千葉県船橋市にある「皆川牧場」は昭和27年創業の老舗。
千葉県内初の農場HACCP認証農場の承認を受け、衛生管理と就労環境の向上に努める一方、敷地内に念願のチーズ工房を新設、船橋産チーズの生産に乗り出しました。
3代目の皆川香理さんとスタッフの皆さんが日々酪農に向き合う姿勢をリポートします。
公開 2022/11/28(最終更新 2023/12/25)

ぜひ味わって!「船橋産チーズ」
船橋市北部。市街地を外れ、山あいの方へ。
農耕地と豊かな木々の緑、空がいつもより広く大きいなぁと感じつつ、脱輪の可能性に緊張感を強いられながら舗装のない道を進むこと約2分。
吹く風に、土と牧場特有の匂いを感じ始めたころ、見えてきました!
「皆川牧場」です。
2022年夏に着手した船橋産チーズの製造を軌道に乗せ、市内の販売店で大きな注目を集める皆川牧場。
まずは敷地内にあるチーズ工房を見学させていただきました。

出迎えてくれたのは、同牧場3代目の皆川香理さんと、妹の長川さん。
チーズ作りは主に長川さんが担当し、牛の飼育や世話に従事する皆川さんがサポートにあたります。
皆川牧場で製造しているチーズは、モッツァレラ、スカモルツァ、カチョッタ、リコッタの4種類。
この日はスカモルツァ作りが進んでいました。
成形後、飽和食塩水に漬けたスカモルツァを引き上げ、ひもで縛り、冷蔵庫内につり下げて乾燥させます。
1週間後には水分が抜け、うまみが凝縮したチーズに仕上がります。
練って作るスカモルツァは弾力があり、もっちりとした歯ごたえと程よい塩味、清らかなミルクの味わいが後を引くおいしさです!
加熱してもトロトロにはならないため、厚切りにしてステーキのようにフライパンで焼き、焦げ目をつけて食べるのもおすすめとのこと。
「もちろんそれをパンやじゃがいもに載せてもおいしいですよ」と皆川さん。
くせがなくしっかりした歯ごたえがあり、そのまま食べてもおいしいカチョッタは、スライスしてパンにはさむのが長川さんのおすすめ。
皆川牧場のフレッシュチーズは、早朝に搾ったばかりの新鮮な生乳から作られるため、ミルキーな風味そのものがすばらしく、シンプルにいただくのが一番おいしいのだと感じました。
調理師として飲食店で勤務していた長川さんは、実家の酪農を手伝う中で、せっかく新鮮な牛乳があるなら作りたてのモッツァレラを販売したい、という夢を描いたといいます。
飲料としての牛乳消費がメインである日本では、ホルスタイン種が主に飼われています。
皆川牧場でも長年ホルスタイン種のみを飼育していましたが、チーズ作りを視野に入れたのちは乳成分の異なるブラウンスイス種とジャージー種も仲間入り。

ブラウンスイス種の生乳は高たんぱく・高脂肪でコクと甘みのある風味が特長、チーズ作りに適しているといいます。
乳脂肪分が高く濃厚な味わいのジャージー乳から作るアイスクリームも、製造・販売を開始するべく準備中とのこと。
「朝、搾ったばかりの生乳から作るフレッシュチーズをはじめ私たちが作る船橋産の乳製品を広く知ってもらい、飲食店などでも使ってもらえるようになれば」と長川さんは抱負を語ってくれました。
現在、船橋市を中心に8店舗にて販売中です。
取り扱い店舗などの詳細は、インスタグラムでチェックしてくださいね!
皆川牧場の歴史と歩み
皆川牧場の歴史は古く、創業は昭和27年にさかのぼります。
当初は鎌ケ谷市の牛舎で30頭の乳牛を飼育していました。
創始者の孫にあたる皆川香理さんは、北海道江別市にある酪農学園大学を卒業後、デンマークへ。
1年間の研修で目にした酪農様式に深く感銘を受け、その方法を実現したいとの強い思いを抱いて帰国。
その後3年ほどかけて、北海道や栃木県内の牧場を見学したといいます。
「酪農が盛んな地域ほど、先進的な方法を取り入れています。牛たちがストレスを感じるような狭い牛舎ではなく、ゆったりと生活できる環境を作り、アニマルウェルフェア(動物福祉)の考え方を取り入れ、維持したいと考えました」

初代である祖父の「孫(香理さん)がやりたいなら応援する」の声に後押しされ、鎌ケ谷市の牛舎を現在の船橋市鈴身町(すずみちょう)に移転したのは、平成5年のこと。
広い牛舎内で放し飼いにし、牛たちが自由に寝そべり、食べ、水を飲める環境を整備しました。
「牛も人も心地よく豊かに暮らせることを目指しています」と温かな笑顔で話す皆川さんは、自分たちが志す酪農の明確なビジョンを描き、目標を掲げ、厳しい道をも拓く強い意志の持ち主でもあります。
それは、千葉県内で初事例となる「農場HACCP認証農場」の承認を受けたことにも表れています。
千葉県内初「農場HACCP認証農場」

2016(平成28)年8月、皆川牧場は農場HACCP認証農場の承認を受けました。
HACCP(ハサップ)とは、元来、宇宙食の安全性を確保するためにアメリカのNASAが考案した衛生管理の手法であり、現在では世界的に導入が進んでいます。
チーズ作りが念頭にあった皆川さんは、農場HACCP取得を決意。
「乳製品の加工に携わるにあたって、衛生管理の認定を受けた牧場であるということを証明したかった」と話します。
体制や管理方法を徹底的に見直し、マニュアルを作り、スタッフ全員で話し合う場を設け、ミスを防ぎ、働きやすい環境づくりに注力しました。

「書類作りは大変でしたし、毎年の維持審査や更新審査も苦心しますが」と苦笑いを見せる一方、HACCP取得に取り組んだことでスタッフの衛生管理に対する意識が高まり、損害につながる事故は減少、結果、生産性が向上したとうれしそうに話します。

牛の平均寿命は本来12年ほどですが、妊娠と出産、搾乳をくり返すため、同牧場では7年ほどと短くなるのだそうです。
「だからこそ、飼育している間は心地いい環境で過ごしてほしいと思っています」と目を細めて牛たちの様子を見守る皆川さん。
「昨今の社会情勢により苦しい状況ですが、なんとか前向きに乗り越えていきたい」と力強く話してくれました。
最後に…

皆川牧場の商品ロゴです。
一番下には「ふなばし おどろばやし」の文字。
実は、皆川牧場がある船橋市鈴身町は、昭和30年以前は「行々林(おどろばやし)」という地名だったそう。
その地名をロゴにデザインしたことで、「この地に昔から住んでいる方々から、うれしい、誇らしいと、お褒めの言葉をいただきました」と皆川さんも笑顔を見せます。

鎌ケ谷で誕生し、その後、船橋へと移転した皆川牧場。
4代目となる後継者はここ鈴身町で生まれ育ちました。
「地域に根ざし、地域の人たちに愛着を持っていただける牧場であり続けたい」と話す皆川さんの、優しく力強いまなざしが印象的でした。
皆川牧場
住所/千葉県船橋市鈴身町84-2
電話番号/047‐457‐0247
※牧場内では乳製品の販売はありません。販売店舗はインスタグラムにてご確認ください。
※見学は不可
インスタグラム/@minagawa_farm