日本が誇る発酵食品の代表格といえば日本酒。

創業1689年、鍋店(なべなた)株式会社の蔵人(※)・田苗さんに、ディープな酒造りの世界を取材しました。

※蔵人…日本酒造りの現場で酒造りに従事する職人

公開 2026/02/04(最終更新 2026/02/03)

編集部 ゆりか

編集部 ゆりか

編集部所属の取材記者。白井市出身、船橋市在住。コンテンポラリーダンス、ヨガ、ズンバ、バレエなどとにかく踊るのが好き。取材執筆も好きだが、地図が読めないため取材前はいつも軽く迷う。食べ盛りの夫と3人の子育てに奮闘中。

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体でつかむ職人の繊細な感覚

いまだに神聖な雰囲気が漂い、昔ながらのたたずまいを残す鍋店の酒蔵(さかぐら)。

その中で行われる酒造りは今でも杜氏(とうじ)(※)や蔵人の繊細な感覚によって支えられています。

「樽の中の微生物は生きてるなって思います」と語るのは製造部の田苗さん。

鍋店株式会社製造部 田苗伸敬さん
鍋店株式会社製造部 田苗伸敬さん

日本酒造りには麹菌と酵母菌という2種類の微生物の力が不可欠です。

麹菌はカビの一種で、蒸したお米のデンプンを糖に変える役割。

酵母はその糖を分解して、アルコールを造り出す働き手。

目に見えない2種類の微生物の力を借りて日本酒を造り出しているのです。

もろみ(※)の表面の泡立ち、匂い、味、櫂棒(かいぼう)でかき混ぜたときの感触…。

櫂棒でかき混ぜてる様子
櫂棒でかき混ぜてる様子

毎日樽の中を見ていると、もろみの発酵具合が分かってくるそうです。

現代では製造工程のさまざまな部分でデータ管理を行っていますが、経験からくる勘も酒造りの大事な要素。

もろみの状態を見ながら、温度管理や櫂棒での混ぜ具合などを変えていきます。

蒸米、麹、仕込水が 入った酒母(しゅぼ)を櫂棒でかき混ぜる
蒸米、麹、仕込水が 入った酒母(しゅぼ)を櫂棒でかき混ぜる

酒蔵メーカーの中には、機械に入れて常に同じ品質の麹を作るという会社もありますが、鍋店では手造りにこだわり、経験と勘と技術力を大事にしながら、高品質の酒造りにいそしんでいます。

※杜氏…日本酒造りの最高責任者
※もろみ…酒の醸造工程で発酵してできる、どろっとした固形物

目に見えない力を頼って

1本の日本酒を造るには仕込み期間が約2カ月、熟成は数週間から、長い場合は1年かかる場合もあります。

出来上がった日本酒の味を後から変えることはできないので、常に不安はつきまとうそう。

その緊張感と責任感の中で行う酒造りは「微生物を育てながら自分を見つめ直す時間」と田苗さんは話します。

その分出来上がった日本酒がお客さんの手に渡る時はひときわうれしく感じるとか。

ちなみに何十種類もの日本酒を仕込む9月〜4月の間、杜氏、蔵人は納豆、キムチ、ヨーグルトを食べません。

頭髪や爪などに付着した目に見えない菌が酒蔵タンクに入り込んでしまうと酒質が落ちるからです。

鍋店の酒蔵。もろみが入ったタンクが並ぶ
鍋店の酒蔵。もろみが入ったタンクが並ぶ

昔は蔵の梁や空気中に浮遊して繁殖している酵母でアルコールを造り出していた酒造り。

自然に存在している「蔵付き酵母」が発酵の頼りだったのです。

現代では人の手で酵母を加えるのが一般的ですが、微生物の力はいまだに不可欠。

人間だけでは造り出せない自然の力に敬意を払いながら、今夜も一杯、いかがですか。

定番の「仁勇」(上段)「不動」(下段)だけでも数十種類のラインナップ
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