった。仕事から帰って疲れた体に鞭を打ち、休日も外出を控えて問題集とにらめっこ。過去問の点数が伸びない日が続くと、やるせなさと焦りに押しつぶされそうになった。
それでも、途中で諦めることはできなかった。挑戦せずに後悔する人生より、やりきって悔いのない人生を送りたい。たとえ失敗しても、納得できる人生を選びたい。そんな思いで、自分に言い聞かせるように勉強を続けた。
そして迎えた3年目の秋。ついに最終試験である3次試験まで進み、合格発表の日を迎えた。自分の受験番号をウェブサイトで見つけた瞬間、目の前がじんわり滲んだ。「あった…」と声に出すまで、何度も見返した。あのとき感じたのは、ゴールではなく、ようやくスタートラインに立てたという安堵と決意だった。
そして今、このエッセイを書くことも、私にとって新たな挑戦だ。文章で思いを伝えるのは初めてで、正直不安もある。でも、もしこれを読んでくれた誰かが、「私も、もう少し頑張ってみよう」と思ってくれたら、私の挑戦にも意味があったと思える。
優秀賞「私の挑戦~決めた!~」
千葉県松戸市 鈴木 信子さん
私には八歳の孫がいます。小三男子。私は七一歳のバァバ。今年一月に、半年の入院生活を終えて現在は家族と暮らしています。
退院するとすぐに小学二年生の算数ドリルをわたされました。毎日一ページ。先生は孫。どうして私がこんなことと思いながら、孫の復習になるかもなどと自分を納得させつつ続けていました。
ところが、小学三年生の問題になって、真剣に解いているのにも関わらず間違ってしまった計算に自分でびっくり!!なんでこんなことが……。やっぱり入院明けだから? いや、もともとの頭脳?
私にはまったく空白の期間があります。鼠経ヘルニアと脊髄骨折。なぜかまったく無関係ではと私には思われる二つの病名で入院していたようです。記憶がないのです。まったく。
現在の予定といえば、お医者様とデイサービス、そして、お勉強。そーだ!このまま孫と一緒にドリルも進級していったなら……。私、十年後には大学受験ができるのだ。よし、ちゃんと勉強する!決めました。決めたのです。
八一歳で大学生になる。
今は算数ドリルと、国語の漢字を三字ずつ毎日清書して熟語を考える。孫が持ち帰ったテストをすべて考えてみる。 時間はたくさんあるのです。
先日、孫に「土、日は休んでいいかな?」と聞いたら「うん、いいけど、月曜日は二ページね」と言われてしまいました。なかなかの先生ぶりです。 娘たちは「今は大学の提出物などはなんでもパソコンで作成するんだよ」などとのたまうのです。
うーん、よし、勉強してみようじゃないか。なにせ、時間はあるのです。十年も! パソコンぐらい、なんのその。使いこなしてみせますわ。目標と決めた大学のホームページなどをながめて、ふむふむ……。ニヤニヤ。
孫がいつもつけてくれる大きな花まるをいつも楽しみに、そして小さな目標にして進むのです。
ね!一緒にね!大学生になろうね!