倉庫の片付けを手伝ったことに始まる、まるで推理小説のような展開。

知りたいという情熱が、約80年の時を超えて人と人とをつなぎ、歴史的な発見が生まれようとしています。

公開 2022/07/04(最終更新 2022/07/01)

編集部 信太

編集部 信太

千葉県初心者、編集部所属の取材記者です。おいしい珈琲を飲ませないとポンコツです。読み方はシンタでもノブタでもご自由に♪

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倉庫の片隅から奇妙な形の鉄の塊

越谷市の日本そば店店主、笹井厚志(ささい あつし)さんは、ある日知人宅の倉庫の片付けを手伝っていた時に奇妙な形の鉄の塊を見つけ、譲り受けました。

AN/APQ13レーダーのマグネトロン
奇妙な形、強力な磁気。スマホや腕時計を近づけると壊れてしまうほどだとか

非常に重たく、強力な磁気を帯びています。

その知人いわく「B-29に関係あるらしいと聞いた」とのこと。

歴史好きの笹井さんは、越谷市郷土歴史研究会の加藤幸一(かとう こういち)さんに相談しました。

すると加藤さんは以前に「昭和19年末に、現在の越谷市内にB-29が墜落した」と伝わる件を調べていて、市民講座でも取り上げていました。

しかし、この件はなぜかどこにも記録が残っていません。

加藤さんが地道に集めた証言を照合すると、場所は草加市との境、綾瀬川付近の可能性が高く、「この磁石は、その時にバラバラになったB-29 の部品の一部では」と仮説を立てました。

B-29のレーダーか?霜田光一さんの研究

では、B-29のどの部品なのか。

ある日、店の常連客で同じく歴史好きの金城義之(きんじょう よしゆき)さんが、「レーダーではないか」とひと言。

調べてみると、戦時中に「B-29に搭載されたレーダーの研究を命じられた」という帝国大学大学院生、霜田光一(しもだ こういち)さんに行き当たりました。

霜田さんは後に東京大学名誉教授を務め、文化功労者に顕彰されている物理学者です。

霜田さんの研究は全て、義理の息子の餘家清(よけ きよし)さんが本にまとめており、それに載っているレーダーのスケッチと、いま手元にある部品がうり二つだったのです。

霜田光一さんの研究誌

霜田光一さんの研究誌
餘家さんがまとめた霜田さんの研究誌と、それに掲載されているスケッチ

日本で初の発見か?情報提供を呼びかけ

笹井さんが餘家さんに連絡を取ると、うれしいことに御年101歳の霜田さんも健在でした。

電話口で「笹井さん、これは大変な発見です! 懐かしいことを思い出させてくれてありがとう!」と若々しい声を聞いた笹井さんも、感極まって涙が止まらなかったそうです。

霜田光一さん
霜田 光一さん近影

後日、餘家さんが笹井さんを訪問し、その部品「AN/APQ13レーダーのマグネトロン」を確認。

霜田さんによる鑑定証明書も発行、日本で初の発見と思われるため、博物館などに寄贈準備中です。

AN/APQ13レーダーのマグネトロンと鑑定証明書
磁石(手前)と霜田さんによる鑑定証明書
餘家清さん(左)と笹井厚志さん
餘家 清さん(左)と笹井 厚志さん

笹井さんは「博物館に寄贈するには、『昭和19年末、越谷にB-29が墜落した』という情報が必要です。なぜ一切の記録がないのか。例えば昭和20年5月に墜落した川口市安行吉蔵には、慰霊碑も建てられています。もちろん、戦時中のことでデリケートな部分もあると思います。おそらく犠牲になられた方も…。それならばなおのこと、このまま埋もれさせたくないのです。何かご存じの方、わずかな情報でもお寄せください」と呼びかけています。

※問い合わせ
TEL/048-960-5388
そば処 久伊豆(ひさいず) 笹井
※飲食店につき対応できない時間帯あり。水曜定休