
市川市の弘法寺から市川駅方面に続く参道から生まれた商店街、大門通り。
小さな店舗が並ぶ細長い通りに、オープンスペース「ギャラリーf」が誕生しました。
公開 2021/10/31(最終更新 2023/07/04)
編集部 R
「ちいき新聞」編集部所属の編集。人生の大部分は千葉県在住(時々関西)。おとなしく穏やかに見られがちだが、プロ野球シーズンは黄色、Bリーグ開催中は赤に身を包み、一年中何かしらと戦い続けている。
記事一覧へ市川真間に魅せられた「かめ」、大門通りにすみつく

場所は、大門通りを貫く京成線の踏切のすぐそば。
もともとは「テーラー大山」という仕立て屋(その後、「Sewingboxエフ」)が営業していた店舗跡です。
店舗の奥には大家さん(仕立て屋をしていた大山さんの息子さん)が住んでいますが、通りに面しては10年以上シャッターが閉まっている状態でした。

そのスペースが2021年の6月、ギャラリーとして生まれ変わりました。
運営を始めたのは、ギャラリーの向かいにある設計事務所(かめ設計室)の羽渕雅己さんと山田晶子さんです。

2人が大門通りに事務所を構えたのは2018年のこと。
移転前の事務所は船橋市内の住宅街にありましたが、「住んでいる街に対して、仕事で関わりが持てていないことがもどかしかった」と羽渕さん。
そこで事務所移転を考えた時、浮かんだのが「名前の響きにそそられて、かねてから気になっていた」という市川真間でした。
実際に訪ねてみると、細い道、小さな建物…独特のスケール感や、そこで生業をしている人たちの暮らしが息づく大門通りにすっかり魅せられ、すぐに転居を決意。
下町気質の気風の良い住人たちが温かく迎えてくれました。
移転してしばらくたった頃、大門通りでは、ブティック「麻廼や」の高崎麻子さんが中心となってマルシェの開催が始まります。

「かめ設計室さんもぜひ」と参加を促され、手作りのポストカードを出品。
物販の経験はありませんでしたが、「設計の仕事とは違った喜び」を得て、その後も通りのあちこちで開催されるマルシェに出店します。

こうして自然にコミュニティーの輪に加わり、大門通りでの暮らしになじんでいきました。
「しもたや」が「通りのポケット」に生まれ変わる

ここでは子ども世代が巣立った後、高齢者が一人で店を続けている所も多いそうです。
店舗運営が難しくなって「貸し出したい」と思っても、水回りなどのリフォームをしないと借り手が付きにくいとのこと。
リフォームまでする気もなく、空き店舗にしたままシャッターをしめた家を「しもたや」(=仕舞た屋…元商店だったが現在は商売をしていない家)と言います。
羽渕さんたちは、大門通りの「しもたや」のシャッターを再び開けたいと思いました。
開けて何をするかまでは決めていませんでしたが、ひとまず設計事務所の向かいにある、テーラー大山だったスペースを借りることにします。
たまたまその頃、都内のギャラリーでかめ設計室の作品を展示する企画があったことから、「ギャラリーにしてみよう」という発想が生まれました。
そこで店舗の半分を自分たちの作業スペースにし、通りに面した半分を、展示などができるスペースとしてオープンしました。


あちこちで小規模に行われていた大門通りのマルシェは、現在、開催日を第2・4土曜日に定期的に開かれています。
開催日には人通りも増え、活気を取り戻しつつありますが、ふらっと立ち寄れるオープンスペースは存在しませんでした。
今回ギャラリーfができたことで、さらに新たな人の流れが生まれる効果が期待できます。
山田さんは「近くの大学に通学する学生さんや、通勤で駅に向かう人はよく通るのですが、皆さん速足で通り過ぎてしまう。そうではなく、通りをゆったり回遊してもらえるよう、このギャラリーが『通りのポケット』のような存在になってほしいと思っています」と話してくれました。

ギャラリーf初の展示は9月23日から行われた「小ちゃい絵の小さな個展」。

宮久保在住の和田千彩美さんが描いた市川の風景画を集め、展示しました。

大門通りで季節ごとに発行される手描きの地図「大門通りMAP」の作画を担当している和田さん。
ギャラリーfの門出を飾るにはうってつけのアーティストといえます。
和田さんの作品は大門通り入り口付近の酒店「夏秋武蔵屋酒舗」にも展示され、そこにはギャラリーfの本展示へと促す案内もありました。

通りの奥まった場所にあるギャラリーfに人が途切れることなくにぎわっていたのは、こういった連携の効果もあるかもしれません。
「小さな町やスペースで働ける仕事は多いし、しもたやをなくして店舗を借りる人が増えれば、高齢になっていく大家さんたちの見守りも期待できる」と語る羽渕さん。
古くからの住人は「昔はよかった。今ではすっかり寂しくなった」などと言うそうですが、「ここに来てまだ3年だけど、自分たちから見たら、とても魅力的な街」と大門通りに高いポテンシャルを感じています。
「面倒な会合などもなく、立ち話の延長からマルシェなどの企画が決まっていく気楽さもいい」と居心地の良さも実感。
可能性を秘めた街に登場した「通りのポケット」、ここから広がる新しい展開に注目していきたいですね。
ギャラリーf
住所/千葉県市川市市川1-17-13(かめ設計室向かい)
問い合わせ/047-383-9522 かめ設計室(市川市市川3‐2‐18)
ギャラリー情報はインスタグラム@gallery_f_kamedesignで更新