「話してみる、伝えようとする、それだけで世界は変わる」。スケー トと共に、さまざまな文化圏で培ったコミュニケーション能力についてお話ししてくれました。

※画像は全て事務所提供

Profile
千葉県松戸市出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。元フィギュアスケートペア選手として活躍。2012年世界選手権では日本ペア初の表彰台となる銅メダルを獲得。2014年ソチオリンピック日本代表。2018年3月に引退し、その後はコーチングや解説、タレントとして活動中。7月18日スタートの中京テレビ「あすりーとHOLIDAY」(毎週土曜朝9:24~9:54)に、初のMCとして出演中!

公開 2026/09/30(最終更新 2026/09/30)

編集部 みんみん

編集部 みんみん

編集部所属 編集/ライター、千葉市在住。 コーヒーとハイボールとスポーツ観戦が好きです。 苦手なものは強風。

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成美さんはどんなお子さんでしたか?

すごくやんちゃでした。2歳上の姉のまねをして、姉の友達と一緒に遊ぶことが多かった。体を動かすのが好きでしたね。スケートも、先に習い始めた姉を追いかけて3歳から始めました。小学生になると、アイスリンクの上で大学生のお兄さんたちに「遊ぼう!」と話しかけていたくらいなので、人見知りもしない子どもだったようです。

成美さんはさまざまな言語を身に付けられましたが、どのようにゼロから習得されたのでしょう

親の仕事の関係で9歳から約5年間中国で暮らしました。最初は、スケートの練習場で技が成功したら拍手し合うといった言葉のいらない交流が仲間との接点でしたね。日々先生の言葉を「理解したい」という強い動機があったことが、言語習得の大きな原動力になりました。週3で家庭教師から中国語の基礎的な部分をインプット、そして毎日5時間の練習の中で実践的なアウトプットを。これを繰り返して身に付けていった感じです。

英語に関しては小学2年生の頃に、日本の英会話教室に通った経験もありますが、実際に使い始めたのは小学6年生くらいからで、インターナショナルスクールに通い始めたのがきっかけです。「Let’s play together(一緒に遊ぼう)!」が初めて使った英語でした。当時はもうそればかりでみんなとバスケをしたり、サッカーをしたり。コミュニケーションに言葉が付いてくる感覚です。覚えた言葉を使うというより、使いたい言葉を調べて使っていました。そうすると、表現にだんだん枝葉が付いてきて、気付いたらスピーチができるくらいになっていましたね。

外国語習得やコミュニケーションで苦労した経験は?どう克服しましたか?

高校2年生から5年間、カナダにわたりました。生活をしたケベック州はさまざまな文化が入り交じる、想定外にもフランス語圏! さらに大家さんはイタリア語を話すといった、英語が伝わらない場面がたくさんありました。でも、ここで暮らす上でどうしても譲れないこと(インフラの手続きなど)はしっかり通さなくちゃと思ったんですね。ジェスチャーなども交え、諦めず伝える姿勢で日々乗り越えました。「伝えたい」という強い気持ちが大事です!

ペア競技では国籍も文化も違うパートナーとも活躍されました。関係構築のために意識していたことはありますか?

「受け入れること」ですね。自分を受け入れてもらうためにまず相手を受け入れる。練習方法や時間の使い方など文化の違いに対して歩み寄ることでさまざまな発見があり、結果バランスの良い練習ができました。たとえば、日本の選手は体の動きを自然にするために氷上に長くいることを大切にしますが、ヨーロッパの選手は練習時間を短く区切って集中することで自分のスケートを作り上げていく。疲れていないのに昼寝をしたり。それで私も一緒に昼寝をしてみたら、次にリンクの上に立った時のリフレッシュ感がとても印象的だった。そうやって歩み寄ったことで、相手も「もう少し練習しようか」などと私の気持ちもくんでくれるようになりました。

あとは食文化。同じ物を作って食べることで互いの理解が深まったことも。苦手だったビーツを使ったボルシチを一緒に作って食べたら想像以上においしかった。逆に日本料理を教えたりもしましたね。

この辺にも言語習得との共通点があって、「楽しみながら学ぶ」ってこと。もちろん基礎は必要ですが、その後いかに能動的に夢中になって学ぶかが吸収しやすく効果的だと思います。

成美さんは、現在何カ国語のスキルをお持ちなのでしょう?

現在は日本語・英語・中国語がメインになりますが、学生の頃にフランス語・スペイン語・ロシア語・韓国語も勉強しました。フランス語はカナダ滞在時に現地の高校に通っていたので、そこで日常的に習得しました。スペイン語は小学6年生から通っていたインターナショナルスクールの第二言語。また、2018年の平昌(ピョンチャン)オリンピック代表を目指し、イメージをつかむためにその2年前から大学で韓国語の授業を選択して学びました。ロシア語に関しては、スケートの有名なコーチや振付師がロシアに多くて。母国語で話しかけるとオープンに接してくれる感覚があったのと、半年ほどロシアの選手とペアを組んだこともあり学びました。

習得の秘訣や成美さんの勉強方法を教えて下さい

私、モチベーション(思いや目的)が先なんですよ。人とコミュニケーションを取ることが好きなので、話すための「手段」として必要。勉強自体は全然好きじゃないんです(笑)。でも、「減量したいから走る!」みたいな、確固たる目的があるから続けられる、そんなタイプです。

テキスト通りにやるのは苦手でなかなか自分事にならない。それよりは、その場その場で必要な言葉を学んでいく。常に電子辞書を持ち歩いていて、「これは外国語だったら何ていうんだろう」とすぐその場で調べる、一日を振り返ってみて「あの時言いたかったこと」を調べる。そうすると明日もその言葉を使いたくなる。そんな風に身近なところから広げていきました。

「調べる」「使う」を反復するのが言語習得のコツなんですね!

やっぱり秘訣って話すことだと思うんですけど、みんなと同じ勉強をしていると100学んだうちの10くらいしか話せていない。むしろ自分が話したいことの「10」を積み重ねていって「100」にした方が実用的だし、話す機会が増える。それが結果的に足し算ではなく掛け算になってスキルが上がっていくと思います。

ミラノ冬季オリンピックでの名解説も話題になりました。解説のお仕事では「伝える」ということに対して、どのような点を意識していますか?

たくさんありますが…まずは話すポイントを取捨選択しています。限られた中での解説は、いろいろ言い過ぎても視聴者を混乱させます。まずは興味を引ける分かりやすいところを伝えるように。そして、目の前の技についての難易度や良し悪し。この辺もはっきり伝えるようにしています。

あとは、競技経験のない人が想像できるものに置き換えて解説するというところですね。例えばペア競技の「息を合わせる」ことは、普段の生活で「声を合わせる」ことくらい難しいことをしているんですよ、という感じに。

複数の選手を比較しなくてはならないシーンでは、選手たちにネガティブな言葉を使わないように、未来に期待が持てる伝え方をすること。本人が後から私の解説を聞いたときに、嫌な気持ちにならないような言葉選びを心がけています。

ミラノ五輪で解説をする高橋さん
ミラノ五輪で解説をする高橋さん

翻訳アプリやAIが進化する時代ですが、それでも人が語学を学ぶ意味はどこにあると思いますか?

私も翻訳機があればもう学ばなくていいかなと思うこともあるんですが、でも言葉ってそれぞれの国の文化がすごく反映されているんです。日本語にはない感情表現が他の言語にはあったり、その逆もあったりして。日本の「侘び寂び」みたいな。例えば、遠征から帰って来た選手に日本でかける言葉には「お疲れ様」、優勝した時には「おめでとう」なんていう使い分けがあるんですが、アメリカだとどんな結果であっても「Congratulations!(おめでとう)」で選手を迎える。このポジティブな声がけが、選手のメンタルの強さを支えているんだなって。

そして、その国の言語を学ぶことが相手の文化の理解につながり、リスペクトの姿勢として直接的に伝わりやすいとも感じています。相手の文化を学んでいるという姿勢を一番体現できるのが、「自分の言葉で話す」ということ。

私もペアパートナーに通訳をしていた時期があったんです。先生の言葉を、私を通して伝える。ただ、それだと先生とペアパートナーとの信頼関係が発展していかないんですよね。だから自分は、片言でもいいから自分の言葉で伝えに行って心をつなぎたい。信頼関係って、直接的な言葉のキャッチボールで出来上がっている部分もあると思いますので。

成美さんにとって語学を学ぶ楽しさとは?

「こんな言い方あるんだ」ってうれしくなったり、言葉が伝わってその人とつながることに尊さを感じたりするところ。日本人同士だと齟齬なく会話できるこの状況が当たり前になっていますが、実はそれってすごく奇跡的で幸せなことだなって感謝することができる。外国語を学べば学ぶほど日本人同士の会話がより価値のあるものに感じる。そこが結構楽しいかなって思います。

これから新たに学んでみたい外国語はありますか? 

正直、7カ国語の内の4言語は忘れてきてしまっている部分もあるのでしっかり底上げしたいですね。新たにってなると、そうですね…アラブの言葉かな。これまであまり関わることがなかったので、その地域の言語を学んだ時にどんな発見があって世界がどう変わって見えるのだろう、というところに興味があります!

成美さんの今後の夢や目標を教えて下さい

今もこの先も、自由に自分らしくありたい。今、何かを選択するときは「自分らしくあれる方」を選んでいます。それをするためには、時にはステータスが必要になってくることもあるので、そのためにはどんな努力もするし、目の前のことを全力でやり続けたいと思っています。キャリア的な目標は、スポーツ庁長官になって日本の「体育の概念」を変えることです!

高橋成美さん、ありがとうございました。これからも応援しています!