【富津】江戸前の味を守れ!富津の牡蠣「江戸前オイスター」

富津の海苔養殖は古く江戸時代に始まり、味、色、香りの良さから江戸前海苔として珍重されてきました。
しかしこの数年海苔の不漁が続き、富津の漁業が危機に陥っています。
苦境に立つ富津の漁師と海を守るため、新富津漁業協同組合が初めて取り組んだのは、牡蠣の養殖でした。
「江戸前オイスター」と名付けられた新ブランドの牡蠣が今、富津を飛び出し全国で新風を巻き起こしています。

富津の新ブランド「江戸前オイスター」

歴史ある海苔養殖から牡蠣養殖へ

富津で海苔の不漁が始まったのは6年前から。原因は海水温の上昇や、クロダイによる食害など、地球環境の変異が原因とされています。

これは1971年に発足し、富津岬南側の漁場で海苔漁一筋に打ち込んできた新富津漁業協同組合と漁師さんたちにとって大問題でした。

さらに、かねてからあった後継者不足問題なども重なり、発足当初236人いた新富津漁業協同組合員は、2021年には36人まで数を減らしてしまいます。

この事態を、組合や漁師さんたちはただ手をこまねいて見ているはずもなく、コンブやワカメの養殖などに取り組み活路を見出そうとしました。しかしこれらは収益の面で継続には結びつきませんでした。
そこで新たな取り組みとして始めたのが、海苔養殖の施設を活用した牡蠣の養殖だったのです。

新富津漁業組合

新ブランドの牡蠣誕生から初出荷までの道

今後の方向性を模索していた同組合の浅倉さんは「昔近隣の漁協で牡蠣養殖を行っていた」と耳にします。

そこへタイミング良くブランド牡蠣を養殖する大分県中津市への視察があると聞き同行することに。
こうして2018年、富津の牡蠣養殖は第一歩を踏み出しました。

牡蠣の養殖と聞くと、牡蠣筏(かきいかだ)を思い浮かべる人も多いかと思いますが、強風が吹き付ける富津の海は荒れることが多く、潮の流れも速いために筏を設置することはできません。

そこで専用の籠に、牡蠣を一粒ずつ放し飼いにして育てる「シングルシード養殖」の方法を採用しました。しかしこの方法は定期的に籠を水中から引き揚げて牡蠣を洗浄したり、同じ大きさの籠に入れ替えたりするなどの手間がかかり、牡蠣筏養殖のように大量生産できないなどのデメリットがあります。

また同じ養殖方法でも、育てる海や環境で設置方法は異なります。
稚貝や籠が流されるなどの苦難を乗り越え、浅倉さんは富津の海に適した方法を、試行錯誤しながら独学で編み出しました。

 

かきのゆりかご「シルクシード」
▲牡蠣のゆりかご「シングルシード」

下記の大きさを選別
▲籠を定期的に引き上げて牡蠣を洗浄し、大きさを選別してサイズごとに籠に入れ替えます。牡蠣の大きさを揃える事で全ての牡蠣が成長できるのです。

 

籠はかきの成長に合わせて目の粗さを変える
▲籠は牡蠣の成長に合わせて目の粗さを変えています

こうして同年の秋、ついに江戸前オイスターは初出荷を果たします。
1年目に出荷できたのは約3000個と少ないため、業者向けへの販売でしたが、濃厚で甘く身が大きいと評判になり、翌年には1万個を出荷と大きく数を伸ばします。

こうして順調に進むかに見えた矢先の2020年、江戸前オイスターをコロナ禍が襲います。
飲食店からの注文は激減。しかし浅倉さんはこれを転機ととらえ、業者向け販売だった江戸前オイスターを、2021年から一般向けへ販売を開始したのでした。
慣れないSNSで情報発信を続けるうち人気が上がり始め、何とこの年の出荷数は4万個に。2022年度は10万個の出荷を目指すといいます。

「江戸前オイスターの養殖には手間がかかるので、出荷量に限界があるのが課題です。今後は安定供給できるように取り組んでいきたいです」と浅倉さん。一度は漁業から離れたものの、人出が足りず苦労する浅倉さん達の元に戻ってくれる漁師さんもいるそうです。
名産品としてだけではなく、働き手の場所を生み出すなど、牡蠣は地域再生のカギを握っているのですね。

浅倉さんは「今後は牡蠣を目当てに富津に訪れてもらえるようなことも考えたいですね。牡蠣は人を呼べる魅力ある商品だと思います」と語ってくれました。

浅倉さんと小泉さん
▲浅倉さん(右)と富津の海を守ってきた組合員の小泉さん

江戸前オイスターはどんな牡蠣?

江戸前オイスターはクリーミーで濃厚、身が殻一杯に詰まっているのが特徴と言われています。

富津で養殖している牡蠣の種類は「マガキ」。これは全国で作られているごく一般的な牡蠣の種類です。
では、江戸前オイスターと他の牡蠣との違いとは何なのでしょうか。
その秘密は、富津の海の栄養分が豊富な点と育て方にあります。

牡蠣筏の養殖法「筏式垂下法」は、数匹のかきの幼生がついたホタテ貝の貝殻を針金に通し、筏につり下げる養殖方法です。これは岩に貼りついて成長する牡蠣の生態を利用したもの。

一方、江戸前オイスターの養殖方法「シングルシード法」では、牡蠣を1粒ずつ籠に放って育てます。すると波で互いがぶつかりあって殻が削れ、殻に使われる栄養が身に集中して成長が早く、美味しくなるのだといいます。

また貼りついて育った牡蠣の殻の形は平たく育ち、シングルシード法で育った牡蠣は、殻は小さく見えても丸く膨らんだ「カップ」といわれる部分が深く、身入りの良い姿の美しい牡蠣に育つとされています。

シングルシード法ふっくら膨らんだカップ
▲ふっくら膨らんだカップの深さは身がつまっているサイン!

旬はいつ? 通年食用が可能な江戸前オイスター

江戸前オイスターは年間を通して生食することができます。

でも「牡蠣は英語のRのつく月、つまり9月(September)から4月(April)の期間中だけ食べる」ということわざを聞いた人もいるのでは。
これを「この時期以外の牡蠣には毒がある」と思っていたとしたら、それは大きな勘違い。

牡蠣は夏に産卵時期を迎えます。産卵を終えた牡蠣は身が細り、味が落ちることから一般的に秋から冬が旬の時期とされているのです。
「牡蠣にあたる」というのは、牡蠣が海水を体内に取り込んで濾過するという性質に由来します。海水温が高くなる時期には、細菌やウイルスが発生した海水を取り込み、内臓に溜めてしまうためなのです。

新富津漁業協同組合では、水揚げ後24時間、紫外線で滅菌した海水を循環させている水槽につけて雑菌や不純物を排出させ、国の検査基準をクリアした牡蠣を出荷しています。

海水浄化装置
▲この装置で海水を浄化させます

 

浄化中のかき
▲浄化中の牡蠣。浄化された海水を取り込み、体内の不純物を吐き出します

 

また2021年から取り組んでいるのが「三倍体(さんばいたい)」という、産卵しないように品種改良された牡蠣の養殖です。
産卵しないので栄養分を失う事がなく、通常の牡蠣よりうまみが凝縮され、夏でも出荷可能と言われています。
この牡蠣は2022年には出荷を予定しているとのこと。

「浄化」と「三倍体」の取り組みで可能になった、通年生食できる江戸前オイスター。食の楽しみが広がりそうですね。

浄化が済んだかきの殻から汚れを取る
▲浄化が済んだ牡蠣の殻から、他の貝や海藻などの汚れを取るといよいよ出荷

いざ実食!生産者おすすめの食べ方は?

浅倉さんに、おすすめの牡蠣の食べ方を尋ねました。
「江戸前オイスターは殻付きで販売しています。牡蠣のうま味を直接味わっていただくおすすめは生食ですね」

カップを下にして持ち、油断している牡蠣の隙間に専用ナイフを素早く差し込んで貝柱を切ると…
かきの殻を開けるコツ
▲ここで仕損じると口を閉じてしまうので素早く!

 

ぷりぷりの牡蠣

簡単に開けることができます。
慣れれば1分もかからず簡単に開けられるそうですよ。
殻の中には、ぷりっぷりの身がみっちり詰まっています!

江戸前オイスターは殻の美しさも自慢です。外国では殻の見た目も楽しむために、殻に入れた姿で提供されることも多いとか。

私は今回、最近漁師さんの間で人気になっている「牡蠣の蒸し焼き」を食べさせていただきました!

殻付きのままアルミはくに包んで蒸す

殻付きのままアルミはくに包み、フライパンで熱してお好みの焼き加減になったらOKという、いたって簡単&シンプルな料理方法。
今回は時短のため、殻から外した牡蠣をアルミはくに包んで、ストーブの上で蒸し焼きに。5分程で牡蠣自身の水分でふっくらジューシーに蒸しあがりました。
一粒がボリューミーな江戸前オイスター
▲牡蠣の身がほとんど縮んでおらず、一粒のボリュームがすごい!

いただいてみると、牡蠣のミルキーなうま味が口いっぱいに広がりました。
また江戸前オイスターは塩分濃度が高いのだそうで、味付けなしでおいしくいただけました。調味料の味がない分、より牡蠣の味わいがダイレクトに堪能できます。

最初は一口で味わいましたが、牡蠣の粒が大きいので、次は貝柱とワタを別々に、二口で食べてみました。

貝柱とワタを一緒に食べるとまた違った味わいが感じられる

ホタテのような貝柱の食感と、濃厚な牡蠣のワタとの味が楽しめ、まるで違う貝を食べているよう。貝柱が太いのは「シングルシード養殖」で育てられた牡蠣ならではの特徴だそうです。
「牡蠣独特の風味を苦手と感じる方にも、江戸前オイスターは臭みが少なく食べやすいと言っていただいています」と浅倉さん。
他にも身の大きさを生かし、ニンニクバター焼きやオリーブオイルでアヒージョなども人気だそうですよ。

江戸前オイスターの購入方法

江戸前オイスターは直売所などで購入可能
▲1セット10個(約1キロ前後)2,500円から10個単位で販売。
軍手、専用ナイフ付。写真の牡蠣は2年もの。
※出荷状況により変更あり

江戸前オイスターは、新富津漁業協同組合内にある直売所で直接購入できるほか、地方発送にも対応しています(送料別)。

一度に出荷できる数に限りがあるため、タイミングによっては購入までに時間がかかることがあります。直接購入に行かれる場合も、電話などで販売状況を確認してから向かってください。
なお販売状況は浅倉さんのインスタグラム(https://www.instagram.com/shinfuttsu/?hl=ja)で随時発信しているとのことです。

他にも富津のふるさと納税で9,000円以上の寄付をすると返礼品として江戸前オイスターを選ぶことができます。こちらも数量限定ですのでご注意ください。

■ふるさとふっつ応援寄附 
https://www.city.futtsu.lg.jp/0000003548.html

現在、富津市内の飲食店で、江戸前オイスターを食べさせてくれるお店も増えています。富津に観光の際に、いえ、これからは「江戸前オイスターを体験するために」富津を訪れてみてはいかがでしょうか?

新富津漁業協同組合 
住所/千葉県富津市富津2430-1
営業時間/9時~17時
休業日/土・日曜・祝日
アクセス/
車の場合:館山自動車道「木更津南」ICより約20分。富津海水浴場隣
電車の場合:「JR青堀駅」で下車し、日東交通富津公園行きに乗り「川名」で下車、徒歩12分
問い合わせ/0439-87-3555
HP/https://shinfuttsu.com/
※江戸前オイスターの直売もこちらから