盆地特有の気候で、夏と冬、そして昼夜の寒暖差が大きい岐阜県飛騨高山。夏の日中は東京より最高気温が高くなる日もありますが、朝晩は比較的涼しく、いまだにクーラーがない家もあるそう。

豊かな自然に囲まれたこの地で、朴とつと発酵食品を作り続けている人々がいます。

日下部味噌醤油醸造 冬の岐阜県飛騨高山の街並み
冬の岐阜県飛騨高山の街並み

創業明治23年、当時から使っている木桶(きおけ)で全てのみそを仕込んでいる日下部味噌醬油醸造(くさかべみそしょうゆじょうぞう)株式会社(屋号:角一)。

蔵の中には大人の身長よりも大きな木桶が約35基、1基につき仕込む量は約4トン。

一度仕込んだみそは途中で開けることもかき混ぜることもせず、約10カ月間、微生物の自然の働きに任せてじっくりと熟成させていきます。醸造蔵の梁(はり)や土壁、137年間使い続けた木桶には独自の微生物がすみ着き、みそのうまみや甘みを造り出しているのです。

公開 2026/10/27

編集部 ゆりか

編集部 ゆりか

編集部所属の取材記者。白井市出身、船橋市在住。コンテンポラリーダンス、ヨガ、ズンバ、バレエなどとにかく踊るのが好き。取材執筆も好きだが、地図が読めないため取材前はいつも軽く迷う。食べ盛りの夫と3人の子育てに奮闘中。

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木桶一本一本の味の違いを感じる、工場長の荒家さん

日下部味噌醤油醸造 存在感のある木桶が並ぶみそ蔵
存在感のある木桶が並ぶみそ蔵

メイン商品であるこうじみそは米こうじ、大豆、塩だけが原料。

塩分濃度は市販の減塩みそに近いですが、コク、甘み、うまみが詰まった重層的な味わいで、みそ汁にすればどこかホッとする味わいに。

大豆の粒が残っているのも手作りならではです。

「10カ月後に出来上がる微妙な味の違いにやりがいを感じています。大きな味のぶれはないものの、手作りで作っているので樽一本一本によって味わいが違うのです」と話すのはこの道32年、工場長の荒家さんです。

丁寧に、一つ一つの工程を大事にしながら、細部にまで気を配り、仕込みを続けているそうです。

日下部味噌醤油醸造 工場長の荒家さん(左)と営業の中島さん
工場長の荒家さん(左)と営業の中島さん

香ばしく焼いて味わう「朴葉みそ」

日下部味噌醤油醸造 朴の葉の上に野菜や肉をのせて、添付のみそと味わう朴葉みそ
朴の葉の上に野菜や肉をのせて、添付のみそと味わう朴葉みそ

このみそを使った飛騨高山の郷土料理に「朴葉(ほおば)みそ」があります。

昔から山深いこの地では朴(ほお)の木がたくさんあり、山仕事の合間に落ち葉の上にみそをのせ、焼いて食べていました。

この郷土料理を全国で初めて商品化したのが角一。

葉の上にねぎやしいたけ、飛騨牛、ナッツなどをのせ炒めれば、ご飯のお供やお酒のアテに。

香ばしい朴葉の香りに、甘いみそのコクが重なる乙な味わいです。

日下部味噌醤油醸造 静謐で神聖な空気が漂うしょうゆ蔵
静謐で神聖な空気が漂うしょうゆ蔵

また昔ながらの醸造蔵では、しょうゆの発酵も行われています。

もろみの発酵、熟成を促すために機械で撹拌(かくはん)することもあるこの作業ですが、角一では荒家さんの手仕事。

かなりの力仕事でも、かい棒で一つ一つの桶をかき混ぜて回っているのです。

この地の名物である甘さを抑え、あっさりとしたしょうゆ味のみたらし団子にも角一のしょうゆが広く使用されています。

日下部味噌醬油醸造株式会社の店頭で(高度経済成長期の頃)
日下部味噌醬油醸造株式会社の店頭で(高度経済成長期の頃)

朴とつに、ゆっくりと、自然のままに。

盆地特有の夏と冬、そして昼夜の寒暖差が大きい飛騨高山で、季節の恵みを存分に受けた発酵食品。

毎日の食卓に取り入れれば、素朴な味わいと手作りの優しさがそっと体に染み渡ることでしょう。