足を採寸し型紙を起こして作り上げる、あなただけの靴。使い込むほど足になじむ、10年履ける靴。
村上恭子さんが手掛ける、世界にひとつの「履いて育てる」靴づくり。
船橋市七林町のアトリエからその魅力をお届けします。
※記事中の価格は全て税込み
公開 2022/09/27(最終更新 2024/01/04)

目次
緑に囲まれた、隠れ家のようなアトリエ
船橋市七林町の住宅街。
新京成線「薬園台駅」から徒歩8分、急勾配の細い道を、下って上って曲がって… その先に小さな看板を見つけました。

そこから左方向をのぞき込むと… ありました!
白い外壁に青いドア、青いポスト、そして白く染め抜いた「mu-ra works」のロゴ。
ほどよく手入れされた庭草と、ドアを縁取るツタ、足元には鉢植えの多肉植物。
「隠れ過ぎた隠れ家ですね」と朗らかに笑って迎えてくれたのは、代表の村上恭子さん。
昭和時代を思わせるレトロな平屋家屋。
アトリエ内は、すりガラスの引き戸と庭に面した掃き出し窓からやわらかな陽光が差し込む落ち着いた雰囲気です。
代表作Hug(ハグ)シリーズ。プレーン・ストラップ共に、根強い人気
早速靴を見せていただきました。

ストラップサンダルと、トングサンダルの見本が並ぶ棚。
革のあたたかみのある質感、同じ形でも色の組み合わせで印象の変わる作品に、心躍ります。

右は、Hugシリーズの一番人気、プレーン。
イタリアの職人が仕上げたしっとりとしなやかな質感が特長の革は、足の形や骨の出っ張りを記憶します。
Hugのコンセプト「履きながら足の形に添うように育てる」とはそういう意味です。
「お手入れをしたり修理をしながら10年以上履ける靴を目指しています。ハレの日だけでなく、公園やスーパーにどんどん履いていってほしいですね」と村上さん。
使い込むうちにつやが出て、初めとは違う表情に出合えるのも、経年変化を楽しめる革靴ならではの面白さです。
左は同じくHugのTストラップ靴。
2022年から受注を開始した新作です。
着脱しやすく、コロンとしたかわいらしいフォルムが人気。
写真のように、一足すべて同じ色の革で作ることもできるし、パーツごとに色を変えたり(一足あたり2色まで)、ステッチを差し色にしたり。
左右で違う色を選ぶ人もいるそうです。

秋冬に活躍する、編み上げブーツ。
力強くもやさしさを内包するそのたたずまいに、一目ぼれ!
「編み上げ靴は、毎回ひもを結び、ほどきます。最初は面倒かもしれませんが、ひもには大切な役割があるので慣れると欠かせない作業になりますよ。私にとっては、出かける前の儀式のようなものです」
人間工学を通して培った「ものづくり」の基礎、そして靴づくりの道へ
幼少時から、ものづくりが好きだったと話す村上さん。
高校時代は、ミシンを使ってバッグや小物を製作していたそうです。
芸術工科大学に進学し、工業デザインを勉強。
人間工学を専門に学んだのち電機メーカーに就職。
商品企画や品質保証など、製品を生み出す職務に携わりました。
オーダー靴への「投資」、靴づくりとの出合い
そんな村上さんが、「足が靴に合っていない」と自覚したのは高校卒業後のことでした。
パンプスやヒールの高い靴を履くようになり、それまでも悩んでいた足の痛みが無視できない状態になったといいます。
足裏は角質が硬くなり、指はタコだらけ。
「歩くと痛くて痛くて…」と、当時を振り返り、思わず苦笑い。
痛む足をかばってひざや腰が痛くなり、姿勢も悪くなる。
肩が凝り、頭痛がする。
「体のあちこち、全身に影響が出るのです。それを身をもって体感しました」と、実につらそうに明かします。
そこで村上さんが決意し選択したのが、オーダー靴でした。
「毎年出かけていた海外旅行を1回我慢すれば手の届くお値段だった」といいます。
それをどう捉えるかはその人次第ですが、当時の村上さんにとって靴をオーダーすることはそれ相応の価値のあることだったと話します。
「決して気軽に出せる金額ではないことは重々承知しています」と断った上で。
それぞれの足に合う、より気軽にオーダーできる靴づくりへ

靴は生活必需品であり、しかも体への影響がとても大きいもの。
「毎日の生活の中で、靴の重要性をもっと意識してほしい。
靴の理想形は、足と一体化すること。
だから、もっと気軽にオーダーできる、ひとりひとりの足に合う靴を作りたい」
そんな想いから、村上さんは自ら靴づくりを志し、出合いを糧にし研究を重ね、独自の手法を確立していくのです。
mu-ra worksが解き明かす真実! 驚きと喜びの声が続々と
さて、「市販の靴が足に合わず悩んできた」と話す村上さんの足の問題点とは、何だったのでしょう?
それは、「自分が思っていたより足の幅が細かった」ということでした。
村上さんが履いた靴はどれも広がってしまったといいます。
だから、自分は太くて幅広い足だ、と思い込んでいたのだとか。
靴のオーダーを決意し足を採寸してもらったところ、「こんなに細い(幅のせまい)足に合う市販の靴は、めったにない」と言われ、衝撃を受けます。
大きすぎる靴の中で細い足がブレて動き、つま先に移動し、足指は押されて曲がり、かかとにはすき間ができて歩きにくい…。実は、そういうことだったのです。
あなたの靴選びも間違っているかも?
mu-ra worksでは、オープンアトリエのほかイベントなどで靴の受注会も行っています。
これまで多くの人の足を採寸、数字から足と靴の関係性を明らかにし、驚きと喜びを共有してきたと村上さんは話します。

「本当の足のサイズを知らない方がたくさんいらっしゃいます」と村上さんが話すように、中には靴のサイズを2cmも大きく勘違いしている人がいたそうです。
長さは22cmなのに、足幅・足囲が大きいから24cmの靴を選んでいたとか。
その背景には、「大きめのゆるい靴が履きやすい」という間違った認識があるのではないかと村上さんは表情を曇らせます。
「ゆるい靴を履くと、中で足が動いてさまざまな問題が生まれる原因になります。足にぴったりと合う靴が、本当に快適な履き心地につながります」
私の靴選びも間違っていました
私の足を測っていただきました。
私は普段、24cmの靴を履いています。
自他共に認める幅広足です。
3E、あれば4E。とにかく「幅広」「ゆったり」という触れ込みのものを探して購入していました。

長さは、24cmでOK!
よかった、間違っていなかった。

「幅広じゃないですよ! 細いです!」
私の足幅と足囲を測り終えた村上さんの第一声が、これ。
えっ、そんなはずは…。
「3Eを履いているんですか? だめです、Eにしてください!」
ええっ。やはり間違っていたということですか…。
実は私の足裏も角質が硬くなり、頑固なタコもあります。
このせいだったのか…?
今後の靴選びに生かしていこうと思います。
村上さん、ありがとうございました!
一緒に考え作り上げる、ワークショップクラス
アトリエでは、ワークショップも開催。
道具の使い方や工程・革の縫い方など、カリキュラムにのっとっていくつか小物づくりを学び、その後は靴やバッグ・小物など、作りたいものを好きなように、自分のペースで作ります。

「みなさんの作りたいものを一緒に考えて、提案したり実験しながら共に作り上げるという形式であり、レッスンではありません」とほほ笑む村上さん。
おのおのが自分の手元に集中しながら、質問をしたり道具を探したり、ちょっとした言葉を交わしたり。
「ミシンを使うより、手縫いで時間をかけて少しずつ仕上げていくのが楽しい」と、アトリエメンバーの1人はその魅力を話してくれました。
落ち着いた古民家アトリエの雰囲気、やわらかい陽光と照明、そして何より朗らかであたたかく、信念と情熱という芯を持つ村上さんの人柄。
そのすべてがmu-ra worksの魅力をつくり上げていると感じました。
※価格は取材時(2022年9月)のもの。詳細はお問い合わせを。
mu-ra works
住所/千葉県船橋市七林町436-68
営業時間/不定
定休日/不定休
駐車場/なし
アクセス/新京成線「薬園台駅」より徒歩8分
問い合わせ/070‐8329‐3505
※アトリエへ来訪の場合は要予約
インスタグラム/ @mu_raworks
ホームページ/https://www.mu-raworks.com/
ワークショップクラスのお問い合わせ/https://www.mu-raworks.com/class