彫刻と聞いて、どんなものを思い浮かべるでしょうか。
裸の石像、木彫りの熊…? 木更津市出身で在住の大川友希さんは、古着や布を使って「やわらかい彫刻」を制作するアーティストです。
高校で非常勤講師として勤めながら、各地で個展やワークショップを開くなど国内外で活躍しています。

公開 2021/04/05(最終更新 2022/09/07)

リサイクルショップでの発見
古着を使うというアイデアが生まれたのは、学生の頃働いていたリサイクルショップ。
「服は、着る人と常に一体で、時間と経験を共にします。新たな持ち主に必要とされた服は、前の持ち主との記憶を残したまま、新たな記憶を積み重ねていく。一つのモノを介して人の時間がつながり、巡っていく…。そんなことに気が付きました」と大川さんは話します。
これをきっかけに、「古着の持ち主たちの思い出や愛着を感じ取り、その断片をつなぎ直して人の時間をカタチにする」ことをテーマに作品を作るようになったといいます。
布を切り貼りして複雑に紡ぎ合わされた作品は、人という存在の複雑さも表しているかのようです。

生まれ変わった古着たちの姿はさまざま。
特に、おみこしや狛犬など、日本の伝統文化をモチーフにしたものは印象的です。
最近では建築家・湊健雄氏と共に、大切に使われてきた家具を古着でリメイクする試みもしています。
人とのつながりを作品に生かす
「人とのやりとりは苦手…のはずだけど、大好きなんです」と大川さん。
自身の創作活動の傍ら講師を続けるのも、制作を通じて子ども一人一人と関われるからだそうです。
生徒の発想や会話からインスピレーションを受けることも。
ニューヨークで個展を開いた際も、現地の人たちから服を集め、一緒に作品を制作するなど、交流を大事にしました。

そう気さくに語る様子からは想像できませんが、中学生の頃は周りに理解されない孤独感を抱えていたといいます。
そんな時、美術教師の話を面白いと思ったことや、姉の通う美術大学の友人らから刺激を受けたことから、芸術の世界で生きていくことを決意しました。
「どの道を選ぶかによって人との出会いも変わる、と考えたんです。人生を80年として、あとどのくらいの人に出会えるか…。たくさんの人と交流して一緒にいろんな美術の世界を見てみたい」地域の子どもを対象の中心として公共機関を巡り、ものづくりの面白さを「お届け」する企画も進めているとのことです。
コロナウイルスの影響を受けて、展覧会が中止になったり美術館が閉鎖したりしている今、新しいアートの楽しみ方を模索中です。
また今年は「奥能登国際芸術祭2020+」にて、石川県珠洲市の人たちとの交流を元にした作品の制作も予定しています。(取材・執筆/とまとま)