インパクトある大きな看板に、優しい木陰を作る大きなひさし。

千葉神社の交差点でこの町を見守り続けてきた木村屋は1932(昭和7)年創業の老舗です。

公開 2023/09/20(最終更新 2024/02/29)

編集部 みんみん

編集部 みんみん

編集部所属 編集/ライター、千葉市在住。 コーヒーとハイボールとスポーツ観戦が好きです。 苦手なものは強風。

記事一覧へ

形態変え生き抜く 旧駅前通りのお茶処

「実は昭和7年というのが先代(2代目)の生まれた年でね、すでに店をやっていたんです。先々代に聞き忘れたっていうもんだから、そこを創業年ってことにしても間違いないだろうってね(笑)」と話すのは3代目社長の木村潤一さん。

木村屋 千葉 豆大福
「目立ってなんぼ!」 先代こだわりの看板はすっかりこの町の風景に

「ここは旧駅前通り。昔、千葉公園に陸軍鉄道連隊の演習場があって、うちはそこでお汁粉とかおはぎとか、甘い物を出す小さなお茶処だった。終戦後は大衆食堂に切り替えて営業、世の中が落ち着いた頃に今度は和菓子屋へ。時代に沿って形態を変えて生き抜いてきました」。看板商品を豆大福にしようと決めたのは先代。戦後の物がない時代に、値段が手頃で腹持ちが良い甘味を主力にという思いからだったのではと言います。

木村屋 千葉
1日平均900個製造する大福のほか、季節の練り切りなども並びます

材料はシンプルに 味わいこそ職人の腕

手に取るとずっしりと重く、一口頰張るともっちり。粒あんの素朴な甘さが広がるとともに、餅の程良い塩気が味を締めます。アクセントのえんどう豆が餅の柔らかさを引き立てる、これが木村屋自慢の豆大福。

木村屋 豆大福
豆の食感から満足感をもたらしたいと、粒あんにこだわります

※日によっては夕方前に売り切れることもあるので要注意(取り置きも可能。電話連絡を)

店の朝は早く、潤一さんを含む3人の職人が6時から大福の製造に取り掛かります。千葉や茨城といった肥沃な水郷地帯の農家から、米穀商を通じて仕入れたもち米をふかし、きねでつくところからスタート。自家製の粒あんは、十勝や帯広産の小豆をふっくらと炊き上げます。「もち米には少量の水と塩だけ、あんも味付けは砂糖だけ。皮に普通は塩を入れないんだけど、味の良さとよそとの差別化からそうしています」と潤一さんは話します。その手に伝統を受け継ぐ職人により洗練された材料のみで作られる豆大福、賞味期限が当日限りなのも納得です。

もし翌日に持ち越してしまった場合は、軽く油を引いたフライパンかアルミホイルを敷いたオーブントースターで、少しつぶした大福を両面焼いてみてと潤一さん。また違う食感でおいしく食べられるとのことです。

和菓子の伝統を守る、本当は憧れだった

元は会社勤めだった潤一さんが店を継いで30年がたちます。先代の下で3年の修業を積み、しっかり木村屋の「味」を覚えました。和菓子の知識がなかったからこそ、逆に素直に吸収ができたのではないかと笑顔を見せます。信頼でつながる2人の職人たちは、大福の他にも練り切りなどを製造。キク、キキョウ、コスモスなど伝統のものから、季節により職人のオリジナル商品も並びます。

木村屋 練り切り
美しい練り切りたち。ナシがこの秋の新作!

コロナ禍については、「疫病退散祈願でしょうか…参拝客が途切れなかったり巣ごもり需要から個人客が増えたりと、何とか乗り越えられました」と話します。大福は会議のお茶請けとしてや体力仕事の男性客などにも求められるそう。スーツ姿の男性は、「取引先に喜んでもらえるのでしっかり人数分買いました。すぐ渡しに行ってきますよ」と包みを抱えます。そんな営業マンが手土産として買い求めやすいようにと、毎朝8時10分に開店します。

木村屋 公衆電話
店内に公衆電話が!
先代から設置のもので、緊急時につながるのでそのままなんだとか

「この店を押し付けられた! って言いたいけど(笑)…本当はある意味『古臭い』仕事に憧れがあったのかな。修業さえ終われば、この店を自分で切り盛りできる! という面白さに引かれました。世の中は変わっても、伝統を守ってお客さまに良いものを適正価格で渡す理念は変えませんよ」。戦後の市民も頰張ったであろう極上の豆大福を求め、今日も木村屋ののれんをくぐる人たちがいます。

木村屋 豆大福

有限会社木村屋
住所/千葉県千葉市中央区院内2丁目13-11
TEL/043-222-2297
営業時間/午前8時10分~大体午後4時(売り切れまで)
定休日/日曜日定休 ※変更の可能性あり。都度確認を