人懐こい笑顔と明るい人柄で、見る人に元気を与える小堺一機さん。「何が出るかな?」で一世を風靡(ふうび)し、今もなおテレビや映画、舞台で活躍しています。20代から駆け抜けてきた芸能活動を振り返り、69歳になった今、若い頃と比べて変わったこと、そして変わらないことを教えてもらいました。

小堺一機さんインタビュー(2025年)
小堺一機さん
PROFILE
1956年1月3日生まれ。1977年5月、TBS「ぎんざNOW」の素人コメディアン道場のチャンピオンになる。専修大学経営学部卒業後、1979年4月、勝アカデミーに第1期生として入学。1980年3月、勝アカデミー卒業後、浅井企画に所属。

公開 2025/01/29(最終更新 2025/01/25)

編集部 モティ

編集部 モティ

編集/ライター。千葉市生まれ、千葉市在住。甘い物とパンと漫画が大好き。土偶を愛でてます。私生活では5歳違いの姉妹育児に奮闘中。★Twitter★ https://twitter.com/NHeRl8rwLT1PRLB

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今でも変わらない仕事への姿勢

――今でも各方面で元気にご活躍の小堺さんですが、20代、30代の頃と今とで考え方や仕事観など変わったことはありますか?

あまり変わらないかなあ…。僕は23歳で今の事務所に入ったので、芸能界ではもう46年ですね。もちろん、今思い出すと「ギャーー!!」って恥ずかしくなっちゃうことがいっぱい。若い時って根拠のない自信が燃料になって、ロケットのように飛び出すけど、ゴチンゴチンってあちこちに当たって、いろんなことに気が付いていくんですよね。僕もそういうことがたくさんありました。それは大将(編集部注:萩本欽一さん)や堺正章さん、勝新太郎さん…多くの先輩方からもらった数々の助言です。でも、言われた時はよく分からないの。自分が追い付いていないから、助言をもらっても理解するのはその数年後だったりするんだよね。

例えば、初めての司会を経験した「いただきます」の放送開始直後。「頑張らなくては」っていう思いから収録日の前日にゲストのプロフィルを予習して、自分が用意した言葉だけを話して番組を進行していました。…面白くなかったんでしょうね。新聞に「もう消えて『いただきます』」なんて書かれてしまって散々でした。

そんな時、友人でもある関根勤さんに、堺正章さんからの伝言として「どうして一人でしゃべってるの」と言われたんです。実は大将からも同じようなことを数年前に言われていて、勝さんからも「独りよがりの芝居はいやしいものだぞ」という言葉を以前もらっていて、「ああそうか」と理解しました。数年前にインストールされたものが、年月を超えてダウンロードされた感覚です。

僕は事前準備で満足して、スタジオ収録中にゲストが発した言葉に全く反応してなかった。それに気付いた時にパッと世界が変わって視野が開けました。ゲストの発言をアドリブで拾って返して盛り上げて…、後継番組の「ごきげんよう」(1991~2016年放送)と合わせて31年もの間、司会を続けることができました。

僕は幸いなことに、偉大な先輩からアドバイスを頂ける機会があり、さらにそれを生かす場所にも恵まれた。そうして20代で学んだ仕事への姿勢は、今でも大きくは変わりません。

小堺一機さんインタビュー(2025年)

お客さんと会えるライブや舞台は原点

――最近では舞台やライブにも精力的です。

やっぱり、お客さんの前での仕事が好きなんです。「欽どこ」は公開収録でしたし、「紅白歌のベストテン」はスタジオとの生中継、「いただきます」「ごきげんよう」も公開収録で常にお客さんが目の前にいました。お客さんの反応は正直だし、お笑いは特にそれが顕著です。「あ、スベったな」っていうのもすぐに分かってしまうのは怖いところですが(笑)。目の前で楽しそうに笑ってくれるお客さんがいる、それが本当に幸せだし、僕の原点ですよね。

先日の舞台の記者会見でも話したんですが、僕らの仕事って毎日が「初めて」なんですよ。毎日同じ舞台をやっていても、その日その日で少しずつ違うから飽きない。自分も楽しいし、人から「面白かった」って褒めてもらえることもある。好きなことでごはんが食べられる、それが元気にもつながっています。

――先ほどお話に出た関根勤さんとは、今でも「コサキン」コンビで活動され、2月にはライブも実施されるとか。若い頃と関係性に変化は?

関根さんとは不思議な縁があるんですよね。ソウルメイトと言ってもいいくらい。

彼が「ぎんざNOW」の「素人コメディアン」で勝ち抜いていた頃、僕はただの視聴者で、まだ話したこともなかったんですが、「関根さんのネタ好きだな~」と思っていて。地下鉄の車内やハンバーガー屋さんで偶然、見かけることがあって「ラビット関根さんだ…!」ってドキドキしてました。

その後、事務所に入ったら関根さんがいて、二人ともまだ仕事がなかったから、コンビを組まされて下北沢のライブハウスに出演することになって…。苦楽を共にした仲です。昔は一緒の仕事も多かったし、ごはんもしょっちゅう行ってましたが、今では月に1度くらいラジオやイベントで顔を合わせる程度。ですが、それが逆にいい感じなんです。お互い異なるフィールドで得た刺激を持ち寄れるから、アイデアが膨らむんですよ。

関根さんって天才だから、無茶振りに対して「できないよ」とは絶対言わない。突然僕が「アメーバのルリオくんですよね?」とか振っても「細胞分裂!」ってやってくれる(笑)。いつだって予想を超えてくるし、何年一緒にいても新鮮で驚きがある人です。二人ともお笑いが好きという共通点はありますが、少し趣向や方向性が違うのもいいのかもしれないですね。

余白を持って新しいことに挑戦したい

――これからやってみたいことはありますか?

僕ね、ぜいたくなことに、やりたいと思ったことは全部やらせてもらっているんです。海外ロケ、ミュージカルにストレートプレイ(せりふ劇)、テレビやラジオでは真面目なことからおバカなことまで。だからこれからも新しいこと、自分が想像もしていない何かに挑戦できたらうれしいなあ。

そのためには、思い込みや先入観を持ちすぎないことが大事ですよね。例えば、自前で衣装を用意することもありますが、スタイリストさんに付いてもらうと、自分では思いつかないようなコーディネートをしてくれます。「ちょっと派手だな」という色でも着てみると案外しっくりくる。これって客観的に僕に似合うものを持ってきてくれるからだと思うんです。

仕事も同じで、これまでを振り返っても、僕は自分で考えたことはあまりうまくいかなくて、「これやってみない?」と声をかけてもらったことの方がハマる。だから、常に「小堺にこんなことやらせてみよう」と言ってもらえるように、「のりしろ」みたいな余白を持っておかないといけないですよね。

大将から言われた言葉で「この世で一番うまいのは素人とプロ」というのがあるんですが、これは素人さんとプロは限りなく近いものだという意味です。

いやらしい例えですけど、素人さんは「芸」の貯金がゼロだから怖いものは何もないし、プロは「芸」の貯金が1億だからたとえ1千万を出すとしてもどうってことはない。素人とプロの間にいる人は貯金が200万くらいなのに1億に見せようとするから、「何かしてやろう」っていうムダに頑張ってしまう。でも見ている人にとっては、肩の力がスッと抜けてるくらいがちょうどいいんです。

だから今でも自分が「頑張ってる」って思ったらだめだなって律しています。自然体という言葉が何年か前にはやりましたが、まさにそれ。意識しなくてもいい仕事ができる、そんなプロの境地を目指したいですね。

小堺一機さんインタビュー(2025年)
この日のコーディネートも私服。モノトーンでおしゃれ

映画に見る理想の年の取り方

――映画通の小堺さんにお聞きしたいのですが、理想的な年の取り方を映画のワンシーンに例えると…

面白い質問ですね! そうだなあ…すぐに思いつくのは、「ゴッドファーザー」でマーロン・ブランドが演じたヴィトー・コルレオーネのような最期。孫と遊んでいて、いいですよね。まあ、あらゆる手を使って裏社会に君臨したボスが最期は穏やかに…は、ちょっとずるいねっていうのはありますが(笑)。監督のフランシス・コッポラは「ゴッドファーザー」を家族の物語として撮ったと公言しているから、そういう意味でもすてきだなと思いました。逆に息子のマイケル・コルレオーネはかわいそうな最期だよね。

ああいうふうになりたい、という先輩像なら「プラダを着た悪魔」のナイジェル。主人公がうまくいかなくて落ち込んでいるシーン、「君はただ泣いているだけで努力をしていない」と、怒るのでなく諭すところが好きです。

カッコイイ年の取り方といえば、「セント・オブ・ウーマン 夢の香り」でアル・パチーノが演じた盲目の退役軍人、フランク・スレード中佐。戦争で視力を失った偏屈なおじさんと苦学生の交流を描いた作品なんですが、クライマックスでの中佐のスピーチが最高なんですよ。説教くさくないけど説得力があって、憧れちゃいます。中佐はちょっと女性好きなところもあって、そのくどき方もしゃれていてシビれるんだよね。

――年を取ることはネガティブに捉えがちですが、小堺さんから読者へメッセージをいただけますか?

20代30代ではなかなか自分の老後は意識しませんから、年を重ねるにつれて不安を感じるのは当然のことですよね。僕は病気になったことで死を意識しましたし、最近は少しずつ知人が亡くなることも増えてきました。

だけど、まだ起きていないものに対して「どうしよう」って不安になる時間がもったいない気もするんです。その時間を楽しい事に使った方がずっといい。僕は渋滞に巻き込まれた時は、「天の声が今日はゆっくり行けって言っているんだな」と思うことにしています。捉え方ですよね。だから老後が心配になったら、神様が「そろそろ計画立てた方がいいんじゃない」って言っているのかもしれない。それなら準備できることはして、あとは誰かに会ったり外に出かけたりして、楽しく過ごすのがいいんじゃないかな。

小堺一機さんインタビュー(2025年)
にこやかでお茶目な小堺さん、撮影中にはこんなサービスショットも!