「印籠」といえば、テレビドラマ「水戸黄門」で悪代官たちが途端に平伏する、水戸徳川家の家紋(三つ葉葵)入りの品しか知らない筆者。
国立歴史民俗博物館の日高薫教授に、江戸の美意識と技を味わう印籠の鑑賞法をお聞きしました。
公開 2022/10/22(最終更新 2022/10/21)

印籠はおしゃれアイテムだった!?
印鑑入れとして生まれた「印籠」は、江戸時代には腰に提げる携帯用薬入れとして武家や裕福な町人の間で流行しました。
武士の服装には数々の制約があり、目立たない所に工夫を凝らすしかなかった時代、印籠は個人の美意識をさりげなく反映できる装飾品だったのです。
三段から五段重ねの容器をひもで連結した本体は、漆塗製だけでなくさまざまな素材があり、印籠師は数センチ四方の表面に蒔絵や螺鈿などの高度な工芸技術を駆使して、伝統的な美意識や依頼主の好みを反映したウィットに富む意匠を描きました。

そのバリエーションはとても豊か。
国内需要が減少した明治以降は、エキゾチックな芸術作品として海外で人気が高まり、愛好家たちの収集対象として多くの名品が海外に流出したといわれています。
絵に隠された願いやストーリーを味わう
鑑賞を楽しむポイントの一つは工芸技術。
幕府や大名の庇護の下、漆や貝や金銀などを使いこなす高度な工芸技術が発達しました。
実物の細部までよく見て、現代に名を残す職人たちが駆使した手技を味わってください。

二つ目は絵柄に込められたストーリーに注目。
元となる古典文学や能や中国の故事が分かると、その絵を選んだ注文主や印籠師の教養や好みや願いが感じられそうです。
また、さりげなく描かれている草花や鳥や動物も季節を表現していたり、幸運を願う吉祥祈願が隠されていたりと、意味を読み解くのも面白そうです。

今回は、2018(平成30)年度までに国立歴史民俗博物館に寄贈された印籠・根付・たばこ入れコレクションの中から未公開資料を中心に100点以上が展示されます。
小さいながらも用いる人のこだわりを表す品々には、貴賤を問わず装うことを楽しんだ日本の文化が凝縮されています。
都市を中心に華開いた豊かな生活文化を味わってください。
特集展示「もの」から見る近世
「印籠とたばこ入れ」
会期/10月25日(火)~12月4日(日)
開館時間/午前9時半~午後4時半(入館午後4時まで)
休館日/月曜日
会場/国立歴史民俗博物館・第3展示室
入館料/一般600円、大学生250円、高校生以下無料
問い合わせ
TEL/050-5541-8600(ハローダイヤル)
国立歴史民俗博物館ホームページ
HP/https://www.rekihaku.ac.jp