【船橋市】海老川散歩 河口から源流までをさかのぼる

船橋市街の中心部を流れる海老川は、船橋の歴史や住民の生活と深く結び付いた、市民にとってなじみの深い川です。

河口からスタートして川沿いを歩き、最後は源流を訪ねてみました。

市内を流れる海老川

公開 2020/12/23(最終更新 2020/12/25)

ちいき新聞ライター

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地域に密着してフリーペーパー「ちいき新聞」紙面の記事を取材・執筆しています。

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海老川の名は源頼朝にまつわる伝説に由来

海老川の名前の由来は幾つか伝わっていますが、最も有名なのは「源頼朝がこの地を通り掛かった時、地元の漁師が川から獲れたエビを献上したから」という説。

名前の由来といえば、船橋という地名にも海老川が関係しています。

かつての海老川は今よりも水量が多い交通の難所で、人を渡すために川に船を並べて橋代わりにしていたことから、その周辺を船橋と呼ぶようになったそうです。

海老川の終点から東京湾を望む
▲海老川の終点から東京湾を望む

昔から変わらない漁港の風景
▲昔から変わらない漁港の風景

「海老川十三橋巡り」は船橋橋からスタート

海老川に架かる13本の橋は、それぞれ船橋の特徴をイメージしたレリーフで飾られ、「海老川十三橋巡り」として散歩コースが整備されています。

海老川河口付近の親水公園
▲海老川河口付近は親水公園になっている

1本目は、河口付近にある船橋橋。

「海へのロマン」をイメージした河童の親子像が飾られています。

この橋から南が船橋港で、橋から上流が海老川。

十三橋を巡る川沿いの道には休憩用のベンチやトイレなども設置され、市街地の風景に潤いと憩いを与えています。

八千代橋
▲八千代橋には波に乗ったクジラが泳ぐ

海老川橋の碑文には説明があり、船橋の地名の由来の他、治水の歴史についても知ることができました。

海老川橋
▲海老川橋には船首をかたどったオブジェが

各橋には「歴史」「人」「音楽」など固有のイメージが割り当てられています。

栄橋
▲音楽がモチーフになっている栄橋

「ボランティア精神」をイメージした丸山橋には、さざんか募金運動のマスコット「さざんかさっちゃん」と、たくさんの河童が乗り込むボランティア船のオブジェがあります。

丸山橋
▲河童たちの顔に注目!

河童のデザインは日本を代表する漫画家たちによるもの。

おなじみの絵柄の河童を探してみるのも楽しいですね。 

歴史と文学の市街地エリア

船橋大神宮の程近く、九重橋まで歩くと、少し路地を入った場所に昭和の文豪太宰治の旧宅跡があります。

太宰は一時期海老川のすぐ近くに住み、この地でいくつかの作品を書き上げました。

九重橋には、太宰をしのぶレリーフが飾られています。

太宰治のレリーフ
▲太宰治のレリーフには「走れメロス」の一節

江戸時代には、今の東金市へ鷹狩に訪れる将軍一行が宿泊するための御殿が、この付近に建てられていました。

御殿跡には徳川家康を祭る東照宮が建てられ、日本一小さい東照宮ともいわれ、親しまれています。

この辺りでは、下町の風情が残る静かな風景の中で、歴史のロマンを感じることができるでしょう。

新海老川橋
▲新海老川橋のイメージは「祭り」

海老川のそばの住宅街
▲住宅街に潤いと安らぎを与える川沿いの風景

住宅街を通り抜けた川は、船橋中央卸売市場の敷地内を通ります。

あらためて船橋が漁業の街であることを思い出させてくれます。

癒やしと健康のジョギングロード

市場を抜け富士見橋を過ぎると、市街の喧噪は遠のき、草木の香りが濃くなります。

川の周りには牧歌的な景観が広がっています。

ここから八栄橋までの約1㎞は海老川ジョギングロードとして整備され、散歩やジョギングをする人が数多く訪れるエリア。

海老川ジョギングロード
▲清涼な空気に包まれるジョギングロード

海老川の野鳥
▲野鳥が遊ぶ自然が残る

オリンピック女子マラソン銀メダリストの有森裕子さんもトレーニングに使っていたコースで、八栄橋の近くには有森さんの足型のモニュメントも設置されています。

有森裕子さんの足型レリーフ
▲五輪メダリスト有森裕子さんの足型レリーフ

この区間は川の両岸に桜並木が続いていて、船橋でも有数の花見スポット。

富士見橋と八栄橋の間にかかる鷹匠橋には、鷹狩に来た徳川将軍が放った鷹をここから眺めた、という話もあります。

鷹匠橋
▲鷹匠橋

海老川唯一の木造橋であり、周囲の自然に溶け込む情緒あるたたずまいです。

十三橋巡りの終点を過ぎ、ついに源流へ

ジョギングロードの終点から250mほどさかのぼると、十三橋巡りの終点である向田橋に着きます。

向田橋では、農業や豊作をイメージしたかわいらしい2羽のキジのレリーフが、欄干で餌をついばんでいます。

周辺に広がる、懐かしさを感じる穏やかな田園風景に似つかわしいモチーフですね。

向田橋
▲向田橋のレリーフ

さらに上流へ…。

海老川上流
▲より自然が濃くなる上流部

川は田園の中を、少しずつ水量を細らせながら流れ、金杉台団地を経て、やがて水源の御瀧不動尊の境内へと至ります。

600年ほど前、今の御瀧不動尊の境内付近は夜でも明るい光を放ち、村人から恐れられていました。

通りがかった高僧が祈禱を行い、お告げに従い地面を掘ると、木造の不動尊が現れ、同時に湧き水が噴き出し滝となって流れ出したそうです。

それが海老川の源流となり、また、御瀧不動の由来となったとのこと。

海老川源流の案内板に従い、狭い石組の階段を下りて行くと、石垣に囲まれた水行場になっています。

音瀧不動尊水行場への階段
▲水行場への階段

かつては修行の場でもあった水行場に降りると、厳かな静けさの中、龍の頭をかたどった出水口から湧き水が流れ落ち、心を落ち着かせてくれる水音が響いていました。

伝説の残る源流の湧き水
▲伝説の残る源流の湧き水

源流近くで蛍が飛び交う日を夢見て

水行場に端を発した海老川は、境内の中をせせらぎとなって流れています。

そこでは2007年から、「海老川源流とホタルの里作りの会」が、蛍を呼び戻す活動を行っています。

せせらぎの清掃や整備が毎月1回ボランティアの人たちの手で続けられており、12年からは、毎年6月に数百匹蛍を放流するイベントなども開催されています。

海老川源流
▲境内の中を流れる海老川源流

いつかきっと、海老川の流れで育った蛍が境内の森を飛び交う幻想的な風景が見られることでしょう。(取材・執筆/ふじもり)