千葉県我孫子市で、白樺派文人たちの精神を現代に受け継ぐ新たな文化芸術祭が開催されます。

その名も『白樺芸術祭ABIKO~過去と未来の交差~』。

市制施行55年を記念し、産官学と市民が協力して企画されたこの祭典は、かつてこの地で文化芸術の礎を築いた白樺派と、今を生きる若きアーティストたちを結びつけ、我孫子から新たな物語を紡ぎ出そうとする試みです。

公開 2025/10/29(最終更新 2025/10/29)

野中真規子

野中真規子

フリーライター歴20年。取手市出身。2021春に東京から我孫子市に移住し、手賀沼周辺の水辺や豊かな緑、遺跡、史跡、ユニークな個人商店などに囲まれた生活を満喫中。スパイスと魚影、日本語ROCK、RAP、民族的デザイン、音楽、祭り好き。https://makikononaka.com/

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白樺派の志や作品を見つめ直し、未来へとつなぐ文化の追い風を

実行委員長を務めるのは、志賀直哉の孫であり、現代アートコレクターとしても知られる山田裕さん。これまで白樺文学館への作品寄贈や講演など、文化事業を通じて白樺派の精神を我孫子に根づかせてきました。

「かつて志賀直哉、武者小路実篤、柳宗悦、バーナード・リーチらが交流し、『白樺美術館』を建設しようという構想がありました。ロダンやセザンヌ、ゴッホなどの作品を展示しようという夢は実現しませんでしたが、その志は今も我孫子の文化の根として息づいていると感じます。

私たちはその想いを受け継ぎ、未来へとつなぐ“文化の追い風”を起こしたいと考えました」(山田さん)

志賀直哉の孫で現代アートコレクターの山田裕さん
志賀直哉の孫で現代アートコレクターの山田裕さん

芸術祭の見どころ──展示・体験・上映がつなぐ「過去・現在・未来」

白樺芸術祭ABIKOの企画は、我孫子に息づく白樺派の精神を「過去」「現在」「未来」という三つの視点から見つめ直す構成で進められています。

「『過去』では、白樺派の文人たちが我孫子で築いた芸術の足跡を、展示や上映、対話を通してたどり、その表現がもつ現在性や普遍性に光をあてます。

『現在』では、今を生きるアーティストたちが我孫子という土地から得たインスピレーションを作品として発表。公開講座などを通じて、来場者が創造のプロセスにふれる機会も用意しています。

そして『未来』では、『私たちの表現は未来にどう残るのか?』をテーマに、AIを活用した体験や公募展示、ワークショップなどを通して、次世代へとつながる文化記憶を重ねていきます」(山田さん)

11月15日(土)から始まる展示期間では、我孫子駅南口階段に、フジロックフェスティバルやNFLなどでも活躍するアーティストHOLHYさんによる大型壁画が登場。

また、アビシルベには人気ゲーム『文豪とアルケミスト』のキャラクターパネルが設置され、来場者は自由に撮影を楽しめます。

(C)2016 EXNOA LLC

さらに「私の好きな我孫子の風景」をテーマとしたフォトアワードの受賞作品も、公式インスタグラムで公開されます。

ワンデーイベント(11月30日)は駅前全体が文化の舞台に

駅前広場、アビシルベ、イトーヨーカドー、晃南土地レンタルスペースなどを会場に、体験・講演・パフォーマンス・飲食・物販が一体となる「ワンデーイベント」が開催されます。

駅前広場には、木と紐と人とで組み立てる構造体「HITOTO」のテントが登場し、手仕事や民藝に通じる生活美をテーマにしたマーケットが並びます。

「HITOTO」のテント イメージ
「HITOTO」のテント(イメージ)

中央学院高校の書道パフォーマンスや、中央学院大学のチアパフォーマンスもあり、若者たちのエネルギーが会場を彩ります。

また、「ギャラリーセントアイヴス」井坂浩一郎さんによる講演(リーチと濱田庄司の陶芸に学ぶ)、山田裕さん×稲村隆さん(我孫子市学芸員)の対談、中央学院大学講師・安田吉人さんによる文学講座「江戸から近代へ」や、高橋茂美さんによる「白樺派文学講義」といった文化教養プログラムも盛りだくさん。

山田さんと我孫子市の学芸員・稲村隆さん
山田さん(右)と我孫子市の学芸員・稲村隆さん

さらに、市内のアーティスト中村祥一さんによる「AI志賀直哉と会話できる電話」の体験展示も。

デザイナーMOGUMIさんのワークショップや、ショップ・デコラによる展示販売、時任海斗さんのライブペイントなどもあり、市内クリエイターたちの感性が街に広がります。

夕方16時以降は駅前広場をライトアップし、音楽と飲食を楽しむアフターパーティも開催予定(※屋外企画は荒天中止)。

イメージ
駅前ライトアップのイメージ

※屋外企画は荒天中止となるものもあります。

志賀直哉の名作! 貴重なフィルムによる『暗夜行路』上映会+ミニトーク

12月10日(水)には、けやきプラザ2階のホールで、志賀直哉の名作を原作とした、希少な35mmフィルムによる映画『暗夜行路』の上映会があります。

「生きることの孤独や悩み、そしてそこから見出す希望を描いたこの作品は、文学ファンだけでなく、今を生きるすべての人に問いを投げかけてきます。どんなに夜が深くても、歩み続ければ必ず朝は来る、そんな普遍的なメッセージを胸に、私たちはこの上映会を企画しました」(山田さん)

上映終了後には、山田さんと市内在住のフリーライター野中真規子(筆者)によるトークも予定。

大学生の頃まで原作者と交流があったという孫の視点を交えたお話は、作品理解をより豊かにし、志賀直哉の人物像を身近に感じていただける機会となるでしょう。

写真家・本城直季さんの写真展「あびこ small planet」

12月1日(月)〜28日(日)には、アビスタで「あびこ small planet 」 本城直季写真展が開催されます。

本城さんは我孫子市在住の写真家で、『small planet』(リトルモア、2006年)で第32回木村伊兵衛写真賞を受賞。蛇腹の付いた大盤フィルムカメラを利用し、独特の手法で風景をジオラマのように撮影した作品は、現実の都市や自然の中にある人工物や人間までもがミニチュア化され、見ていると別世界に誘われたかのような不思議な感覚に陥ります。

クレーンやヘリコプターなどを使用し、世界中で撮影された作品はメトロポリタン美術館やヒューストン美術館にもコレクションされています。

今回の展示作品は空から撮影された我孫子のまちや、我孫子の小学校を撮り下ろしたシリーズ 「small garden」 、水の館の展望室から撮影し我孫子ののどかな時間「春と夏」の時期を表した写真のほか連続写真を繋げた映像作品も上映されます。

12月7日(日)には旧井上家住宅では本城さん自身の作品解説と、エキストラとして作品に写り込むことができる「写ろう会」も行われます。

かつて「白樺美術館」を夢見た志賀直哉たちの志は、100年の時を経て現代のアーティストたちによって再び芽吹こうとしています。

自然と芸術、過去と未来が交差する『白樺芸術祭ABIKO』。

この秋、あなたもその風の中に立ってみませんか。

白樺芸術祭ABIKO実行委員の皆さん
白樺芸術祭ABIKO実行委員の皆さん
ポスターには、我孫子に滞在経験のある画家・時任海斗さんの手賀沼をモチーフにした作品を起用
ポスターには、我孫子に滞在経験のある画家・時任海斗さんの手賀沼をモチーフにした作品を起用

住所/JR我孫子駅南口周辺、けやきプラザ、アビシルベ、アビスタ他
開催日時/展示期間=11月15日(土)~30日(日)
     ワンデーイベント=11 月30日(日)午前10時~午後7時
     暗夜行路上映会=12月10日(水)第一回・午後1時15分〜午後3時45分、第二回・午後4時45分〜午後7時30分(アフタートーク含む)
     本城直季展12月1日(月)〜12月28日(日)
料金/入場料無料(ワークショップなど有料企画もあり)
映画『暗夜行路』のチケットは1,000円。12月9日(火)までにチケットぴあ(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2536945/Pコード555-639)またはセブンイレブンのマルチコピー機で購入
ホームページ/https://www.shirakaba-artfest.com

問い合わせ
メール/shirakaba.art.fes@gmail.com 白樺芸術祭ABIKO実行委員会