日本では珍しく、デスマスク制作を専門に行う権藤さん。制作を通して届けたい思いについて取材しました。
公開 2025/09/07(最終更新 2025/09/01)

編集部 モティ
編集/ライター。千葉市生まれ、千葉市在住。甘い物とパンと漫画が大好き。土偶を愛でてます。私生活では5歳違いの姉妹育児に奮闘中。★Twitter★ https://twitter.com/NHeRl8rwLT1PRLB
記事一覧へデスマスクは遺族のためのもの
千葉市花見川区に「工房スカラベ」を構える権藤俊男さんは、世界でも数少ないデスマスク職人。
デスマスクとは、亡くなった人の顔から作られる顔面像のこと。
「発祥は古代エジプトだといわれています。日本では夏目漱石や森鴎外のデスマスクが有名ですね」と権藤さん。
権藤さんが手掛けるデスマスクは、著名人ではなく市井の人たちがメイン。
遺族からの依頼がほとんどで、インターネットの検索経由で月に1回ほどの注文があるといいます。
そもそもデスマスクの役割とは? 率直な疑問をぶつけると、「大昔は儀式的な意味合いや影響力の誇示、資料としての側面もあったようですが、私がこれまで依頼されたデスマスクは、悲しみや喪失感から立ち上がるため、という印象です」と教えてくれました。

ある日突然、目の前で倒れてそのまま帰らぬ人となった妻をしのぶ男性、自分たちを育て上げてくれた母親の手を、型に取って残したいと望む遺族…。
共通するのは、故人への深い愛情です。
大切な人の肉体は消失しても、生きていた「証し」を手元に残すことで、気持ちの整理がつき、前を向く力が湧いてくるのでないかと権藤さんは語ります。

夫婦となる二人が手を握り合っている様子を、爪の形や手まで再現
自分だからこそできることとして
美術学校で彫刻を学び、葬儀社に勤めながら創作活動を行ってきた権藤さん。
定年退職後、自分の能力を世の中に役立てられないかと考えた際にひらめいたのが、デスマスク制作でした。
彫刻の技術と葬儀社での経験、加えて自身の両親が亡くなった際、何も残せなかったことが心に引っかかっていたのも理由の一つです。
2016年にHPを開設すると、すぐに依頼が舞い込みます。
「デスマスクの認知度は決して高くはないけれど、需要はある」と確信。
デスマスクや手の石膏像を通して、癒やしを届けていく決意を固めました。

依頼はいつも突然。
全国どこへでも出向き、制作前に故人に手を合わせ「礼を尽くす」ことを大切にしています。
「死を考えることは社会を考えること。少し前まで死を語ることはタブー視されてきましたが、ここ数年で潮目が変わってきているように感じます。身近な人と死について語り合えるのは、むしろ幸せなことだと思いますよ」と権藤さん。
最後に、自身のデスマスクを残したいかと尋ねると「妻次第です。『いらないわ』って言われちゃうかもしれませんね」と柔和な笑みを浮かべました。
工房スカラベ
問い合わせ
電話番号/090-3683-2042
ホームページ/https://sukarabe.com/