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【木総・硬式野球部 五島卓道監督】成長するために、練習だけでは得られない大切なこと

高校球児の夢・甲子園で行われる、全国高等学校野球選手権大会が中止となった2020年。

木更津総合高校硬式野球部は、夏季・秋季両方の千葉県高等学校野球大会で見事優勝を果たしました。

無念の中、選手はどう立ち上がったのでしょう。

チームを率いる名将・五島監督に尋ね、見えてきたのは、選手たちを伸ばすために監督が大切にしている、練習だけでは得られない「あること」でした。

木更津総合高校硬式野球部・五島監督
▲名将・五島卓道監督に聞く

 

異例尽くしの年。絶望の中選手たちは何度も立ち上がった

2020年を語る五島卓道監督
▲異例尽くしだった2020年を語る監督

木更津総合高校硬式野球部監督に1998年の就任以来、9回の甲子園大会に導いた名将・五島卓道監督は、異例尽くしの2020年を「参っちゃったねえ」と苦笑いで振り返ります。

「まずは選手を(新型)コロナウイルスに感染させるわけにはいかなかったし、その他にも色々と、神経の使い方が例年と違うことが多かったね」

2020年春、新型コロナウイルス感染防止対策のため、県立学校の部活動に制限がかけられることとなり、同校野球部も対外試合が禁じられました。

「練習は試合のためにやっているんだからね。それに1回の試合で得られることはとても多い。試合が出来なかったのはチームとして非常に痛かった」と監督は言います。

それでも選手たちは、試合ができない日々を、夏の甲子園大会への準備期間と前向きにとらえ練習に励みました。

しかしそこへ、無情にも夏の甲子園大会中止の知らせが。

「選手はがっくりしていたよ。泣いている奴もいてね。何て声をかけたらいいか分からなかった。それでも『大会が無くても努力した事は変わらないし、一緒に努力した仲間もいる。この過程は無駄にはならない』と話したよ。それは本当の気持ちだけれど、やり切れなかった」

チームのエースで、2020年夏までキャプテンを務めた篠木健太郎選手は、当時をこう語ります。

木更津総合高校野球部・篠木選手
▲物静かな語り口が印象的だった篠木選手

「甲子園大会は、自分たち3年生最後の大会です。出場を目標にしていたので、その場がなくなったと聞き落ち込みました」

「でも監督が『甲子園大会が特別なのは3年生だけじゃない。出られなくて無念なのは1、2年生も同じなんだ』と仰っていたのを聞いて気持ちを切り替えました。夏の3年生の姿は後輩に残るんです。その場所が甲子園でなくても、後輩に見せられる姿を残そうと、3年生を集めて話しました」

その後、千葉県独自の夏季高等学校野球大会の開催が決定すると、選手たちは「優勝」という新たな目標に向かって練習に励みます。

そして迎えた無観客開催の夏季大会。

監督は大会を「声援がない中、自分を奮い立たせるのは大変だったと思う。応援の力は大きいね。でも、観客がいないから平常心でできた選手もいたから、悪いことばかりでもなかったかな」と振り返ります。

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▲2020夏季千葉県高等学校野球大会おめでとう!

「それに卒業生の山下(輝)が、所属している法政大で練習ができないので、うちで練習させて欲しいと相談してきたんだ。自転車で来るならいいよって許可を出したので(山下選手は木更津市在住)、山下の練習を選手が間近に見られたんだ。大学野球と高校野球ではレベルが全然違うから、うちの選手が皆、刺激を受けることができたのも思わぬ収穫だったね」

高校時代の山下選手(左)2017年、夏の甲子園出場を決めた祝勝会でのひとコマ
▲高校時代の山下選手(左端)2017年、夏の甲子園出場を決めた祝勝会でのひとコマ

プロ入りはゴールではない。長い人生の通過点

甲子園大会出場校に贈られるボール
▲甲子園大会出場校に贈られるボール

ちょっとためらいましたが、思い切って監督にある質問をぶつけました。

甲子園大会で繰り広げられる熱戦。そこで活躍する選手たちを見て、その才能が発見されることもあったでしょう。

ですが2020年、その機会が奪われたことによって、人生が変わってしまう選手もいたのではないでしょうか。

つまり、ドラフトに影響があったのでは、と。

「選手は試合で実力を発揮するから、それを見せる場がなかったのは事実だね。だからこそ各チームの監督は、選手の実力がきちんと評価されるように色々と働いていると思うよ」

2020年の夏「夏季千葉県高等学校野球大会」の記念ボール
▲2020年の夏も「夏季千葉県高等学校野球大会」として贈られました

そう話す監督は、しかしスカウトの声がかかる選手に対し、高校卒業後すぐにプロ入りする事を勧めません。

五島監督は、川崎製鉄神戸の社会人野球選手として活躍後、営業として働いた経歴を持ちます。

社会人を経験した監督は、プロ野球選手になる事が、人生のゴールではないと考えているのです。

「高校卒業後すぐプロの選手になるより、大学や社会人野球の経験を積んだ方が、その後の人生のためになるからね」

監督は言います。

「野球だけの世界で生きることは、生徒のためにならない、選手としての役目を終える日が来たとしても、その後に続く人生の方がずっと長い。野球は目的ではなく、教育の手段なんだ」と

卒業してからも、選手たちはずっと監督の教え子なのですね、と言うと「いやいや、卒業したら後は本人が頑張るしかない。僕が出来る事は何もない。一番の応援団になるだけだよ」と笑いました。

 

選手一人一人に目を配り、彼らの努力に報いたい

選手たちの練習を見るのが好きだという五島監督
▲選手たちの練習を見るのが好きだという五島監督

木更津総合高校硬式野球部は、1学年20人前後。

これは強豪校としては少ない人数です。

監督によると「それ以上になってしまったら僕の目が行き届かない」のだそう。

普段から選手の練習をグラウンドで見るのが好きだという監督は、練習中の選手の状態を見て、ポジションやチーム構成などを考えるのだといいます。

2020年のドラフトで、投手として楽天イーグルスに1位指名された卒業生の早川隆久選手は、実は入部時には外野手でした。

早川選手のピッチングの成長に気づき、すぐに投手に転向させることができたのも、普段から選手たちに目を配っていたからこそでした。

しかし、監督が重視するのは、選手の成績だけではありません。

2017年夏の甲子園大会。あの「全力校歌」がまた見られることを願って
▲2017年夏の甲子園大会。あの「全力校歌」がまた見られることを願って

2018年の夏の甲子園大会、第100回全国高校野球記念大会の年にキャプテンを務めた比護涼真選手は、2年生からベンチ入りしていますが、一度も公式戦に出た事はありません。

しかし監督は「比護は野球部に入るために毎日横須賀から2時間以上かけて通学し、誰よりも大きな声で練習していた。そういう姿をずっと見ていて、チームをまとめられるのはこいつしかいないと思った。努力する奴が輝ける場所を与えたかったんだ」と比護選手を大事な戦力として2年生からベンチ入りさせます。

そして控えからキャプテンとなった比護選手の「声」は仲間を鼓舞し、チームを見事にまとめ上げました。

その年の高校野球ファンに深い印象を残したという比護選手。

ベンチから大声を出し続けたその姿は、これからも多くのファンの心に残り続けることでしょう。

 

人のために時間を使えない人間は、成長できない

監督が指導にあたり、大切にしている事は「相手を思いやる心」だと言います。その監督は今年、篠木選手に対し、監督人生初の試みを行いました。

篠木選手
▲篠木選手

「僕は今まで、ピッチャーをキャプテンにしたことはなかったんだ。でも今回、初めてエースの篠木をキャプテンにした。篠木は努力していたけど結果を出せていなかった」

監督は続けてこう言いました。

「キャプテンを務めることで壁を超えて欲しかったんだね。篠木には『自分のためじゃなく、人のために時間を使え』と話したよ。誰かの練習を手伝ってやるでもいいし、教えてやるでもいい。それが気づきになったり、練習の復習になったりして、結局は自分の身になる。自分だけのために時間を使っているうちは、それ以上成長できないんだよ」

監督の言葉通り、やがて篠木選手は、チームを千葉県高等学校野球大会の優勝に導くエースへと成長します。

2016年、高校時代の早川選手(右)と、バッテリーを組んでいた大澤捕手
▲2016年、高校時代の早川選手(右)と、バッテリーを組んでいた大澤捕手

「(前出の)早川も、自分のランニングが終わった後、終わっていない仲間を迎えに行く選手だった」と監督。

「今年、早稲田大対法大戦に篠木たちを連れて観戦に行ったんだけれど、その時の早川が印象的だったね。自分のイニングが終わった後、すぐにマウンドを降りてベンチに戻るピッチャーが多い中、早川は必ずベンチ前で、戻ってくる野手たちを出迎えていたんだよ」

「聞けば昨夏日米野球の選手に選ばれた際、チームメイトになった明大・森下投手に『自分の投球が全てかもしれないけど、守ってくれる野手がいるから抑えられる。お前が気づかいをすれば、野手も頑張ってあげよう、という気持ちになる。野手に感謝を伝えるのも投手の仕事』だと言われて感動し、それからそうしているらしい」

「篠木は元々早川に憧れていたんだけれど、試合以上に野手を迎える姿に感じる所があったらしいね」

先輩の高い志は、こうして後輩たちに受け継がれていくのでしょう。

 

すべての頑張る人たちが報われる日を信じて

木更津総合高校硬式野球部 練習

冬本番を迎え、新型コロナウイルスは、再びじわりと感染数を増やしています。

2021年の甲子園大会についても、現在、開催できるかを断言できる人はいません。

そんな中でも木更津総合高校硬式野球部の選手たちは、前を向いて練習を続けています。

青春の全てを懸けた目標が、自分ではどうしようもない力で無くなってしまった2020年。

それでも選手たちは、目の前の最善に向かい黙々と努力を続けてきました。夏季・秋季両方の千葉県高等学校野球大会優勝の結果は、彼らのたゆまぬ努力の証に他なりません。

2020年、様々な部活動の大会や活動が中止になり、多くの学生が涙をのみました。

理不尽な状況に、ままならない思いをした人たちも大勢いたことでしょう。

今回、木更津総合高校硬式野球部を取材し、五島監督に話を伺うことで「困難はただの通過点。努力が報われるまで最善を尽くせば、得られるものはきっとある」と感じさせてくれました。

すべての努力する人たちが報われる日がくると信じ、努力する事を諦めないでほしい。

選手たちの戦う姿は、そう勇気を与えてくれるようでした。

 

この記事を書いた人

48歳で普通自動二輪免許を取得したへっぽこアラフィフ主婦ライダー。千葉は魅力的なライディングスポットがたくさん!取材と称してソロツーを楽しんでいます。【ブログ】https://ameblo.jp/ohana-hann/

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