船橋の海がかつて「御菜浦(おさいのうら)」と呼ばれ、江戸幕府の将軍家に新鮮な魚介を献上していたことをご存じでしょうか。
そんな歴史を持つ船橋漁港は、現在、「コノシロ」の水揚げ量で日本一を誇る千葉県の中でも、トップの量を記録しています。
コノシロは、江戸前鮨でおなじみのコハダの成魚ですが、調理の手間や小骨の多さから、家庭ではあまり利用されていないのが現状です。
そこで立ち上がったのが、漁師の家系に生まれ育った大野和彦さん。コノシロを手軽に味わえる加工品として商品化し、地元の子どもたちにも海の恵みの大切さを伝えています。
公開 2026/01/28(最終更新 2026/01/27)
食べなきゃもったいない! 本当はおいしい「コノシロ」

取材に伺った日は、幸運にも天候が良く、好漁に恵まれたタイミング。船橋漁港に戻ってきた漁船からは、キラキラと輝くコノシロが次々に水揚げされ、その光景はまさに圧巻です。おこぼれを狙うカモメたちが頭上を舞い、港は活気にあふれていました。
コノシロは、成長するにつれて「シンコ」→「コハダ」→「ナカズミ」→「コノシロ」と呼び名が変わる出世魚。大きくなると小骨が増えて利用が減るため、「出世するほど安くなる」といわれてきた、ちょっぴり不遇な存在です。しかし、実はその味わいは繊細で上品。脂がのった柔らかな白身は、強いうまみに満ち、後味はさっぱりとしています。丁寧に調理すれば、本当はとてもおいしい魚なのです。

そんなコノシロの新たな可能性に光を当てているのが、大野和彦さんと中村繁久さん(船橋市漁業協同組合 代表理事組合長)が代表を務める海光物産株式会社。「船橋の魚をもっと多くの人に味わってほしい」と、商品開発から地域の子どもたちへの食育活動まで、さまざまな挑戦を続けています。

「醤油煮」「つみれ」「フライ」でコノシロを家庭の食卓へ
コノシロが育つのは、潮干狩りスポットとしても親しまれている東京湾の三番瀬。船橋市と市川市などの沖合に広がるこの干潟は、多様な生き物の宝庫です。「魚の産卵と成長にとって、非常に重要な場所なんです」と、大野さんは語ります。
地元の海が育む栄養豊富なコノシロを、もっと身近に楽しんでほしい―。そんな思いから開発されたのが、「醤油煮」「つみれ」「フライ」の3種類の加工品。いずれも日々の食卓に取り入れやすい形で仕上げられています。

まず「醤油煮」は、骨まで軟らかく仕上がるよう、独自の加工を施しています。ほんのりショウガを利かせた、飽きのこない味わいが絶妙。ご飯のおかずにはもちろん、解凍後そのままお酒のさかなにするのもおすすめです。

「つみれ」は、コノシロの風味をしっかり生かしながらも、ネギ・ショウガ・みそで味を調え、クセを優しく抑えています。みそ汁や鍋に加えるだけで、だしのようなうまみが広がり、お子さまでも食べやすい仕上がりになっています。

「フライ」は、サクサクの衣をまとわせたコノシロを、骨ごとおいしく食べられる一品。揚げるだけで、夕食やお弁当のおかずにぴったりの主役メニューが完成します。タルタルソースを添えてフィッシュサンドにするなど、アレンジの幅も多彩です。
船橋市内の小中学校では、コノシロの骨や皮を除いた一次加工品の「落とし身」として納品され、各学校の管理栄養士さんがオリジナルメニューを開発し、給食として提供されています。

「さとうみ(里海)」を次世代につなぐために
大野さんがコノシロの活用を通じて実現したいのは、「ふるさとの海を未来へつないでいく」こと。
高度経済成長期以降、東京湾では埋め立て開発が進み、多くの干潟が姿を消しました。「江戸前漁業」の伝統を受け継ぐ船橋市でも、人口65万人を超える一方、漁業組合に所属する漁師の数は100人を下回るまでに減少しています。そんな現実を見据えながら、大野さんは祖父の言葉を大切に、海と向き合ってきました。
―「網を広げて『向き』さえ良ければ、魚はそこにいるだけみんな網に入ってしまう。だから、どれだけ取ればいいかは、その漁師の知恵に任せるしかない。いい漁師ってのはな、いかに少なく取って稼ぎにできるかがうまいやつのことだ」
「祖父は当時から、人と自然が共生しながら、豊かな海を持続可能な状態にする必要があることを知っていたんです」と、大野さんは語ります。
大野さんは、船橋の漁師と消費者の間をつなぐため、1989年に中仙丸(なかせんまる)の中村繁久さんと、浜問屋「海光物産株式会社」を設立。父の大傳丸(だいでんまる)を継ぎながら、新鮮な魚介類の販売・物流にも力を注いできました。
また、船橋が水揚げ量全国一を誇る「スズキ」の価値を最大限に引き出すべく、「江戸前船橋瞬〆すずき」としてブランド化。これは、漁獲後にスズキにかかるストレスを極力抑えるため、活〆して放血し、神経を抜く「瞬〆」という技術を用いたものです。そうすることにより鮮度を保ち、うまみを凝縮することができます。

さらに、漁業を取り巻く環境が大きく変化する中で、「漁業改善プロジェクト(FIP)」にも参画し、漁業資源を次世代へつなぐために動き続けている大野さん。その背景には、海と生きてきた家族の歴史と、地域への深い愛情がありました。
ぜひ、船橋の魚を味わうことで、「さとうみ(里海)」の豊かさと尊さを感じてみてください。

取材担当おすすめポイント
お子さまからご高齢の方まで骨まで丸ごと食べられて、おいしくカルシウムを補給できるのがうれしいところ。調理も手軽で、冷凍庫に常備しておけば頼れる一品になりますよ!
海光物産株式会社
電話番号/047-435-2060