千葉県習志野市出身、在住の小説家・清水晴木さん。累計4万部突破の『さよならの向う側』シリーズなど多数の執筆した小説の数々は千葉を舞台にしています。そんな清水晴木さんが著作と絡めて千葉の思い出をつづります。

小説家・清水晴木「晴れ、ときどき懐う(おもう)」
清水晴木さん

清水晴木さん
1988年生まれ。東洋大学社会学部卒。2011年函館イルミナシオン映画祭第15回シナリオ大賞で最終選考に残る。2021年出版の『さよならの向う側』はテレビドラマ化して放送。『分岐駅まほろし』『旅立ちの日に』『17歳のビオトープ』など著作多数。

公開 2025/11/07(最終更新 2025/10/31)

編集部

編集部

千葉・埼玉県在住の編集メンバーが、地域に密着して取材・執筆・編集しています。明日が楽しくなる“千葉・茨城情報”をお届けします!!

記事一覧へ

十年

作家デビュー十周年記念作品として、新刊小説『永遠猫の祝福』を刊行した。

そして最愛の存在の事を書いたこの物語は本当に特別な作品になった。

最愛の存在とは我が家にいた猫の事だ。

別れの日である三年前を、私は今でも昨日の事のように思い出す。

小説家・清水晴木「晴れ、ときどき懐う(おもう)」

彼は十八年もの長い間をそばで生きてくれた。

ただ亡くなった最期の一日はあまりにも突然訪れた。

急に体調を崩したかと思うと、動物病院へ向かう途中の私が運転する車の中で亡くなってしまったのだ。

私にできる事はもっとあったはずで、その日から「ごめん」という謝罪の言葉ばかりを心の中で繰り返して自責の念を抱え続けた。

本当に体の一部を失ったかのようだった。

でも周りの人にうまく話せなかったのは「たかがペットの話でしょ?」と返されるのが怖かったからだ。

心の真ん中にずっと大きな悲しみの塊があった。

亡くなってから一年が経った後には、悲しみは中心の塊から体のあちこちにバラバラに散らばった。

でも体の中の悲しみの総量は変わらない気がする。

それから二年、三年経った時は変化がなかった。もうこれはいつまでも変わらないんだと思う。ただ、三年経ってようやく猫の物語を書こうと思った。

それがこの生きる意味を問い、400年もの長い間を生き続ける猫が出てくる物語『永遠猫の祝福』だ。

この作品を書き終えた後、また変化があった。

「ごめん」よりも「ありがとう」と心の中で言えるようになった。

君が生まれてきてくれて本当にありがとう。

そしてまたいつか生まれ変わって会おう。

十年後でも、百年後でも、千年後でも。

小説家・清水晴木「晴れ、ときどき懐う(おもう)」