千葉県習志野市出身、在住の小説家・清水晴木さん。累計6万部突破の『さよならの向う側』シリーズなど多数の執筆した小説の数々は千葉を舞台にしています。そんな清水晴木さんが著作と絡めて千葉の思い出をつづります。

| 清水晴木さん |
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| 1988年生まれ。東洋大学社会学部卒。2011年函館イルミナシオン映画祭第15回シナリオ大賞で最終選考に残る。2021年出版の『さよならの向う側』はテレビドラマ化して放送。『分岐駅まほろし』『旅立ちの日に』『17歳のビオトープ』など著作多数。 |
公開 2026/03/11(最終更新 2026/03/04)
金谷のアジフライ
私の作品の中に千葉の観光地を舞台にした『旅立ちの日に』という物語がある。

舞台は富津市の金谷。
春風亭という定食屋を営む親子の物語を中心に平成30年間の中の出会いと別れを描いた作品だ。
今回この作品を振り返ったのは、春風亭のモデルにしたレストラン波留菜亭が昨年11月に閉店したからである。
波留菜亭は東京湾フェリーを運行する金谷港の中にあるレストランで、広い店内はフェリーの乗客や、金谷を訪れる観光客の姿でにぎわっていることが多かった。
そしてなんといっても名物はアジフライ。
普段ならメインディッシュにはなりにくいこの料理が、ここでは一番の特別なメニューになる。
黄金アジフライと呼ばれる見た目の美しさそのまま、味は絶品だ。
私は金谷を訪れるたびに、このお店で全く同じメニューを食べ続けていた。
ここでアジフライを食べることが、金谷旅行の醍醐味だと思っていた。
小説を書くときに、自分が嫌いな場所を書くことはない。
この場所を気に入ったから舞台にした。
もう同じアジフライを食べられないのは寂しさがあるが、その前に作品に書いていて良かったと思う。
『旅立ちの日に』の中には変わりゆく景色を変わらない思い出にしようと写真を撮る青年が現れる。
「こうすれば一瞬を永遠にできるよ」そう言って数年前まで木更津市に残っていた、海に向かって電柱が連なって並ぶ江川海岸の光景を写真に撮るのだ。
小説も同じだろうか。
私も物語にすることで、変わりゆく目の前の一瞬を永遠にしようとしているだけなのかもしれない。
