近年バラの品種は実に多種多様になりました。
より育てやすく・美しく・香り高く…多くの園芸愛好家たちの声に応え、日々心に響くバラを追求する育種家・武内さんに話を聞きました。

公開 2022/05/15(最終更新 2022/05/13)

時代が求めるバラの機能と美しさの追求
環境に優しいバラ「ノックアウト」をご存じですか?
病気に強く農薬を使わなくてよい、SDGsの追い風もあって一躍人気の品種です。

近年では多弁が好まれ、丸い形も人気。
本来バラの原種の花びらは5枚ですが、今では100枚以上のものも存在するそうです。
美しさの意味も時代の価値観に影響を受けるもの。
離弁性、つまり散りやすさも手入れのしやすさの点で注目されています。
「育種家やガーデナー、業界の要求はとどまることを知りません」そう語るのは、1995年に京成バラ園芸株式会社に入社した武内俊介さん。
国内外でも有名な伝説の育種家・鈴木省三さんに直接指導を受けた最後のお弟子さんです。
異なる品種を組み合わせて新しい品種を作り出すのが育種家の仕事。
シンプルにおしべとめしべによる交配を行います。
色・トゲの数・葉の大きさ・枝の角度・香り…追求は果てしなく続くのです。
花首の長さが数ミリ違うだけで、世に出すことなく廃棄されるそう。
商品化に踏み切るには8年以上の時間を費やし選抜を行います。

恩師が遺した大切な教えとチームの勝利
一人前になるには最低でも10年はかかる育種の世界。
しかし武内さんの入社後わずか5年目の1月、恩師の鈴木省三さんが亡くなり、同年12月に省三さんに学んだ先輩の平林浩さんも他界してしまいます。
それでも仲間の社員たちと、恩師省三さんが遺した言葉が武内さんを支えました。
(1)美しいものに常に貪欲であれ
(2)(交配の組み合わせでは)物事を科学的に考えよ
(3)あきらめずに挑戦し続けよ
(4)(選抜の時は)直感と香りを大切に
こうした努力が実を結び、2010年、武内さんは亡き恩師に次いで日本人2人目となる「ローマ国際コンクール金賞」の栄誉を得ることができました。
春は全ての種類のバラが咲く季節。
育種家のロマンに思いをはせてバラを眺め、その香りに触れたら、また一つ違った味わいがあるかもしれません。