店頭に並ぶたくさんの銘柄から、どのお米を選んだらいいのでしょう?
お米についてのプロ中のプロ・五ツ星マイスターに、銘柄の選び方から米に対する思いまで、聞いてきました。
※お米マイスターとは…(一財)日本米穀商連合会が認定するお米の博士号ともいえる資格。お米に関する専門職経験がある人のみ認定試験の受験資格がある。五ツ星マイスターはその中でも最上級の資格
公開 2022/09/21(最終更新 2022/09/20)

目次
地域の消費者と生産者をつなげたい【牧野基明さん(有限会社まきの)】
コシヒカリに続け!強い印象を残して消費者の味覚に訴える銘柄が増えている
―今はどのようなタイプのお米が人気なのですか?
最近の新銘柄はコシヒカリなどと比べ粒が大きいのがトレンド。
今年注目の銘柄、秋田県の「サキホコレ」と福島県の「福、笑い」も大粒です。
千葉県14年ぶりの新品種として2020年から発売されている「粒すけ」も、しっかりした大きな粒が特徴で、今までの千葉県産のお米にはなかったニュータイプです。
毎年多くの新銘柄が発売されますが、売れなければ生産されなくなり消えていく世界。
そこで各県では知恵を絞って、その土地の風土に合った育てやすい品種を開発し、その中から食味の良いものを選んでブランド化しています。
消費者にインパクトを与えることで生き残りを図ろうと、「甘味を増した米」「のど越しが最後に残る米」といった個性を強調した銘柄が増えているのも最近の傾向です。
―お米はどんなタイプに分けられますか?
お米の味を表す言葉はいろいろありますが、「最初にかんだときにインパクトを感じるタイプ」か「かんだ後も後味がずっと残るタイプ」か…という分け方ができます。
前者は「あっさり(さっぱり)している」、後者は「甘味がある」と表現されることも。
面白いことに、あっさり系の銘柄は男性的、甘い系の銘柄は女性的な名前のものが多いような気がします…もちろん当てはまらないものもありますが。
男性は恋愛で最初にくどくときにインパクトを残そうとする、女性は子育ても含めて最後まで優しいから…かどうかは分かりません(笑)。
味の感じ方は人それぞれなので、食べた時に自分がどちらに感じるかを楽しんでみてはいかがでしょう。
全国でこれだけ多くの銘柄が出ていますから、各家庭で食べ比べてみて「うちはこの味!」というものを見つけるといいと思います。
ただ…銘柄を変える前に試してみてほしいことがあります。
それは炊き方を変えること。
それだけでご飯の味が劇的に変わるかもしれません。
大事なのは銘柄より正しい炊き方
―具体的に教えてください。
例えば水の量の計り方ですね。
ただ単に米の体積(何合か)に合わせて、炊飯器の目盛通りの量の水を入れていませんか?
実は粒の大きさによって、最適な水加減は変わってくるんですよ。
―どういうことでしょうか?
小さい粒の米1000粒分と同じ体積になるように大粒の米を計ると、1粒の大きさが大きい分、米粒の数は少なくなりますね。

お米は洗うだけでかなりの水を吸います。
同じ合数で計っても、粒数が多い方がたくさんの水を吸うんです。
それを踏まえた上での水加減で炊かないと、そのお米の本当のおいしさが引き出せない残念な結果になるでしょう。
―水の量はどうやって決めたらいいのですか?
洗米後の米の体積を基準に1:1、同じ体積の水で炊いてみてください。
いつも食べているお米の味がグンとアップして驚くかもしれませんよ。
―計量が大事なんですね。研ぎ方などについてはいかがですか?
「研ぐ」のはそもそもNGです。
お米に傷をつけないよう、あくまで優しく「洗う」ようにしないいけません。
そうしないとツルンとした粒が壊れて、表面のなめらかさが失われてしまいます。

昔はグイグイ力を入れて洗っても良かったんです。
それは今のお米と水分の含み方が違っていたから。
元々農家では「はざ掛け」と言って、秋に稲を天日干しして乾燥させていました。

はざ掛けしたお米は、内部に水分を含み外側が乾燥している状態。
中の水分を引き出すため、あえて米の表面にひびを入れる必要がありました。
そのため、ざるに上げて米を乾燥させたのです(※洗米後に乾かすと米の表面にひびが入る)。
今は、はざ掛けをせずに乾燥施設で一気に乾かすことが多いので、そもそもの米の状態が違います。
表面にひびが入るとベチャっとして、おいしさが損なわれるのが現在のお米。
ざる揚げしたまま置いておくと粒が割れてしまうので、洗ったらすぐに水につけてください。
―ずっとざる揚げしてきました…。ちなみに洗い方についてもう少し詳しく教えてください。
洗う時、容器(内窯やざる)に米を入れて、そこに水を注いで洗っていませんか?
だったら逆にした方がいい。
水を張った中に米を入れるんです。
どんなに清潔にしていても、台所にはカビや菌などが存在するし、穀物のダニもいる。
水を張った中に米を投入すると、水がフィルター代わりになって不要物が浮いてくるので、簡単に上の方の水を流してください。
その後素早く2、3回洗えばOKです。
―他に気を付けることはありますか?
水の温度は15℃以下、低い温度で炊いてください。
お湯はだめ、お米が硬くなるから。
水が低温から沸騰するまでの間に、お米の中からじっくりと甘みが出てくるんです。
スタートの状態をお湯から炊くと、沸騰までの時間が短いので甘みが引き出されない。
早く炊けるけど、その分おいしさが損なわれてしまうんです。
―道具に関してのこだわりはありますか?
お米を炊飯器の内窯で洗ったら、炊く前に内窯を洗ってあげた方がいい。
ぬかは油分なので、それを落としてきれいにしてから炊いてください。
その方が炊飯器も長持ちしますよ。
おいしく炊くこつはいろいろありますが、要は愛情を持ってお米を扱うことが大事なんです。
五ツ星お米マイスターとして伝えたいこと
―食材としてのお米の優れている点はどんなところでしょうか?
まず1杯30~40円程度でおなががいっぱいになるから経済的。
パンや他の主食だとなかなかそうはいかないでしょう。
栄養面でも炭水化物、タンパク質、ビタミンB、鉄分、亜鉛…など、必要な栄養素がほぼ取れてしまう。
ないのは塩分ぐらい。
だから塩分を補える味噌汁、漬物が加わった和食は優れているんです。
無形文化遺産に登録されるだけのことはありますね。
―そんな素晴らしいお米ですが、生産の現場ではいろいろな悩みや問題があるそうですね。
先ほども話した通り、毎年新しい銘柄が生まれてきますが、その多くはメジャーになれずに消えていく。
なぜか。
ある新銘柄がメディアで話題になると、その米が一気になくなってしまう。
そこで生産者が翌年その銘柄を作ろうとすると、今度は違う銘柄が注目銘柄として取り上げられ、前年の注目銘柄が売れずに余ってしまう。
そういう現象が起こると、農家も新しい銘柄に挑戦しようという気をなくしてしまい、生産者が1人減り、2人減り…で誰も作らなくなって消えてしまう…そういう流れです。
そこで農家が生産を続けていけるように、生産者と消費者をつなぐのが私の役割。
お米の場合は一度購入して気に入れば、年間契約になることが多いのです。
そうなれば農家も安心して生産することができる。
「安心」「安全」は当たり前、質量ともに「安定」的に農家さんのお米を消費者に届けるためのパイプ役でありたいと思っています。

牧野さんの推し米を教えてください
それはもう、何と言っても「粒すけ」です。
大きなしっかりした粒は食べ応え十分。
2020年に誕生し今年3年目、うちが契約している農家にお願いして、初めて特別栽培米の粒すけを作りました。
今までは動物性の肥料でしたが、今年千葉県で初めて、廃棄で不要となった柑橘類の完熟たい肥を肥料にして作ってもらったのです。
おいしさに安心安全にプラスして、さらに環境へも配慮した自信作、ぜひ味わってみてください。

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